湊かなえ『落日』あらすじとネタバレ感想!十五年前に起きた事件の真実が浮かび上がる
新人脚本家の甲斐千尋は、新進気鋭の映画監督長谷部香から、新作の相談を受けた。『笹塚町一家殺害事件』引きこもりの男性が高校生の妹を自宅で刺殺後、放火して両親も死に至らしめた。15年前に起きた、判決も確定しているこの事件を手がけたいという。笹塚町は千尋の生まれ故郷だった。この事件を、香は何故撮りたいのか。千尋はどう向き合うのか。“真実”とは、“救い”とは、そして、“表現する”ということは。絶望の深淵を見た人々の祈りと再生の物語。
「BOOK」データベースより
落日、と聞くと、僕は栄えている何かが没落するようなイメージを持ってしまうので、本書についてもそんな物語と思って読み始めました。
ところが、読み進めるにつれて事件の全貌が明らかになるとともに、それをもとにした脚本が未来に繋がる光を演出していて、タイトルには違った意味が込められていたことにようやく気が付くことができました。
またWOWOWで連続ドラマ化されることが決まり、9月放送、配信予定です。
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この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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タイトルの意味
内容に入る前に、タイトルの意味について解説します。
冒頭、僕は『没落』という意味合いで捉えていましたが、実際には『再生』という意味合いが込められています。
日が沈むからこそ、また昇って新しい一日が始まる。
湊さんは本書を読んで、『落日』という言葉に対して違ったイメージを持ってもらえたら嬉しいと話しています。
また風景としての落日の意味も込められていて、その美しさも表現されています。
詳細については本書に関する湊さんへのインタビューに掲載されているので、合わせてご覧ください。
あらすじ
脚本の依頼
本書の主人公は、脚本家の甲斐千尋。
本名は甲斐真尋で、姉である千穂の才能にあやかろうと一文字もらってペンネームをつけました。
真尋は有名な脚本家である大畠凛子のもとで脚本を書き、それをもとにした作品がヒットしたこともありますが、その後は作品に恵まれず鳴かず飛ばずでした。
そんなある日、長谷部香という映画監督から新作の脚本の依頼が入ります。
相手はニュースで見かけるほど評判の高い映画監督なのに、なぜ凛子ではなく自分なのか。
疑問に思いながらも真尋は香に会いますが、依頼を切り出されてすぐに自分が指名された理由を察します。
香は、十五年前に起きた笹塚町一家殺害事件を次の作品で取り上げたいと考えていました。
笹塚町一家殺害事件
笹塚町。
それは香が三年ほど住んでいた町で、幼稚園では千穂の同級生でした。
事件が起きた時には香は町を離れていたため、事件当時に町に住んでいた人物を探していたというわけです。
当時、真尋は中学二年生で、事件が起きたのは立石家。
立石家には二人の子どもがいて、兄の力輝斗が妹の沙良を刺し殺し、家に火をつけて両親も殺害したました。
はじめは力輝斗が引きこもりで人間的に問題があるという風潮でしたが、やがて沙良に虚言癖があるという話が流れると一転、殺害されても仕方ないという論調に変わっていきました。
精神鑑定の結果、力輝斗には責任能力があったという判断になり、すでに死刑を言い渡されていて、世間的には終わった事件とされています。
香が知りたがっているのは、沙良のことでした。
かつて香は沙良の家の隣に住んでいて、親の虐待でベランダに出されている時、仕切り板越しにコミュニケーションをとり、お互いを支えていたのだといいます。
香の知っている沙良と報道されている彼女にはあまりにギャップがあり、真実が知りたいというのが香の本心です。
真尋は気が進まないながらにも一緒に事件をもう一度調べることになり、やがて報道にはない真実を見つけます。
香の過去
事件を調べる現在と並行して、香の過去が描かれます。
笹塚町を離れ、どんな子ども時代を過ごし、どうして映画監督を目指すことになったのか。
このパートがあることによって香の求めるものがより鮮明に見えてきます。
注意点として、過去は香、現在は真尋と視点が異なっていることが挙げられます。
それを考慮して読み分けないと、それぞれの抱える感情がごちゃごちゃになって物語の流れが分からなくなってしまうので、ご注意ください。
感想
様々な角度から見ることによる違い
本書は世間的にすでに決着のついた事件を改めて調べるところから始まります。
十五年も経っているため記憶がそれぞれの思うように塗り替えられていて、何が嘘で何が真実なのかを見極めることは容易ではありません。
真尋は様々な人の話を聞いて、その断片をピースのようにつなぎ合わせることで一つの真実を浮かび上がらせます。
この過程が非常に面白く、知りたいという欲求が満たされるとこんなにも満足できるのだと改めて感じました。
最後に真尋が脚本という形で事件の全貌を明らかにしてくれるので、物語を整理しやすいのも良い点でした。
再生までの道のり
真尋、香それぞれが問題を抱え、悩んでいます。
特に真尋は脚本家として生き残れるかどうかの瀬戸際にいて、このままいけば絶望に向かって落ちていくだけです。
事件を知ることは香にとって救い、あるいは一つの区切りになりますが、真尋にとっても脚本家としての真価が試される分岐点となります。
真実を知って、それをどう表現するのか。
湊さんがタイトルに込めた『落日』とあるように、没落でなく明日に繋がる美しい落日が最後に浮かぶような結末で、再生までの道のりをきっちり描き切った作品だと思います。
中盤で評価が分かれる
物語のフック、綺麗なラストについては文句のつけようがなく、最高でした。
一方で、中盤の中だるみにも感じられる物語の停滞部分は人によって評価が分かれると思います。
正直、僕はこの物語であればもっとボリュームを減らして、その分、テンポ良く読みたかったと思わずにはいられませんでした。
その部分がなくても物語は成立したのでは?と思う箇所もいくつかあります。
一方で、そこまで背景をしっかり描き切ったからこそ、真尋や香が迎える結末を見届けることができたという解釈もあります。
この辺りについては、ぜひ実際に読んであなたの目でジャッジしてみてください。
おわりに
一つの小説というだけでなく、湊さんの今後の作家生活に対する決意、あるいは希望のようなものも込められている気がします。
それくらい壮大で、読み応えのある一冊でした。
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