『火刑都市』あらすじとネタバレ感想!謎の放火に見え隠れする女の影を追うミステリ
東京都内の雑居ビルの放火事件で、若い男性ガードマンが焼死する。不審死の疑いが強く、警察が捜査を始めると、ガードマンには婚約者らしき女の影が。女の行方を追うさなか、あらたに赤坂のホテルが放火され、現場には“東亰”と不可解な文字が残されていた。都市論を巧みに織り込んだ社会派ミステリーの傑作。
「BOOK」データベースより
島田荘子さんによる社会派ミステリである本書。
一つの放火事件から容疑者として一人の女性が浮かび上がりますが、なかなかそこに辿り着くことができません。
やっと辿り着いたと思ったら事件への関与が認められず、すでにここまででかなり面白いです。
しかし、本書の面白さはここからが本番で、こんなにのめり込めた読書は久しぶりでした。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
放火事件
昭和五十七年、四谷のビルで放火と思われる事故が発生します。
現場から土屋昌利というガードマンの死体が発見されますが、外傷がないことから警察はこれを事故と考えます。
そんな中で、刑事の中村は土屋のかばんに普段入っていない睡眠薬に引っかかりを覚え、聞き込みをします。
土屋にはほとんと交友関係がありませんでしたが、唯一、彼の交際相手らしき女性がいることが判明し、中村はその女性を追います。
女性の影
その女性は婚約者であることが分かりますが、土屋と同じアパートで一緒に暮らしているはずの彼女は姿を消していました。
逃げたことは明らかでした。
火事の知らせを受けてからでは間に合わないことからも、この女性が放火に関係している疑いが強まります。
女性の痕跡がほとんど消し去られた中で、中村は『寒子』という名前らしき文字、東北のものらしき訛りを頼りに、顔も知らない女性を追い続けます。
振り出し
懸命の捜査の末、中村はついに土屋の婚約者を見つけます。
これで事件が解決したかのように思えましたが、ここで大きな誤算がありました。
女性にはアリバイがあったのです。
これでは中村にどうすることもできず、女性を放っておくしかありませんでした。
結局、土屋が死んだ放火は事故だったのか。
そう思おうとした矢先、次の事件が起きます。
ここにも女性は関係していて、中村は混乱の中、事件と女性の関係を追っていくことになります。
感想
先の読めない展開
本書のまず良いところは、事件に明らかに関与している容疑者には明確なアリバイがあり、手出しできないことです。
見つけるまでにかなりの苦労しただけに、アリバイが見つかった時の中村の脱力感を考えると、相当なものだと思います。
その後も事件は続き、容疑者は変わらず関係していそうなのに、詰め切ることができない。
共犯者がいるとして、それは誰なのか。
どんな目的で事件を立て続けに起こしているのか。
ページを追うごとにヒントとなるピースは集まっていき、それが最後に収束して事件の全貌を表した時の解放感、快感は最高でした。
事件の背景
本書は社会派ミステリということで、事件の背景にはその時代の持つ負の部分、事件を起こすだけの相応の理由があります。
犯罪を正当化する理由なんて存在しないことは百も承知ですが、それでも犯人に同情せずにはいられない。
この強い感情の揺さぶりこそが最大の魅力だと思っていて、その点を著者の島田さんは見事に描き切っています。
島田さんの著作というと、僕は御手洗潔シリーズくらいしか読んだことがなかったので、こんな作品も書けてしまうのか、と失礼ながらも驚いてしまいました。
今読むと、人にとって時代背景の違いから古臭いと感じるのかもしれません。
しかし、いつの時代にも人が生活していて、そこには血が通っています。
自分がもし、そんな立場にいたら心を強く保って生きていけるだろうか。
道を踏み外し、戻れないところまで行ってしまわないだろうか。
そんな問いかけを繰り返しながら読むと、時代が流れても変わることのない魅力に気が付けるのではないかと思います。
おわりに
読み進めると分かるタイトルの意味。
最初から最後まで完璧で、ここまで満足度の高い読書は久しぶりです。
社会派ミステリが好きという人にはぜひオススメしたい一冊です。
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