原田マハ
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原田マハ『風神雷神』あらすじとネタバレ感想!時代を/超えたアート冒険譚

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芸術(アート)という名のタイムカプセルが、いま開かれる――。京都国立博物館研究員の望月彩のもとに、レイモンド・ウォンと名乗るマカオ博物館の学芸員が現れた。彼に導かれ、マカオを訪れた彩が目にしたものは、「風神雷神」が描かれた西洋絵画と、天正遣欧少年使節の一員・原マルティノの署名が残る古文書、そしてそこに記された「俵…屋…宗…達」の四文字だった――。天才絵師・宗達の名画〈風神雷神図屏風〉を軸に描く冒険譚。「縦横無尽な想像力に操られたマハさんの筆致にすっかり魂を持っていかれた。カラヴァッジョと宗達を繋げてしまう発想には脱帽です」漫画家・文筆家・画家 ヤマザキマリさん推薦!

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雷神(ユピテル)と風神(アイオロス)が結んだ数奇な縁(えにし)とは――。織田信長の命を受け、天正遣欧少年使節と出立した宗達。苦難の航海を経て、一行はついにヨーロッパの地を踏んだ。そこで彼らを待ち受けていたのは、絢爛華麗な絵画の数々と高貴な人々、ローマ教皇との謁見、そして一人の天才絵師との出会いだった。謎多き琳派の祖・俵屋宗達とバロックの巨匠・カラヴァッジョ。芸術を愛する者たちの、時空を超えた魂の邂逅の物語、ここに完結。「芸術に対する造詣の深さ、絵に対する慈しみと、限りない愛情が言葉の端々に感じられる」京都国立博物館名誉館長 佐々木丞平さん推薦!

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原田マハさんのアート小説で、今回のテーマは俵屋宗達の『風神雷神』です。

作品を知っている人は多いと思いますが、作者である俵屋宗達はその影響力の大きさと比べて生涯に謎が多く残されています。

その謎に対して、原田さんが「あったかもしれない」を具現化させたのが本書です。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

接触

京都国立博物館の研究員・望月彩は京都で生まれ育ち、必然のように俵屋宗達に惹かれ、彼の研究をするようになっていました。

彩には一つの野望があり、それは宗達ひとりの絞り込んだ展覧会を実施することでした。

宗達の真筆と認められた作品は多くありませんが、未発見で、世界のどこかに現存するはずだと彩は考えていました。

そんなある日、彩に対してマカオ博物館の学芸員・レイモンドがコンタクトをとってきます。

レイモンドはマカオ博物館に保管されているものを、彩に見てほしいといいます。

どんなものなのかは明らかにしませんでしたが、彩はそれが宗達に関係するものだと直感します。

その直感を信じて彩はマカオに飛び、レイモンドから一枚の西洋画を見せてもらいます。

それは『ユピテル、アイオロス』、日本でいうところの『風神雷神』です。

作者が宗達でないことは明らかですが、レイモンドが本当に見せたかったのは別の古い紙の束でした。

そこには『ユピテル アイオロス 真実の物語』と書かれていて、著者は原マルティノとなっています。

原マルティノは十六世紀末、ローマに派遣されたキリシタンの少年で、この西洋画の説明が書いてあることが予想されます。

彩はページをめくり、レイモンドが自分にこれを見せたかった理由を知ります。

判読できない文字の中で、唯一読める四文字があり、そこには俵屋宗達と書かれていました。

ここから時代は十六世紀末に移り、宗達やマルティノたちの物語が展開することになります。

感想

何もかも超えた物語

本書では原田さんのアート小説として当然とばかりに、まず時代が過去に遡ります。

そこで俵屋宗達がどのように誕生したのかが描かれます。

その次に海を越え、ルネサンスのアート作品と邂逅することでお互いに影響を与え合い、どのようにして『風神雷神』が生れたのかが描かれます。

時代を超え、そして海を越え。

あらゆる境界を越えていくダイナミックな構想は壮大で、読んでいてワクワクしました。

史実に基づいたフィクションとはいえ、そこには登場人物の息遣いがあり、熱意があり、作品としてとてつもない熱量を秘めています。

今までのアート小説とは違う

僕は原田さんのアート小説が大好きです。

現在と過去でそれぞれ物語が展開し、やがてテーマとなっている作品が時空を超えて物語を結びつけてしまう。

そんな壮大で、愛情にあふれた作品が大好きです。

本書にも、もちろんこれでもかと愛情が注ぎ込まれ、原田さんだからこそ描ける物語が展開されています。

しかし、本書において残念に感じたポイントが二つあります。

一つはアートの謎を巡るミステリというよりも、宗達やマルティノたちのヨーロッパに渡り、そこで旅をするという冒険譚であることです。

当時の技術では海を渡ることは困難なことであり、それは本書を読んでいて痛いほど伝わってきます。

だからこそ命がけの旅の果てに得られたものはかけがえのないものになるのですが、旅の部分が強調されるあまり、新たな文化やバロックの巨匠・カラヴァッジョとの邂逅の前に読み疲れてしまい、感動できない自分がいました。

それからもう一つは、現代パートが完全なおまけであることです。

物語の発端となる『風神雷神』を登場させるために設定したパートという印象で、最後の締めくくりもどうも予定調和というか、蛇足感が否めませんでした。

全体を通して原田さんの力量、アートへの愛情が感じられる内容なのですが、八〇〇ページ以上の大作を読んだ果てに得られたものがこれなのか。

正直なところ、ちょっと残念な読了感でした。

おわりに

誰もが知る作品に隠された、ありえたかもしれない可能性。

それを大胆に描いたのが本書です。

上下巻を通して読むには少々骨が折れますが、そこにはあなたの予想していなかったような物語が待っているはずです。

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