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森絵都『みかづき』あらすじとネタバレ感想!親子三代にわたる教育と絆の物語

昭和36年。小学校用務員の大島吾郎は、勉強を教えていた児童の母親、赤坂千明に誘われ、ともに学習塾を立ち上げる。女手ひとつで娘を育てる千明と結婚し、家族になった吾郎。ベビーブームと経済成長を背景に、塾も順調に成長してゆくが、予期せぬ波瀾がふたりを襲い―。山あり谷あり涙あり。昭和~平成の塾業界を舞台に、三世代にわたって奮闘を続ける家族の感動巨編! 

「BOOK」データベースより

森絵都さんの新たな代表作といっても差し支えないほどの名作で、第12回中央公論文芸賞を受賞しています。

学習塾業界を舞台に、親子三代にわたる物語は教育をテーマにしつつも描くのは人生そのもので、並々ならぬ熱意が込められています。

本書に対する森さんへのインタビューはこちら。

森 絵都さん『みかづき』

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

あらすじ

新時代

昭和三十年代。

千葉県習志野市にある小学校で用務員をしている大島五郎は、子どもたちに勉強を教えることに定評がありました。

ある日、教えていた学生の一人・赤坂蕗子の母親である千明が五郎のもとを訪れ、自分の立ち上げる塾の先生をしてくれないかと打診をかけます。

まだ塾など浸透していないご時世で、教育に対して並々ならぬ熱意を持つ千明の提案は魅力的ですがすぐ受け入れられない五郎ですが、とある事情から学校を首になり、期せずして道が決まりました。

こうして五郎は千明の立ち上げる塾の先生となり、彼女と結婚。

不安な中、新たな人生の一歩を踏み出します。

難しさ

五郎は生徒に教えるのが上手く、評判は上々でした。

家庭でも千明との間に蘭、菜々美という娘が生まれ、幸せそのものに見えます。

ところが塾での忙しさにかまけているうちに、夫婦の教育方針は決定的に違えていて、修正できないところまできていました。

また家族での団らんの時間もろくにとれず、娘たちとの間に距離が生まれてしまったことも事実です。

様々な話し合いの末、五郎は千明たちのもとを離れ、物語は千明の視点で新たな展開を迎えます。

繋がり

五郎がいなくなったこと、千明の母親である頼子が亡くなったことなどをきっかけに分解していく大島家。

それでも千明は信念を持って塾を経営しつづけますが、時代は教育に新たなことを求め、一筋縄ではいきません。

また家族での齟齬が決定的になり、幸せの在り方について分からなくなると時もありました。

しかし、家族は家族でした。

血が繋がっていても、そうでなくても関係ありません。

ある時にその繋がりが新たな道を提示し、物語は違った道を辿ることになります。

本書ではこのように時代の移ろいと共に変わる教育の在り方だけでなく、家族の在り方についてもとことん突き止めて描かれています。

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感想

教育の本質とは

本書で語られるのはずばり『教育』についてです。

しかし一口に教育といっても、時代や立場によって求められるものは異なります。

本書の始まりとなる昭和三十七年頃、塾が登場し、学校とは違った方針で子どもたちに新たな教育を施します。

すると学業の詰め込みすぎだの、子どもを食い物にした悪徳商法だのといった悪い噂が飛び交い、教育について様々な議論が交わされることとなります。

このように大島五郎、千明夫妻から始まった教育の新たな一手はそれまでになかった波紋を生み出し、彼らの考えに賛同する人、反対する人がまた今度は新たな価値観を持った教育を提供していきます。

それも時代を経るごとに在り方が変わり、あるものは流行り、あるものは廃れていきます。

そして教育者としての考えは大島一族を巻き込み、時代が違っても脈々と受け継がれていく様子が本書には描かれています。

時代によって姿形を変える教育の在り方はタイトルに込められていて、最後にその意味が分かった時、この物語が生涯にわたって自分の胸に刻まれることを確信しました。

時代で違う在り方

本書において、何が教育における正解なのかは提示されません。

それぞれに考え方があり、教育を受ける人、受けさせる人によって正解は異なります。

その多種多様な価値観が本書の面白さの一つだと思っています。

同じ血を引く一族でも考え方は全く異なり、そこにはそれぞれの思いがある。

時にはぶつかり、時にはお互いを認めてさらに高みを目指す。

いつの時代も波乱万丈で、六百ページ以上のボリュームにも関わらず最後まで楽しむことが出来ました。

やや長すぎる

僕は最後まで楽しく読むことができました。

しかしその一方で、2/3くらいのボリュームで収めてもよかったのではという思いがあるのも事実です。

五郎や千明、その子どもたちまでであればキャラクターとして思い入れがあり、楽しむことが出来ました。

ところがその子ども、つまり五郎たちの孫世代までいってしまうとやや思い入れに欠け、一族で受け継がれるものがあったとしてもその熱意についていけない箇所がいくつもありました。

僕は欠点とまでは感じませんでしたが、人によっては冗長な物語と捉えるポイントになってしまうかもしれません。

おわりに

その大ボリュームにふさわしい、あるいはそれ以上の大作で、教育という誰にも正解を出せない事柄について一つの考えを提示したことはあっぱれだと思います。

そのページ数ゆえに尻込みしてしまう人も多いかもしれませんが、一度読み始めてしまえば最後まで物語が導いてくれます。

面白さは僕が保証するので、ぜひまずは手にとって最初の数ページを読んでみてください。

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