ホラー
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『真夜中のたずねびと』あらすじとネタバレ感想!真夜中がテーマの怪奇譚

harutoautumn
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言葉を失った震災孤児の少女アキ。空き家を転々とする中で、彼女は占い師の老婆と出会い、共に暮らすことに。アキのことを「天使」と呼ぶ老婆は言った――ある岩穴に封印したそれをとってきて欲しい、と。探し辿り着いた場所で、アキは死者の声を聞く……。平穏な日々を突如として切り裂く、災害、事故、そして底知れぬ悪意。人探しの探偵へと成長したアキに導かれ、真夜中に呑まれた者たちの現代奇譚。(解説・朝宮運河)

Amazon商品ページより

真夜中がテーマとなった怪奇譚である本書。

単なる短編集というよりも、いくつかの物語で登場人物が共通していたり、様々な事情を抱えた人たちがさまよったりと、作品としてまとまりがあります。

ホラーということで怖いことは怖いのですが、どこか寂しさや儚さが含まれていて、恒川光太郎さんならではの魅力が詰まっています。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

ずっと昔、あなたと二人で

主人公のアキは小学校高学年から中学生くらいの年齢で、一年前から空き家を見つけては、一時的に寝泊まりしてまた出ていくという生活を繰り返していました。

そんなある日、白い空き家で眠って起きると、キッチンに老婆がいて驚きます。

普通であればすぐに逃げるところですが、老婆はアキを追い出すでもなく、彼女を天使といい、ここから二人の生活が始まります。

アキは言葉を話すことができませんが、老婆の手伝いをして、この生活を居心地よく感じるようになります。

そんな時、老婆からのお願いが奇妙になり始めます。

母の肖像

河合一馬のもとに、人探しを専門にしている咲島秋が現れ、彼の母親である美智香が彼を探していることを伝えます。

理由は教えてもらえませんが、一馬からしたら縁が切れているようなもので、会う理由はありません。

なにしろ父親は殺人者、母親は父親に依存したダメな人で、家庭崩壊といって差し支えなかったからです。

一馬は考えた末、母親と会うことになりますが、そこで告げられたのは驚きの事実でした。

やがて夕暮れが夜に

津垣みつるは高校生の時、松葉太という年下の少年から金を巻き上げていましたが、エリオという少年の登場によって敗北を喫します。

頭に血が上ったみつるは、エリオを持っていたナイフで刺殺。

みつるは逮捕されることになり、彼の姉・あかりをはじめとした家族の生活は激変します。

当たり前に思えた家族の未来は奪われ、大切な人の命を奪った殺人者の家族としてバッシングを受け、家族はついに解散して別々に暮らすことになります。

この物語はその後、あかり目線で進行します。

さまよえる絵描きが、森へ

『母の肖像』に登場した一馬が再び主人公となった物語。

彼はワンボックスカーで一人旅をしていました。

ある時、青森のゲストハウスである男性と知り合い、別れ際に連絡先を交換します。

『KEN』という登録名の彼は、唐突に自分の人生を語ります。

はじめは自分の生い立ちからで、やがて一馬だけでしまっておくには耐えられないようなことまで打ち明け始めます。

真夜中の秘密

藤島泰人は、群馬県の山間部にある谷間の家を相続することになり、レンタル民家を始めます。

これがそれなりにヒットし、順風満帆に思えました。

そんなある日の深夜、山肌に車の明かりが見え、何か予感がして近づきます。

そこには女性がいて、シャベルで穴を掘っていたので声を掛けます。

女性は泰人の家で事情を話しますが、彼の予想通り、彼女は死体を埋めに来ていたのでした。

感想

人に訪れる夜

それぞれの物語の主人公は、訪れた夜に不安を抱えています。

本人に非はなく、生まれた環境や偶然が引き寄せてしまった結果です。

この理不尽は人生そのもので、きれいごとでは済まない厳しいものを感じました。

一方で、一般常識から外れることで主人公たちは自由を獲得し、夜の中で精一杯生きます。

明けない夜はない。

そんなメッセージも詰まっているようで、読了感は不思議と前向きでした。

夜を過ごす人に読んでほしい

恒川さんの作品に共通していえることですが、どうにもできない不安や恐怖を描きつつも、それを優しく吹き飛ばしてくれるような爽やかも備えています。

いうなれば、嫌なことを拭ってくれるそよ風でしょうか。

今、夜を過ごしている人が読むことによって、その不安が共有され、少しだけでも拭えるかもしれません。

だから強いて誰かにオススメするのであれば、そんな不安を感じている人に本書を読んでほしいです。

おわりに

現実的な物語に、ちょっとだけファンタジー要素が入り込む。

恒川さんの新たな境地を開拓した一冊だったように思います。

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