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『いまさら翼といわれても』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

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「ちーちゃんの行きそうなところ、知らない?」夏休み初日、折木奉太郎にかかってきた“古典部”部員・伊原摩耶花からの電話。合唱祭の本番を前に、ソロパートを任されている千反田えるが姿を消したと言う。千反田はいま、どんな思いでどこにいるのか―会場に駆けつけた奉太郎は推理を開始する。千反田の知られざる苦悩が垣間見える表題作ほか、謎解きを通し“古典部”メンバーの新たな一面に出会う全6編。シリーズ第6弾!

「BOOK」データベースより

表題作含めた六つの短編から構成されている本書。

前の話はこちら。

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前作の文語版から七年ぶりの最新作文庫で、かなり内容を忘れていることを思い知らされました笑

しかし、読んでいてすぐに感覚がよみがえってきたので、ぜひどこかで前の作品も読み返したいと思います。

本書もこれまで同様、青春ですがビターな話が多く、やはりアニメとは違う印象を受けました。

以下は本書に関する米澤さんへのインタビューです。

vol.13 米澤穂信『いまさら翼といわれても』刊行記念スペシャルインタビュー|角川文庫創刊70周年 特設サイト

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

箱の中の欠落

相談

ある日の夜、奉太郎のもとに里志から電話がかかってきて、散歩に誘われます。

奉太郎は何か用件があると察した上で合流。

散歩をしながら事情を聞きます。

やはり相談事で、里志が抱えている問題は、先日、行われた生徒会長選挙で起こりました。

開票すると、神山高校の総生徒数は千四十九人にも関わらず、票は千八十六票あったのです。

つまり三十七票、一クラス分近く多い計算になります

この問題は選挙管理委員会の管轄であり、里志には関係ないはずですが、彼はまるで犯人かのように疑われる一年生のためにこの問題解決に乗り出したのでした。

結末

二人で議論する中で、奉太郎は選挙の穴に気が付きます。

それは、どのクラスの投票箱でもない箱を選挙管理委員会ではない人物が運んできた場合、システム上はチェックできないということです。

それに対して里志は、選挙管理委員会に成りすますのはできても、投票箱は年代物ですぐに気が付かれると反論。

しかし、奉太郎はその点もしっかり考えていました。

ヒントは神山高校を卒業した姉・供恵宛てのはがきにありました。

そこには『三年I組』と書かれていました。

里志も気が付きます。

神山高校には、九クラスあった時期もあったのです。

つまり、学校の倉庫の中には今は使われていない投票箱があるはずです。

後日、里志が確認したところ、投票箱は確かに一箱多くあり、犯人も見つかりますが明かされません。

再選挙も無事に終わり、この問題は奉太郎たちの手から選挙管理委員会に渡されるのでした。

鏡には映らない

回想

摩耶花はある日、池平という中学時代の同級生に会い、彼女が奉太郎に対して嫌悪感をあらわにするのを見て、思い出します。

奉太郎が、中学校では軽蔑されていたことを。

ここからは回想

摩耶花たちが中学三年生の時、卒業制作で彫刻した木枠の大きな鏡を作ることになり、デザインを鷹栖亜美が担当します。

木枠は各班に割り振れますが、そこで事件が起きました。

奉太郎の班が担当した部分だけが、亜美のデザインから大きく変更されていたのです

そのデザインを彫刻したのは奉太郎でした。

本来であれば、奉太郎に任せっきりにした他の班員も責められるべきですが、他の生徒は奉太郎だけを責めます。

亜美はそのデザインを見て号泣し、それが原因で奉太郎は今でも中学時代の同級生に軽蔑されているのでした。

協力者

事の経緯を思い出し、奉太郎に何か考えがあったのではと思い直す摩耶花。

直接、奉太郎に聞きますが、教えてくれません。

そこで神山高校に在籍し、奉太郎と同じ班だった芝野めぐみにあたります。

するとめぐみは、奉太郎には鳥羽麻美という協力者がいて、彼女と二人で彫刻するはずだったことを明かします。

後日、摩耶花は麻美に会いますが、彼女も真実を話してくれません。

ただ、奉太郎は麻美にとってのヒーローであり、卒業制作は解けた呪いなんだといいます。

結末

麻美に鏡を見てくることを勧められ、摩耶花はその通りにします。

事前に逆立ちでもしないと分からないと言われていたため、鏡を逆さまに携帯で撮影します。

すると、摩耶花にも真実が分かりました。

鏡には『WE HATE A AMI T』と彫刻されていました

文法的に間違っていますが、それは奉太郎が意図的に間違えて彫刻したからです。

本来であれば『WE HATE ASAMI T』となり、『私たちは鳥羽麻美が嫌い』という意味になります。

これは、亜美たちによるいじめでした。

しかし、奉太郎が事前に知ったことで彫刻のデザインが変わり、鷹栖亜美の名前がそこに刻まれたのでした。

摩耶花は真実を話し、奉太郎に謝罪しますが、彼は省エネとうそぶいているのに女子を助けたことを知られ、頬を赤くするのでした。

連峰は晴れているか

奉太郎たちの中学に小木という英語教師がいて、彼はある授業中、窓の外を遠ざかるヘリコプターを見て、『ヘリが好きなんだ』と話したことが話題に挙がります。

また、小木は生涯で三回、雷に打たれたことがあり、奉太郎は何かに気が付きます。

えると図書館で調べる中で、小木がよく山登りをしていたことが判明。

これで雷に打たれた話にも少し信憑性が出てきます。

しかし、話はそれだけでは終わりません。

過去の新聞記事で、小木がヘリを見たあの日のことを調べます。

すると、二人の遭難者を警察は捜索していましたが、天候悪化を理由にヘリを飛ばせなかったことが判明。

話は単純で、小木はヘリが好きなのではなく、授業中も捜索のヘリが飛ぶことを心待ちにしていたのです。

そしてその日、ヘリによって遭難者二人の遺体が見つかったのでした。

最後に、えるはなぜ奉太郎がこの件を調べようと思ったのか不思議に思っていました。

それに対して奉太郎は答えます。

結果として遭難者は亡くなっていて、小木にとっていいことであるはずがありません。

それを、もし次に小木と会った時、彼はヘリが好きなんて気軽に言ってはいけないと彼は感じたのでした。

えるは奉太郎に対して、自分の気持ちをうまく伝えられないままそれぞれの帰路につくのでした。

わたしたちの伝説の一冊

対立

摩耶花の所属する漫画研究会は、『自分で漫画を描くグループ』と『漫画を読んで楽しみたいグループ』で対立していました。

さらにブレーキ役だった三年生の河内亜也子が少し早く引退したことで溝はさらに深まります。

そんなある日、摩耶花は同級生の浅沼に同人誌を出さないかと持ち掛けられます。

浅沼は漫画研究会の活動として同人誌を出し、敵対グループに対抗したい魂胆は見え見えでした。

摩耶花は漫画を描きたい欲求もあって迷い、返事を一旦保留にします。

露見

摩耶花は迷いながらも漫画のネームをノートに書いていると、同じ漫画研究会の羽仁から、浅沼の計画が露見したことを知らされます。

そして、部長の湯浅が退部し、後任に羽仁がつくことも知ります。

摩耶花の違うグループに所属する篠原は、同人誌について条件を出します。

もし同人誌がちゃんとできれば篠原たちは出ていくし、できなければ浅沼たちが出ていく。

もう元戻りできない状態までいき、摩耶花はいまだに迷っていますが、それでも準備を続けます。

結末

ある日、摩耶花はメールで羽仁に呼び出されますが、彼女はどこにもおらず、おまけに漫画を描いたノートが盗まれてしまいます。

里志は相手を目撃していて、明言されていませんが羽仁だと思われます。

しかし、彼女の狙いが読めずにいると、放課後呼び出され、指定された喫茶店に向かいます。

そこで待っていたのは、羽仁ではなく亜也子でした。

亜也子は、摩耶花に漫画研究会をやめるようアドバイスします。

実は今回のノートの件は、亜也子が計画し、羽仁が実行したものでした。

亜也子は摩耶花の漫画への情熱を知っていて、漫画研究会は足を引っ張るだけだとして、自分と『夕べには骸に』に続く伝説となる漫画を一緒に書こうと誘います。

『夕べには骸に』とは、かつて神山高校文化祭で販売された漫画で、摩耶花や亜也子の情熱を掻き立てた伝説的な漫画のことです。

亜也子は、摩耶花が『ラ・シーン』という漫画雑誌で努力賞をとっていたことを知っていて、その結果が分かってから、一緒に漫画を描くか決めてもらうつもりでした。

そして今月号の『ラ・シーン』に目を通しますが、コンテスト受賞者に摩耶花の名前はありませんでした。

それは悔しいことであり、亜也子も経験してきたものでした。

結局、摩耶花は亜也子の提案にのり、漫画研究会を退部。

神山高校に残る伝説の一冊を描き、もっと上手くなることを誓うのでした。

長い休日

らしくない一日

朝目覚めると、体の調子がどうにも良すぎると感じた奉太郎。

エネルギーを発散させるべく少し遠くまで散歩に行くと、そこは十文字かほの家でもある荒楠神社でした。

そしてそこでえると偶然会い、二人でお稲荷様の祠を掃除することに。

その中で、えるは奉太郎が日ごろ口にする『やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に』という言葉をいつから言い始めたのかと尋ねます。

それに対して奉太郎は、小学生時代の出来事を話します。

省エネの始まり

奉太郎は小学六年生の時、田中というクラスの女子とともに校内環境係をつとめ、主に花の水やりをしていました。

しかし、途中で田中の家が建て替えることになり、田中は一時的に遠い場所に住むことに。

放課後残ると帰りが遅くなってしまうため、担任の指示で奉太郎一人で花の水やりをすることになります。

それからしばらくしたある日、田中のランドセルがなくなる事態が発生します。

ランドセルはすぐに見つかりましたが、奉太郎はあることに気が付いてしまいます。

田中はバスで学校に通っていましたが、ランドセルがなくなった日はポケットのない服を着ていました。

つまり、バスに乗るためのお金、もしくは定期券はランドセルに入っていることになりますが、田中はランドセルが見つかってもお金などがなくなっていないか全く気にしていませんでした。

奉太郎はこのことから、家の建て替えはすでに終わっていて、田中は元の家に住んでいるのではと推測。

要は奉太郎に仕事を押し付け、サボっていたのです。

さらに担任も家のことを知った上で、奉太郎が言うことを聞く便利な生徒だったからそのままにしていたのです。

ここではじめて奉太郎は、自分の良心に付け入ってくる人がいることを知り、以来、省エネ主義になったのでした。

その話を聞いた供恵は、奉太郎を止めません。

これから長い休日に入るのだと表現しました。

そして、こうも言いました。

きっと誰かが、その休日を終わらせると。

もしかしたら、それがえるたちのいる古典部なのかもしれません。

いまさら翼といわれても

合唱祭に参加する予定だったえるですが、当日、会場に姿を見せず、摩耶花たちは探していました。

会場までは横手という老婦人と一緒に来たことが分かっているため、そこからどこに行ったのかを奉太郎は推理します。

合唱祭で歌うのは『放生の月』という曲で、えるはソロで『ああ 願わくは 我もまた 自由の空に 生きんとて』という歌詞の部分を歌う予定になっていました。

その歌詞を見て、奉太郎はあることに気が付きました。

それは横手が嘘をついていることで、本当はえるは会場には来ていないということです。

しばらく話した後、横手は嘘を認め、自分がえるの伯母であること、『陣出南』というバス停でえるが降りたことを教えてくれます。

そしてそこには横手の所有する蔵があり、えるは幼い頃、よくそこに隠れていたと明かします。

奉太郎が蔵に行くと、中からえるの歌声が聞こえました。

奉太郎は決して無理強いすることなく、どうしてえるがここに隠れているのか理由を推測で話します。

もしかして、跡を継がなくてもいいと言われたのではないか

えるの反応から、それが正しいことが分かります。

これまで、えるは千反田家を継ぐつもり生きてきました。

しかし、ここにきて自由を与えられ、どうしていいのか分からなくなっていました。

だから、ソロパートの歌詞が今はどうしても歌えなかったのです。

やがて、えるはいいます

『いまさら翼といわれても、困るんです』

その後、えるが会場に向かったのかは明かされません。

おわりに

四人それぞれ、大小あれど暗いものを背負った上で今を生きていることが分かる短編集でした。

そして、それを踏まえてこれからをどう生きるのか。

少し刊行ペースが遅くなっている点が気になりますが、ぜひ最後まで『古典部シリーズ』の姿を見届けたいと思います。

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