『傲慢と善良』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
婚約者・坂庭真実が忽然と姿を消した。その居場所を探すため、西澤架は、彼女の「過去」と向き合うことになる。生きていく痛みと苦しさ。その先にあるはずの幸せ──。2018年本屋大賞『かがみの孤城』の著者が贈る、圧倒的な恋愛小説。
Amazon 内容紹介より
辻村さんが恋愛小説を書いたと聞き、驚きました。
これまで様々な小説を書いてきた彼女ですが、恋愛はあくまでその一要素であり、恋愛そのものを主題に置いた作品が想像できませんでした。
しかし、読んでみて、ああ、辻村さんの恋愛小説だと腑に落ちました。
改めて辻村深月という人はどこまでも現実主義で、けれども現実には信じられないような感動があることを知っている人なんだと感じられました。
詳しい内容については後述しますが、他作品の人物も登場し、ファンには二度おいしい作品となっていますのでおすすめです。
以下のページで、辻村さんの音声インタビューが聞けます。
また映画化もします。
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
失踪
西澤架(にしざわかける)の婚約者・板庭真実(いたにわまみ)が突然失踪します。
三十五歳という年齢から一晩待ちますが彼女は戻ってこず、翌朝になって架は義母に彼女がいなくなったことを報告。
一緒に真実のアパートを訪ねますが、部屋に彼女はいませんでした。
二か月前、架はストーカーにつきまとわれていると真実から相談を受けていたため、警察に捜査を依頼します。
しかし、架はストーカーの名前を真実から聞いておらず、情報はほとんどありません。
ストーカーの件以来、真実は架の部屋で同棲していましたが、財布やコートなどは架の部屋からなくなっていました。
さらに彼女のアパートの部屋には架からもらった婚約指輪が残されていました。
これらのことから、警察は事件性は極めて低く、真実が自分の意思で出ていったのだと判断して捜査を打ち切ります。
そこで架は自分の手で真実を探そうと興信所に依頼することを提案しますが、世間体が気になる真実の母親・陽子は抵抗。
そこで架は、真実の実家のある群馬に向かいます。
以前真実は、ストーカーは群馬にいる時に知り合った人物であると話していたため、少しでも彼女の行方を知る手掛かりになればと考えたからです。
ストーカー
真実は架と同様、婚活をしていて、それは東京に出てくる前、群馬にいる頃からしていました。
架は真実の両親から彼女の利用していた結婚相談所を教えてもらい、そこで働く小野里に当時のことを聞きます。
小野里は架が想像するような地方の世話焼きのおばあちゃんではなく、婚活を冷静に捉えることのできる、頭の良い女性でした。
真実が小野里から紹介された男性は二人いて、そのどちらもストーカーではないと小野里はいいます。
二人を紹介してほしいと架は食い下がりますが、あっさり断られてしまい、意気消沈します。
一方で、真美の両親が子離れできない過保護であることが見えてきます。
小野里は婚活がうまくいく人は、自分がほしいものがちゃんとわかっている人だといいます。
しかし、当時の真実にはそれがあるよう思えませんでした。
さらに現代の結婚がうまくいかない理由として、『傲慢さと善良さ』を小野里は挙げます。
誰もが自分自身の価値観に重きを置きすぎる傲慢さ、そして善良に生きている人ほど親の言いつけを守り、誰かに決めてもらうことが多すぎて、自分がないのだといいます。
そして相手にピンとこないという現象について、それは自分につけている値段よりも相手が低いことだと小野里はいいます。
これには架にも思い当たる節がたくさんあり、真実は自分のことをどう思っていたのだろうと初めて思い至るのでした。
知らない彼女
架は真実の姉・希実に会い、真実のことをさらに聞きます。
希実は子どもを縛ろうとする親の傲慢さに嫌気が差して早々に親元を離れ、その分、両親の矛先は真実に向いていました。
そして真実も両親の言ったことを受け入れる素直さがあり、希実はそれを怖く感じていました。
そのせいで婚活などのことを相談されることもなく、状況を把握していませんでした。
その後、小野里から連絡が入ります。
彼女は真実の一人目の相手・金居智之に連絡をとり、会ってくれる段取りをしてくれていました。
架は前橋まで行き、金居と会います。
彼はすでに結婚して子どももいて、一目でストーカーでないことが分かりました。
次に架は、希実の仲介で真実の以前の勤め先である群馬県庁に勤める有坂恵と会います。
恵は真実と同い年で、中学校の同級生でもありました。
恵から真実らしいエピソード、そして婚活相手に対して彼女がどう思っていたのか聞くことができました。
この時点で、真実の失踪から二か月が経過していました。
それから真実がつい最近まで勤めていた職場の人間からインスタグラムの存在を教えてもらい、架はこれまで知らなかった真実の一面を知ることとなります。
写真の数々は無理をしているようで、そのままでも十分魅力的なのにと架はつい微笑んでしまいます。
その時、希実から電話があり、真実のもう一人のお見合い相手とも会えることになったと報告があります。
架はそのまま高崎市内に向かい、もう一人のお見合い相手である花垣学と会います。
金居は両親が選びましたが、花垣は真実が選んだ相手であり、架は彼こそがストーカーの正体なのではと疑っていました。
しかし、会ってすぐに彼も違うと確信します。
花垣は整った顔をしていますが、必要以上の言葉は話さず、全般的に欲求の薄そうな男性でした。
これで真実へと通じる道は潰えたように思えましたが、意外なことで事態が動くこととなります。
真実の嘘
架は学生時代からの女友達二人に呼び出され、彼女たちが真実の失踪する前日に真実と会っていたことを告げられます。
女友達二人が話すのは、真実のついていた嘘についてでした。
たまたま同じ店で飲んでいた真実と女友達。
真実は呼ばれて彼女たちのもとに行きますが、彼女たちは真実の言うストーカーなど存在しないことを見抜いていました。
さらに架が真実のことを70点と思っていて、前の彼女が100点だと事実とは多少異なることを伝え、真実はひどくショックを受けます。
架はそんなことを平然という彼女たちに怒りますが、結婚はやめたほうがいいと忠告されます。
信じられず、改めて真実のアパートを訪れますが、そこにはストーカーが空き巣に入った時に持ち去ったと言われていたカメオのブローチと架がプレゼントしたネックレスが見つかります。
つまり、ストーカーなど存在しなかったのです。
逃避
ここからは真実の視点から真相が明かされます。
真実は結婚を切り出してくれない架に痺れを切らし、ストーカーにつきまとわれていると嘘をつき、結果として架に結婚を決意させるのでした。
ところが彼の女友達から嘘を見抜かれたこと、点数について教えられ、逃げるようにしてその場を後にします。
これまで善良に生きてきたはずなのに、架に嘘をついてしまい、嘘まみれの彼女たちと変わらないと自分に絶望します。
さらに自分にそんな評価を下した架に強い怒りを覚え、気が付けば実家に向かっていました。
その途中で、金居らしき男性のその家族を見つけ、真実は思います。
彼を愛せる人間だったら良かったのに、真実は彼との結婚が考えられず、そう思えたのが架でした。
真実には、架しかいないのです。
しかし今は会いたくないし、このことを両親に伝えることもできません。
途方に暮れていると、以前、金居がボランティア活動をしていた話を思い出し、しばらく時間がほしいとその団体の窓口に連絡します。
電話に出たのは『島はぼくらと』に登場した谷川ヨシノで、真実は咄嗟に『西澤真実』と架の苗字に自分の名前という中途半端な偽名を名乗ります。
ヨシノに呼ばれて向かったのは、仙台でした。
ヨシノは事情を聞かずに真実を受け入れてくれ、ボランティア先として『樫崎写真館』に連れていってくれます。
ここは『青空と逃げる』に登場した場所で、そこには同作に登場した館長の正太郎や孫の耕太郎、さらに滞在していた早苗と力もいます。
真実が任せられたのは、東日本大震災で汚れてしまった写真の洗浄でした。
持ち主が分からないもの多い中、真美は丁寧に汚れを取り除き、早苗たちから少し元気をもらいます。
それから被災地の地図を編む作業にも携わります。
その中で真実は偽名を使っていたことをヨシノに見抜かれますが、彼女はそれを咎めることなく、人にはそれぞれ事情があると受け入れてくれます。
地図作りがスタートとして二か月が経つと、真実は三波神社を見つけ、神社の紋に見覚えがあることに気が付きます。
それは、樫崎写真館にあった結婚式の写真でした。
確認するとそれは何十年も前に三波神社で行われた結婚式の写真で、真実は何かの縁を感じます。
その後、一緒にボランティア活動をしていて高橋から好意を寄せられていることに気が付き、そこで架の顔を思い出します。
それからインスタグラムの話になり、真実のインスタグラムが見たいと耕太郎が検索します。
すると最後に上げた写真にメッセージがついていて、そこには『本当はいませんね? どうか、ぼくともう一度話してください』と書かれていました。
いないとはストーカーのことで、一目で架だと分かりました。
これ以上隠すことはできなくなり、真実はこれまでの経緯をみんなに話します。
すると三波神社の管理をしている石母田(いしもだ)は、真実と架の恋愛を『大恋愛』だといい、それで真実は彼と会う決心をつけます。
結末
地図の作業が落ち着くと、真実は宮城県にある陸前大塚駅で架と再会します。
彼は怒っておらず、再会は穏やかなものでした。
真実はストーカーがいないことを謝罪した上で、点数の件で傷ついたことを架に伝えます。
架は気まずそうですが認め、そして改めて結婚してくださいとプロポーズします。
今度こそ、架は本気でした。
これだけの大騒ぎになったというのに、問題なく結婚できると信じて疑わない架に、真実は彼がとても鈍感なんだと認めます。
だから真実の嘘を許せるし、とても優しい。
そんな架のことを、真実はちゃんと好きだったのです。
そして、真実は石母田の『大恋愛』の言葉を思い出し、予約していた結婚式場をキャンセルしたいといいます。
これには架も驚きますが、話には続きがあります。
架との結婚を了承した上で、二人だけで三波神社で結婚式を挙げたいというのです。
二人は両親をはじめ関係者に謝罪をした上で、五十年ぶりとなる三波神社での結婚式を行います。
真実は今でもこれで良かったのかと考えていましたが、架には言いません。
目の前には海に続く広い空が広がっていて、架に手を引かれると、その手を強く握り返すのでした。
おわりに
本書の言葉を借りるならば、これは『大恋愛』小説です。
フィクションのような運命的な恋愛なんて存在しないように思えるけれど、実際は誰もがそういった恋愛をできる可能性を秘めていて、自分に素直になるだけで良いのです。
他人なんて関係なく、どこを好きと思ったのか、それを素直に伝えればいいのです。
内容的に学生というよりは、社会人の方に特に突き刺さると思います。
リアルタイムで辻村さんの作品が読めて、僕は幸せです。
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