『がらくた屋と月の夜話』ネタバレ感想!あらすじから結末まで!
仕事も恋も上手くいかないつき子は、ある晩、ガラクタばかりの骨董品屋に迷い込む。そこは古道具に秘められた“物語”を売る店だった。未亡人を未来へと導いた時刻表、母と娘の拗れた関係を解いたレース、居場所のない少女に特等席を与えた椅子…。人生の落し物を探して、今日も訳ありのお客が訪れる。つき子もまた、ある指輪を探していた。
「BOOK」データベースより
何をするにもついていない主人公、つき子が骨董品屋に偶然辿り着き、売られているガラクタに秘められた物語を通じて、様々な人と触れ合っていくという話。
誰にでも思い出の品というものがあると思いますが、ここではそれが売られています。
王道なストーリーで、横道にそれることなく物語が進んでいきます。
また、つき子の柔らかい雰囲気も合わさって、読んだ後に温かさが気持ちを満たしてくれる、そんな魅力が秘められています。
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つき子の魅力
両親から「つきがあるように」と名付けられたのに、自他共に認める「ついていない」人生を送るつき子。
しかし、彼女はそんな人生に悲観するわけでもなく、今日も人から頼まれれば断れないし、明らかな嘘にも平気で騙されてしまいます。
この徹底して人を信じる、というスタンスが最初こそ逆に胡散臭く感じてしまいましたが、物語が進行するにつれて、それが彼女の、そしてこの物語の最大の魅力なんだなと気が付きました。
学生時代からの友人である成美や、会社の同僚からは、その迂闊さを度々注意されますが、誰もが彼女の魅力に気が付いていて、全くこの子は、と呆れながらもそれを受け入れている。
人との出会い、という点では「ついている」のでしょう。
骨董品屋にあるガラクタにだけではなく、つき子の失くしてしまった指輪にも物語が秘められていて、それが徐々に物語の謎を解くカギになっていく流れは、ページをめくる手が止まりませんでした。
ガラクタに秘められた物語
時刻表。レース。椅子。ドッグタグ。指輪。うさぎの剥製。
決して珍しいわけではない。むしろ、意識しなければその名前を思い浮かべることすらないような物。
でも、それらにも秘められた物語がちゃんとあり、骨董品屋の店主である川嶋は物ではなく、物語を売っています。
惹かれるべくして惹かれた時に、所有者に語られる物語の数々。
そこから見えてくるのは、その物が生まれてから今に至るまで、触れてきた全てです。
風景であり、人であり。そこには歴史が詰まっています。
物が人のように語るというテイストが風変りであり、でも読み進めていくと、本当に物が語りかけてくるような感覚になり、それはとても美しいものでした。
ガラクタといわれていますが、本書では途中からブロカントとつき子は呼んでいます。
ブロカントとは、フランス語で「骨董品」という意味で、美しいガラクタが語源だと言われています。
似たような言葉で「アンティーク」という言葉もありますが、これは製造から100年以上経過した美術品などが該当し、ブロカントはそこまではいかないけど、人々によって大事に使われてきたものを指します。
フランスでは、物を長く大切に使うという文化が根付いているので、ガラクタではなくブロカントと呼称することで、読者の骨董品屋に並べられた商品を見る目が変わるという効果が生まれます。
親子の絆の修復
つき子がたまたま参加した合コンで知り合った男性、弓長天地。
彼は、骨董品屋の店主である川嶋の息子なのだという。
しかし、それにしては父親と呼ぶことに嫌悪感を示すし、川嶋も彼を息子と呼ぶことをためらっています。
そこに隠された秘密と、彼らが抱える複雑な思い。
それらを、ブロカントたちに宿る物語が優しく解きほぐしていく過程。
必見です。
ゆっくりと進行するラブストーリー
最初こそ、天地を警戒するつき子ですが、次第に彼の惹かれていきます。
しかし、第一印象もろもろ、始めの段階で色々とつまづいていること、そして今までの恋愛がつき子を臆病にさせていることから、なかなか進行しません。
でも、一歩ずつ歩み寄っていく二人の姿が、微笑ましくて素敵でした。
本作のもう一つの魅力と言えるでしょう。
おわりに
骨董品屋というとあまり縁がないと感じると方もいると思いますが、例えば古着屋というと、少し身近に感じるのではないでしょうか。
もし今度お店に行くことがあったら、ぜひ服を眺めながら「どんな物語が秘められているのだろう」なんて、考えてみるのも面白いかもしれません。
もちろん、本書を読み終わった後で、ですよ。
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