太宰治『人間失格』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
「恥の多い生涯を送って来ました。自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです」青森の大地主の息子であり、廃人同様のモルヒネ中毒患者だった大庭葉蔵の手記を借りて、自己の生涯を壮絶な作品に昇華させた太宰文学の代表作品。「いまは自分には、幸福も不幸もありません。ただ、一さいは過ぎて行きます」ほかに、家族の幸福を願いながら、自らの手で崩壊させる苦悩を描いた「桜桃」も収録。
「BOOK」データベースより
太宰治が死の直前に完成させたのが本書で、累計1,200万部以上を売り上げ、夏目漱石の『こころ』と歴代ベストセラーで一、二を争う作品でもあります。
本書の誕生秘話を映画化した『人間失格 太宰治と3人の女たち』も話題になりました。
本書では主人公である男の人生を描いていますが、終盤になぜタイトルが『人間失格』なのかが明かされます。
長すぎないちょうど良いページ数で、気負わずに読むことができます。
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いています。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
はしがき
主人公ではない『私』が、主人公である大庭葉蔵の写る写真を三枚持っていて、その様子を語ります。
一枚目は葉蔵の幼少期で、可愛らしさの中にイヤな薄気味悪いものが感じられます。
二枚目は葉蔵の学生時代で、高校生か大学生と推定されます。
幼少期から変貌し、おそろしい美貌にもかかわらず生きている人間の感じがしませんでした。
そして三枚目ですが、それは最も奇怪なもので、いつの写真かは分かりませんが不吉なにおいのする写真でした。
第一の手記
ここからは葉蔵の手記となります。
幼い頃の葉蔵は周囲の人間の考えていることが分からず、人間の営みというものがまるで分かっていませんでした。
人間を極度に恐れる一方で、繋がりを断ち切ることもできない。
そこで葉蔵は道化を演じることで辛うじて他者と繋がりますが、それゆえに自分の本心を誰にも言うことができませんでした。
また自分の演技がバレたらどうしようと恐怖し、これが後の『恥の多い生涯』の原因となります。
第二の手記
葉蔵は中学に上がり、道化を演じることですぐに人気者になります。
故郷を出たことで以前よりずっと気楽になり、道化もこの頃にはかなり身についていました。
完璧に正体を隠蔽できたと思う葉蔵ですが、ある時、クラスメイトの竹一にわざと道化を演じていることを見破られてしまいます。
葉蔵はそのことをバラされないために、竹一の唯一無二の親友になることを決意。
竹一と付き合っていく中で、『女に惚れられる』、『偉い画家になる』と予言をもらいます。
葉蔵はこの二つの予言を胸にしまい、東京に出ます。
高校に通いながら画塾にも通う葉蔵。
画塾で、葉蔵は六つ年上の堀木正雄と知り合い、酒と煙草と淫売婦と質屋と左翼思想を教えられます。
堀木が進んで道化を演じてくれることで、葉蔵はずいぶん気が楽になり、また酒、煙草、淫売婦が一時でも恐怖を紛らわしてくれることに気が付きます。
左翼思想も含めて非合法に楽しみを見つけた葉蔵は次第に学校を休むようになり、それが実家にバレて小遣いを減らされてしまいます。
一方でその頃、葉蔵は銀座のカフェの女給・ツネ子に親近感を抱くようになります。
ツネ子は人間としての営みに疲れ切っていて、やがて葉蔵もそれを実感。
二人で鎌倉の海で入水自殺を試みますが、ツネ子だけが死に、葉蔵は生き残ってしまいました。
葉蔵は自殺幇助罪を問われますが起訴猶予となり、父の知人であるヒラメに引き取られるのでした。
第三の手記
葉蔵は竹一の予言について、『惚れられる』という不名誉な方が当たり、『偉い画家になる』という方が外れたことを記しています。
高校からは追放され、ヒラメからは再び自殺をする恐れがあると外出禁止を言い渡されていました。
ある日、ヒラメにこれからどうするのかと説教され、葉蔵はヒラメの家から逃げ出します。
行く当てのない葉蔵は堀木をたずね、そこで雑誌社の記者・シヅ子と出会います。
シヅ子は夫と死別し、五歳になる娘・シゲ子と二人で暮らしていて、葉蔵はシヅ子の家に転がり込みます。
彼女の計らいで葉蔵は漫画を描くことになり、それなりに人気が出ます。
しかし、葉蔵は幸せな母子の邪魔をしてはいけないと思い、シヅ子のアパートを出て今度は京橋のスタンド・バーのマダムのところに転がり込みます。
葉蔵は次第に世の中がそこまで恐ろしい所ではないと思うようになり、そんな生活が一年近く続きました。
その後、向かいの煙草屋の娘・ヨシ子と親しくなり、彼女と結婚することを決めます。
二人は一緒に暮らし始めますが、幸せにはなれませんでした。
ある時、人を疑うことを知らないヨシ子が、家を訪れた商人に犯されてしまったのです。
それ以来、ヨシ子の無垢の信頼心は失われ、葉蔵の行動の一つ一つに気を遣うようになってしまいます。
葉蔵はどうしていいか分からず、酒に溺れるしかありませんでした。
そんなある日、葉蔵はヨシ子が隠していた大量の睡眠薬を見つけ、自殺を試みます。
三昼夜意識を失いますが、それでも死に切れませんでした。
自殺未遂によって状況はさらに悪化し、葉蔵は麻薬にも溺れてしまいます。
死にたいと思いつめても、気が付けば仕事をしては薬の量ばかり増え、その請求額に涙を流す。
それは、まさに地獄でした。
周囲の人間たちは見かねて、葉蔵をとある場所に連れて行きます。
葉蔵はサナトリアム(療養所)に連れて行かれるとばかり思っていましたが、連れて行かれたのは脳病院でした。
葉蔵は、自分は狂っていないと思いつつも、ここに連れてこられたのは自分が狂人だからだと思い、自分は人間失格だと悟るのでした。
もはや完全に人間ではないと。
父親が亡くなると葉蔵は長兄に引き取られ、海辺の温泉地の外れで暮らしました。
今の葉蔵に幸福も不幸もなく、ただ一切は過ぎていくと、たった一つの心理に身を委ねるのでした。
あとがき
『はしがき』にも登場した私と、手記に登場した京橋のバーのマダムのやりとりが描かれます。
マダムは三つの手記と三枚の写真を、何か小説の材料になるかもしれないと私に渡します。
手記には昔のことが書かれていて、葉蔵の生死は分かりません。
マダムは葉蔵ではなく父親が悪かったのだと葉蔵をかばい、素直でよく気が利いて、例え酒を飲んだとしても神様みたいないい子だったといいます。
葉蔵は自分を人間失格だと断じた一方で、マダムの評価は真逆でした。
このことから人間の価値は人によって違うことが分かり、だからこそ自分に絶望してしまった葉蔵の不幸が際立つ結末となりました。
おわりに
生まれついての悪ではない葉蔵ですが、人間の気持ちが理解できないがゆえに苦しみ、救いを求めてさらに苦しむ様子が目に浮かぶような作品でした。
令和という時代に入って読んでも全く色あせない名作なので、ぜひ一度読んでみてください。
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