【感想】『2DK、Gペン、目覚まし時計。』社会人の恋愛模様を描いた緩い日常【ネタバレ注意】
仕事も家事もソツなくこなすデキるOL・香月奈々美は、故郷・福岡に彼氏を置いて、ここ東京で遠距離恋愛をしている。ぐーたらで生活能力ゼロと言ってよい童顔アラサー・藤村かえでは、漫画家デビューを目指して、今日もネーム作業を…始めようとしている。何から何まで全く正反対の女子ふたり。何もないようでその実、結構いろんなことが起きる同居生活、はじまり、はじまり。
Amazon内容紹介より
百合作品のオススメの中に必ずといっていいほど名を連ねる本書。
百合作品の多くが学生を主人公にしている中、本書は主役である二人の両方が社会人というちょっと珍しい設定になっています。
そのおかげで仕事や生活など恋愛要素以外も描かれ、よりリアルな生活をイメージできる内容になっています。
この記事では、本書の魅力や評価の分かれそうな点について書いています。
多少のネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
登場人物
本書には様々な登場人物が出てきますが、ここではメインとなる二人について言及します。
2DK、Gペン、目覚まし時計。1巻より
↑左が奈々美で、右がかえで。
香月奈々美
25歳のOLで、博多出身。
仕事も家事もそつなくこなし、人の面倒を見ることが好き。
普段は標準語だけれど、プライベートでは博多弁になり、そのせいか性格も仕事の時よりラフになる。
地元に彼氏がいる一方、レズビアンであることが分かる描写もあり、まっとうに生きることの難しさを誰よりも知っている。
東京で出会ったかえで(後述)と同居し、年上である彼女を養っている状態。
かえでが童顔で幼く見える一方、奈々美は性格もあってか年上、というか少しおばさんくさいところもある。
藤村かえで
27歳で、漫画家を目指している。
家事など生きていく上で必要なスキルが壊滅的で、収入もろくにないので奈々美のヒモ状態。
性格は非常に楽観的で、お金が入るとすぐに使いきってしまうなど、今を楽しく生きることに全力を注いでいる。
魅力
社会人ならではのリアルな生活
様々な百合作品を見てきましたが、読者の趣味もあってか登場人物の多くが学生でした。
そうすると必然的に学校生活、部活、学園祭などのイベント、休みの日の遊びなど描かれることが限定されます。
その点、本書は主役である奈々美とかえでが社会人、しかも二十代中盤~後半ということで、描かれる日常がかなり違っています。
奈々美のOLとしての日常、かえでの漫画家としての日常、そして家で二人で過ごす日常。
女性向けの漫画ではわりかし見られる光景ですが、女性同士の華やかなやりとりを期待する人からしたら物足りないかもしれません。
しかし、日常の何気ないやりとりに感じられる喜びがあり、オフを見ているからこそオンの時がより華やかに見えたりとメリハリがしっかりついているので、王道の百合作品しか読んだことのないという人にもオススメしたいです。
恋愛意識が育つところを見られる
上述しましたが、奈々美はレズビアンであり、かえでとお酒を飲むシーンで彼女と…なんて考えるシーンが1巻にあります。
しかし、残念ながらかえでは奈々美のタイプとは真逆といってもいい女性で、色気のある展開には全くなりません。
奈々美は至って冷静で、かえでじゃなければキス、その先までやっていたと分析しているところからも、いかにかえでとの可能性を感じていないかが分かります。
本書はそこからいかに二人の関係が変化していくのかを見ることが出来るので、長期にわたってじっくり楽しむことが出来ます。
真剣な恋愛
二人は社会人なので、一緒にいたいから、という理由だけで同居することは出来ません。
進んでいる人生が違うわけで、特にかえでの漫画家としてのキャリアが積み重なっていけば、その先がどうなるかなんて分かりません。
だから、自分の気持ちを知っても、それを口にするのは相当な覚悟を求められます。
この部分こそが社会人ならではのもので、その気持ちに嘘偽りがないと思わせてくれる部分でもあります。
人生経験を積んだからこそ、先を見据えて築いてく関係。
作者の大沢やよいさんが女性ということもあり、その真剣さがよく伝わっていきます。
完結している
本書自体の魅力とは違いますが、2018年に完結しています。
全8巻で、読み応えがあるけれど長すぎないボリュームなので、結末が気になって仕方がない人は一気読みも出来ます。
連載中で待つのが嫌だという人には特にオススメです。
評価の分かれる点
百合成分は薄め
社会人同士ということもあって、ある程度恋愛経験を重ねています。
そのせいで肌の触れ合いなど日常茶飯事で、そこに恥じらいなどあるわけがありません。
学生が主人公だと手が触れるだけでドキドキするわけで、そういった展開を期待する人にとって本書は百合成分が薄めだと思います。
一方で、女性の描く社会人モノだからこそ描ける恋愛模様が本書の売りであり、大人な関係を見たいという人にはあまり気にならないと思います。
すぐに劇的な展開はない
それぞれの仕事もあったり、お互いにその気がないこともあって、すぐに劇的な展開があるわけではありません。
些細なことで気持ちに変化があり、それに気が付いて行動や態度を変える。
その繰り返しで少しずつ進んでいく物語であり、それこそが本書の見どころなのですが、それがじれったいという人には向いていないかもしれません。
迷ったら無料で試し読み
ここまで記事を読んで、それでも購入しようか迷っているというあなた。
一部ですが、pixivに無料で掲載されていますので、まずは試し読みして絵柄、話の展開などをチェックしてみてください。
おわりに
社会人二人による同居コメディのようでいて、根底にある悩みや葛藤は深く、王道の百合作品とは違った恋愛模様を本書は見せてくれます。
王道ではないけれど、読みやすい絵柄など苦手な人は少ないと思うので、自信を持ってオススメできる作品です。
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