小説

柳美里『JR上野駅公園口』あらすじとネタバレ感想!一人の男の人生が映し出す日本の光と闇

一九三三年、私は「天皇」と同じ日に生まれた―東京オリンピックの前年、男は出稼ぎのために上野駅に降り立った。そして男は彷徨い続ける、生者と死者が共存するこの国を。高度経済成長期の中、その象徴ともいえる「上野」を舞台に、福島県相馬郡(現・南相馬市)出身の一人の男の生涯を通じて描かれる死者への祈り、そして日本の光と闇…。「帰る場所を失くしてしまったすべての人たち」へ柳美里が贈る傑作小説。

「BOOK」データベースより

単行本としては2014年に発刊された本書ですが、2020年にアメリカで最も権威のある文学賞の一つ『全米図書賞(翻訳文学部門)』を受賞し、再び注目を集めました。

僕は平積みされているところを見つけて注目の新作か?と思って手にとったので、ちょっと驚きました。

普段あまり読まないジャンルで、本書全体を覆う虚しさが読んでいて苦しくもありましたが、馴染みのある上野駅が舞台ということで何とか踏みとどまることが出来ました。

食わず嫌いはやめようと最後まで読んだことで新たな気付きも多かったので、貴重な出会いだったと思います。

本書に関する柳美里さんへのインタビューはこちら。

「どうしたら死ねるだろうかと思いながら書いていた」喪失を描く作家・柳美里の言葉

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

上野駅

本書の舞台となるJR上野駅。

北口の玄関と呼ばれ、高度経済成長期には常磐線や東北本線に乗って出稼ぎや集団面接のためにやってくる東北の若者たちが最初に降り立つのが上野駅でした。

また、帰省する時に汽車に乗り込むのも上野駅で、特に東北の人たちにとっては特別な場所です。

そんな場所ゆえに、上野恩賜公園のホームレスは東北出身者が多いそうです。

本書では、福島県相馬郡(今の南相馬市)出身の男性の生涯が描かれています。

一人の男の人生

主人公の男性は様々な出稼ぎを経験し、弟たちの学費や子どもを養うために東京に出稼ぎに出ることを決意します。

そこで降り立ったのが上野でした。

当時、東京オリンピックによる需要で仕事はいくらでもありましたが、家族で過ごす時間はほとんどなく、子どもの顔すらろくに覚えていません。

それが当たり前になっていた男性にとって不満なことではありませんでしたが、無情な出来事が次々に襲い、次第に男性は人生に虚しさを感じていきます。

オリンピックという希望の象徴のようなイベントの裏に隠された闇。

それは2020年に開催を予定していた東京オリンピックにも当てはまることで、本書を通して次第に現代日本の光と闇が見えてきます。

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感想

馴染みの場所を見る目が変わった

僕にとって、上野駅は馴染みのある場所です。

残念ながら公園口は数度しか利用したことがありませんが、銀座線からJR
に乗り換えようと中央改札に向かう途中に複数人のホームレスをよく見かけていました。

どういう経緯があってホームレスになったのか。

なぜ上野駅を選んだのか。

そんな疑問を抱いたことはありましたが、まさか一つの答えをこんな形で得るとは思いもよりませんでした。

日常のように、当たり前のように上野駅を利用する人たちとホームレスが共存していますが、見えている景色が違うのは明らかで、まさに光と闇です。

本書は様々な描写が入り乱れ、決して順序立てて読める作品ではありません。

しかし、表現一つ一つに凄みがあり、まるで家を失って帰る当てがなくなってしまったような途方もない絶望を抱きました。

帯に全世界が感動したと書いていますが、僕のこの感情はいわゆる感動とはかけ離れていることは間違いありません。

久しぶりにつまらない、ではなくしんどくて途中で読むのをやめたくなりました。

虚しさが辛かった

柳さんのインタビューを読んで、本書執筆時の彼女の精神状態がどれだけどん底なのかがよく分かりました。

それを知ってから本書を読み返すと、主人公の男性の絶望すら通り越した空っぽな感情、意識と周囲を飛び交う音が混ざり合う曖昧な精神状態がより辛く感じました。

大人になってある程度すれば、努力すれば幸せになれる、なんてことがただの嘘であることはすぐに分かります。

運が悪いだけで、幸せになれずにどん底に沈むことだってあります。

分かってはいました。

しかし、実際に本書を読んで、その当たり前のことを目の当たりにした時、こんなひどい人生はあんまりだと辛くてたまりませんでした。

誰もが無意識に目をそらしてきたことに目を向ける必要はあるのかもしれません。

本書は誰もが見ようとしない部分を描いているわけですが、僕にはそれがしんどくて、何度か途中で読むのをやめようと思いました。

他にはない圧倒的なものを持つ本書ですが、誰もが賞賛を送れる作品でないことは確かです。

そして、本書がいけないという意味ではなく、僕には合っていなかったのだとこの記事を書いていて改めて思います。

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おわりに

自分の知らない世界を強烈に見せつけられ、これまで感じたことのなかった様々な感情が生まれました。

それでも僕には合わなかったし、柳さんの作品をしばらくは無理そうです。

しかし、他の著書で読みたいと思える作品がいくつもあったので、この出会いを活かして時間を置いてからチャレンジしてみたいと思います。