『有頂天家族』あらすじとネタバレ感想!面白いことを望む狸一族の毛玉ファンタジー
森見登美彦さんによるファンタジー小説で、舞台はお馴染みの京都です。
『夜は短し歩けよ乙女』など森見さんの著書を読んでいるとちょっとした関連も見られ、より楽しめます。
狸、天狗、人が混在しており、そこに森見節が炸裂するので、もう何でもありです。
物語に入りこむのに少し時間がかかるかもしれませんが、一度入り込んでしまえばあとは心のままに楽しむだけです。
あとアニメ化もされていて、かなり丁寧に作られているので、原作を気に入った人は必見です。
以下は『有頂天家族 2』のPVですが、アニメのイメージがつくと思います。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
争う二つの一族
物語の舞台は京都。
京都には人、狸、天狗が千年以上に渡って共生していました。
主人公は狸の名門・下鴨家の三男である矢三郎です。
矢三郎の父・総一郎は稀有の才能を持っていましたが、何らかの理由で狸鍋となって帰らぬ人となり、そこから下鴨家の没落は始まります。
下鴨家には矢三郎含めて四人の子どもがいますが、いずれも総一郎の才能の一部分しか受け継がず、ライバルである夷川家が幅を利かせることを許してしまいます。
殺伐としているわけではありませんが、物語の根底にはこの対立構造があります。
危険極まりない美女
物語の中心に、弁天という美女がいます。
弁天とはあだ名のようなもので、本名を鈴木聡美といいます。
下鴨一族は天狗の赤玉先生の教えを受けることが習わしになっていて、赤玉先生が引退した後も矢三郎だけは何かと気にかけていますが、引退の原因を作ったのが弁天でした。
弁天は赤玉先生の教えで力をつけ、一方で赤玉先生を引退に追い込むと、今では人間の身で天狗のように好き勝手していました。
金曜倶楽部という秘密の会合に参加しており、会員は七福神にちなんで呼ばれることから彼女は弁天と呼ばれています。
矢三郎はこの弁天に恋するも呆気なく敗れ、逆に狸鍋が好物である弁天に命を狙われる始末。
この弁天が自由気ままで幻想的で、残酷でいて良いところもありと、至る場面で魅力的に描かれています。
父の死の真相
総一郎がなぜ狸鍋にされてしまったのか。
はじめは謎のままでしたが、物語が進むにつれて関係者が少しずつ口を開き、終盤になってその全貌が明らかになります。
本書のタイトルにある通り、『家族』というものが一つのテーマになっていて、その事実は下鴨家に少なからず衝撃を与えます。
基本的にコメディ路線ですが、総一郎の死に関係する話には悲しみや寂しさがつきまとい、物語に絶妙なアクセントを与えてくれます。
感想
面白いのに時々切ない
ファンタジーというカテゴリーに分類される本書ですが、話はそこまで壮大ではありません。
個人的にはコメディ作品だと思っています。
一族同士の争いだったり、狸鍋として食べられてしまう危険性だったり、普通に考えるとかなり緊迫感のあることが描かれています。
しかし、登場する狸や天狗、人はいつも飄々としていて、真剣味が足りないせいかそんな緊迫感とは無縁です。
いつでもふわふわしていて、最初から最後まで楽しく読めました。
一方で、総一郎の死の真相や弁天の時々見せる憂いなど、切なくなる場面も所々挟まります。
これが良いアクセントになっていて、ただ面白おかしく暮らしているだけではないのだと分かり、より作品に感情移入してしまいました。
どこか憎めない登場人物
登場するのは人以外がほとんどですが、ここではややこしいので登場人物と表記します。
主人公である矢三郎をはじめ、下鴨家の面々はもちろんのこと、ライバルの夷川家、赤玉先生や弁天など、とにかくどの登場人物のキャラクターが立ちまくっています。
これが多く集まろうものならキャラクターの大渋滞です。
これだけだとただお腹が一杯になってしまいますが、そこを矢三郎がうまく立ち回ることで何とかまとまり、絶妙な面白さを生み出しています。
個人的には矢三郎と弁天とのやりとりがお気に入りです。
どこまでも決着のつかない平行線のやりとりに見えて、お互いにお互いのことをよく理解している。
短いながらもユーモアが詰まっていて、ついじっくり読んでしまいました。
おわりに
はじめは訳が分からないストーリーだなと思いながら読んでいましたが、気が付くと頭の中には『有頂天家族』の世界がしっかりと築かれていました。
誰の想像も及ばない世界を強引かつ丁寧に植え付ける。
改めて森見さんの描く物語の強さに驚かされました。
次の話はこちら。
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