『悪いものが、来ませんように』あらすじとネタバレ感想！異常な絆で結ばれた二人の女性が引き起こす惨劇とは？
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よなよな書房
道尾秀介『N（エヌ）』あらすじとネタバレ感想！読む順番で世界が変わる挑戦的な一冊
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「魔法の鼻を持つ犬」とともに教え子の秘密を探る理科教師。「死んでくれない？」鳥がしゃべった言葉の謎を解く高校生。定年を迎えた英語教師だけが知る、少女を殺害した真犯人。殺した恋人の遺体を消し去ってくれた、正体不明の侵入者。ターミナルケアを通じて、生まれて初めて奇跡を見た看護師。殺人事件の真実を掴むべく、ペット探偵を尾行する女性刑事。全六章を読む順番で、世界が変わる。あなた自身がつくる720通りの物語。すべての始まりは何だったのか？ 結末はいったいどこにあるのか？――道尾秀介が「一冊の本」の概念を変える！
Amazon商品ページより
七二〇通りの読み方ができる。
そんな実験的で、それでいて読者を満足させてくれる本書。
六つの短編は独立しているようで、どれかと繋がっていて、読む順番で味わいが変わります。
吟味するもよし。適当に読むもよし。
新感覚読書をお楽しみください。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
本書は読む順番が読者に委ねられていますが、ここでは本書に記載されている順番であらすじを書きます。
名のない毒液と花
吉岡利香という女性が十三年前を回想するところから始まります。
利香は当時中学校の理科の教師としてまだまだ新米で、吉岡精一と結婚したばかりでした。
精一は高校の同級生・江添正見とともにペット探偵なるものを仕事としてはじめ、その初仕事としてある島に向かいます。
落ちない魔球と鳥
小湊普哉は偉大な兄・英雄を持ち、常に比べられるような感覚を抱いていました。
高校生で二人とも野球をやっていても、兄は成績を残し、自分はそうではない。
普哉は悶々としながら一人練習をしていますが、その時、大型のインコ・ヨウムがやってきて、『死んでくれない？』と衝撃的な言葉を口にします。
笑わない少女の死
私は亡くなった十歳の少女について、彼女を殺害した犯人を知っているとして、彼女とのことを思い出します。
私は中学校の英語教師として長年働いてきて、人生二度目の海外旅行に赴きますが、自分が全く英語で会話ができないことに打ちひしがれ、ホテルに閉じこもってきました。
そんなある日、ホテルの部屋の清掃をきっかけに部屋を突発的に出ることになり、その出先で少女と出会いました。
飛べない雄蜂の嘘
わたしは田坂という男性と交際、あるいは肉体関係を持つような間柄でした。
田坂が上手くいっている時はそれなりに幸せな時間でしたが、田坂が株で大失敗をしてから一変。
私のことを何でもかんでも責めるようになります。
私の身が危なくなったその時、予想外の事態が起きます。
消えない硝子の星
カズマは看護師としてアイルランドのダブリンで働いていました。
今受け持っている患者はホリーという女性で、彼女は終末期医療に切り替えてその時を静かに待っています。
ホリーの気がかりは娘のオリアナのことで、彼女の残して逝ってしまうことに不安を抱いていました。
カズマはそれぞれの気持ちに寄り添い、その中で自分の人生も振り返ることになります。
眠らない刑事と犬
この街で五十年ぶりにおきた殺人事件。
警察は容疑者を絞っていて、犯行の証拠を探していました。
その中で、刑事のわたしは非公式で探偵に接触するわけですが、その相手が江添でした。
感想
グラデーションを楽しめる
本書は六つの短編の順番を変えることで、七二〇通りの読み方ができます。
僕は『飛べない雄蜂の嘘』⇒『名のない毒液と花』⇒『眠らない刑事と犬』⇒『落ちない魔球と鳥』⇒『笑わない少女の死』⇒『消えない硝子の星』の順番で読みました。
後悔は全くなくて、直感が当たったのか、自分の好きなテイストの作品が前半、あらすじからは予想できなかった味わいが生まれたのが後半、というのが印象です。
後半作品は単独で読むと僕の好みとは少し違っていたため、前半作品と関連して読める段階で読めて良かったと思います。
このように人によって本書のグラデーションは変わり、おそらくどの順番であっても強い不満は生まれないと思うので、道尾秀介さんがいうように好きな順番でお楽しみください。
共通のモチーフ
本書には共通のモチーフが登場し、繰り返されることでその意味を強めていく構成になっています。
一度目の登場でも感動的ですが、二度目以降は誰かも同じものを見て心を強く動かされている。
そう思うとこみ上げてくるものがありました。
ジャンルとして括ることは難しいですが、心を強く動かす、それも角度を変えることによって多方面から揺さぶってくるので、その感覚は本当に好きでした。
読み方に難あり
これは作品の中身というよりも、本書の構成に対して若干の不満があります。
僕は本書を皮のブックカバーにつけて読んだのですが、本を逆さまにして読むパートではブックカバーの手触りがしっくりこず、なかなか作品に集中できませんでした。
順番が読者に一任されている以上、物語ごとに上下逆転して印刷するという対応は必要だったと思いますが、それでもちょっとだけ気になってしまいました。
他の手法としてはページの色味を変える、神の材質を変えるなどでしょうか？
コストや見やすさの問題でそれぞれ難がありそうですが。
おわりに
実験的であり、それでいて一冊の本としても読者に強い感動を与えられる。
ただの意欲作で終わらせないあたりに道尾さんのプロとしての矜持のようなものを感じました。
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