『ファイア・ドーム』あらすじとネタバレ感想!地方都市が火が降りかかり燃え盛る
人はなぜ大きな事件に魅了されてしまうのか。
噂は、軽薄な娯楽だ。
25年前、平穏だったはずの地方都市は、百貨店受付嬢誘拐殺人事件の発生、その報道により揺り動かされ、「噂」という大量の炎が、加害者のみならず被害者にも降り注ぎ、燃えさかった。ようやく静けさを取り戻したかに見える町に燻り続ける因縁が、いま新たな事件を呼び起こす――。
Amazon内容紹介より
「もう言われてるよ! どうせ、親が殺したんだろうって!」――本文より
お前の家は、人殺しだ。
真実を知っても、人は忘れていく。
25年前の夏、この町には炎が降り注いだ。百貨店受付嬢誘拐殺人事件という、身近で突然起こった全国レベルのニュースを、誰もがいつまでも終わらせたくなかった。傷ついた人をさらに傷つけてしまった土地に、事件の火の粉は、まだ残っている。夏の日、写生遠足の帰りに姿を消した少年は無事に帰ってくるのか? 25年前の事件には、「まだ明かされていない」事実が本当にあるのか?
「病気なんかで、死ねると思うな」――本文より
Amazon内容紹介より
辻村深月さんが七年もの歳月をかけて書き上げた本書。
警察小説を辻村さんが書く。
どんなものが出来上がったのかまったく想像ができませんでしたが、読んでみて何度も抑えきれない感情が湧きおこり、これは確かに辻村さんだからこそ描ける作品だと確かな読了感を覚えました。
詳細は後述しますが、単なる警察小説で終わらせず、そこに流れる噂、意図しないただはの発言に対するやり場のない怒りなど、辻村さんの感性がこれでもかとふんだんに盛り込まれていて、上下巻の圧倒的なボリュームも簡単に読ませられていました。
以下は、辻村さんと澤村伊智さんとの対談インタビューです。
【対談】辻村深月×澤村伊智 『ファイア・ドーム』『ざんどぅまの影』刊行記念
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想などを書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
二十五年前
物語の舞台は北陸地方にあるL県にある蒔戸市という地方都市。
そこで二十五年前、一郷屋百貨店の受付嬢である新沼紗英が身代金目的で誘拐され、後に殺害される事件が発生しました。
身代金は犯人に渡ることはなく、犯人は後に自首して、最終的に無期懲役判決を受けて現在も服役中です。
この事件は多くの噂を呼び、それが被害者遺族や多くの人たちにまるで火のように降りかかり、多くのものを巻き込んで燃え盛ります。
これが本書のタイトルになります。
二十五年経過した今でも多くの傷跡を残した事件ですが、現在になって再び、思わぬ形で脚光を浴びることになります。
噂
佐村美冬が担任をする小学校四年生のクラスで、戌井光汰朗が欠席していました。
美冬が光汰朗の家を知っているか聞くと、鞍井速斗が手をあげてくれます。
放課後、美冬はプリントを彼に預けますが、後日、速斗の家は光汰朗の家から反対側に位置していて、もっと家が近い生徒がいたことが判明します。
なぜ他のクラスメイトたちはそのことを指摘しなかったのか。
美冬はこの時知りませんでしたが、次第に関係者の話を聞く中で、戌井家が二十五年前の事件に何らかの形で関与していて、そのせいで避けられていることを知ります。
もう一つの事件
美冬は当時のことを知ろうと、恋人で新聞社に勤める桜木透真にきいてみます。
透真が先輩の吉沢にたずねると、当時、同時並行で十歳の田村晋也という少年が車に撥ねられて亡くなっていたことが判明します。
しかも撥ねられたと見られているだけであり、晋也や撥ねられた現場で見つかったわけではありません。
同時期に起きた二つの事件で、晋也の件は結局未解決のままです。
透真でも、この二つの事件には何らかの関係があることを感じ取りますが、事態はそれだけに留まりません。
今度は光汰朗が家に戻らない事態が発生し、この地方都市に二つの事件の記憶が再び火のように舞い降ります。
感想
噂の凶暴さ
本書は噂というものが一つのキーワードになっています。
事件で判明した事実だけでなく、報道機関はそこに憶測などを込めて記事にすることがあります。
それは事件解決のための報道という意味もあれば、読者の興味をあおり、売上を伸ばそうという目の前の利益のためでもあります。
読者はまんまとその企みに乗っかるわけですが、怖いのはここからで、読者はそこから事実を読まず、自分たちのしたいように解釈してさらにあらぬ噂を広めます。
こうして広がった事件はもはや尾ひれどころではなく、原形をとどめていません。
こうした噂が遺族を生涯にわたって傷つけていく様子が本書には描かれていて、自分事でない僕からしても何度も怒りがわいてきました。
一方で、本書は興味本位でそれを読んでいる僕に対しても言葉の刃を突きつけてくることが何度もあり、その度に心臓がどくりと跳ね上がりました。
インタビューでも辻村さんが本書を怒りで書き上げたといっていて、その熱量がこれでもかと込められています。
悪意の不在
本書で噂の凶暴さがこれでもかと語られているのですが、それを流した当人たちに悪意がまるで感じられないことが特徴です。
話すことで優越感を得たいという見栄はあるかもしれませんが、それで誰かを貶めようという明確な悪意はありません。
記者に事実を話すこともそうで、そのことで関係者がどのような目にあうのかまったく考えが及んでいないのです。
これはとても怖いと思いました。
特に美冬パートではそれが感じられて、彼女を取り巻く環境や今まで信頼してきた大人たちの見え方が百八十度変わってしまうほどの衝撃でした。
シンプルで力強い
本書が良いと感じたのは、シンプルで力強いことです。
辻村さんの作品で多く感じることですが、構造としてはシンプルで、展開もどんでん返し、というほど大きく読者の予想を裏切ってくることはありません。
その上でシンプルな中に伝えたいこと、訴えたいことが明確にあり、その強さは読者の賛否両論な言葉で揺るがすことなどできないほど確立されています。
この強さは昔から僕が好きだと感じている辻村さんの魅力で、本書ではそれがより一層磨きがかけられていました。
あらゆるやり取りでそれが感じられるのですが、僕は特に透真と美冬のやり取りが印象に残っています。
何か少しでも非日常が訪れて、僕は透真のように相手のことを気遣いながらもこんなことを口にするのではないか。
それに対して妻は美冬のように感じて、二人の溝が明確に浮き彫りになるのでないか。
悪気があったかどうか関係ない、とても感情的で大事なやり取り。
小説なのに、肉声をもって脳内でリピートされるくらい強烈に残っています。
おわりに
もう一度読みたい。
けれど、もう一度読んでこの衝撃に耐えるだけの気力がない、というのが正直なところです。
本書を読んだ後だと、『面白い』という感想すら口に出せなくなります。
それくらいに影響力がある作品で、そんな作品をこのタイミングで生み出してきた辻村さんにもう脱帽です。
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