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『金色の獣、彼方に向かう』あらすじとネタバレ感想!恒川光太郎が描く短編ダークファンタジー

harutoautumn
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鎌倉の山中に庵を結ぶ僧に、謎めいた旅の男が語り聞かせる驚くべき来歴―数奇な運命により、日本人でありながら蒙古軍の間諜として博多に潜入した仁風。本隊の撤退により仲間とともに取り残されるが、やがて追われる身となった一行を、邪神「窮奇」に仕える巫女・鈴華が思いのままに操りはじめる。(第一話「異神千夜」)元寇に際して渡来した一匹の獣。姿形を変え、時に悠然とたたずみ、時に妖しく跳梁する。古より潜むものたちの咆哮を、瞠目の幻視力で紡ぐ、傑作ダークファンタジー四篇。

「BOOK」データベースより

恒川光太郎さんの描く短編ダークファンタジーである本書。

収録されている四編は時代や背景が異なる中で、共通する部分も次第に見えてきて、読み込むほどに深みが出てきます。

恒川さんらしい静謐さ、切なさ、幻想的な雰囲気など、本書でしか味わえない感覚で満たされているので、読書がとにかく楽しい一冊です。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

黒神千夜

人里離れた山にある草庵に、遼慶という僧侶が暮らしていました。

花と風と水に囲まれ、彼にとって理想的な暮らしがここにあります。

ある日、遼庵は泉の近くで一人の男と出会います。

遼庵は男に声を掛け、話し相手として草庵に誘います。

男は怪しいものが現れたことがないかときき、もっといえば妖怪変化のようなものを聞いていました。

そして、遼庵に話を向けられた男は、少しずつ昔話を始めますが、それによって男の質問の意味が明らかになります。

風天孔参り

岩さんは道路を挟んで向こう側に樹海があるところで、レストラン兼宿を営んでいました。

ある日、昼間にグループ客が訪れますが、その日の夜、昼間のグループにいた一人の女性が再度訪れます。

女性は月野優と名乗り、ここに泊まりたいのだといいます。しかも長期で。

こんなところに長期で泊まる理由は分かりませんが、岩さんは彼女を泊めます。

やがて岩さんは優のことが気になるようになり、少しずつ関係を深めていきますが、その中で優の口から『風天孔参り』という言葉が出てきます。

森の神、夢に還る

私は精霊のような存在で、稲光山のふもとに住んでいました。

日光が苦手で、動物に憑依することができる、不思議な存在。

そんな私はある夏の晩、蒸気機関車を見に行くと、夜の駅でナツコと出会います。

私は彼女の美しさに惹かれ、彼女に憑依してついていくことを決めます。

私は彼女の美しさに惹かれ、彼女に憑依してついていくことを決めます。

森から離れて力が弱まるとしても、この衝動は止められませんでした。

こうしてナツコに気が付かれることなく、二人の不思議な共存生活が始まります。

金色の獣、彼方に向かう

大輝は樹海近くに住んでいました。

多くの怪異伝説が語り継がれていて、その一つとして猫の墓堀人というものがあります。

麦藁帽子をかぶった老人がスコップで猫の墓を堀り、気が付くとその穴は埋められていて、新たな穴を掘っているのだといいます。

そんな場所で、大輝は千絵という二歳上の少女と、のちにルークと名付ける金色の鼬のような生き物と出会います。

明確な意思を持ったようなルークと、発言が嘘か本当か判断がつかない千絵。

この出会いが、大輝の生活に大きな変化をもたらします。

感想

不思議な感覚

僕は本書に収録されている『風天孔参り』をドクショと!さんのポッドキャストで知り、手に取りました。

四編に共通するところとして、確かにダークな雰囲気ではありますが、そこには超常現象がメインなホラーというよりも、人間の愚かさや浅ましさ、切なさが込められていて、不思議な読了感を得ました。

時には優しい気持ちになり、時には切ない気持ちになり、時には怖いのかちょっとドキドキする。

情報量が適切でリーダビリティが抜群ということもあって、本書の世界にのめり込むまではほとんど時間がかかりませんでした。

人間の愚かさ

どの話も面白かったですが、僕は特に『風天孔参り』がお気に入りです。

優の不思議な魅力はもちろんですが、岩さんの良い意味での平凡さがよく描かれていました。

五十代で達観しているようで、内心は二十代の若くて美しい優に気がある。

おじさんらしい間違った配慮、話を聞いているようで全然受け入れていない頭の固さ。

全てを失ってから後悔する身勝手さ。

読んでいてそのひどさが目に尽きますが、実際はこんな人はごまんといるわけで、その描き方がとにかく秀逸でした。

恒川さんの作品は部分で見ると人間の醜さや浅ましさがふんだんに込められているのに、作品全体として見るとどこか神秘的な様相を呈する。

贅沢な読書でした。

おわりに

何も引っかかることなく純粋に物語を楽しむことができる。

これがどれだけ基調でありがたいことか。

恒川さんの作品を読むたびに思うことだし、感謝の気持ちが止みません。

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