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森見登美彦『太陽の塔』あらすじとネタバレ感想!変態な紳士が失恋した人に捧ぐ物語

harutoautumn
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私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった!クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。

「BOOK」データベースより

森見登美彦さんのデビュー作である本書。

僕はそうと知らず読みましたが、そのクオリティや世界観に驚きました。

すでに唯一無二の世界を構築し、自由気ままに動き回る登場人物たち。

カッコイイことを言っているようで、そのほとんどはしょうもなかったり恥ずかしい内容で、特に男性の方が思い当たる節があるのではないでしょうか。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

本書は主人公である私の手記という形で進行します。

研究という名のストーカー

私は現在、京都大学農学部を休学中の五回生という、大学生の中でもタチの悪い部類に所属していました。

三回生の時、私は万策を尽くして水尾という後輩を篭絡し、交際に持ち込みますが、後に振られます。

原因については語られず、その前後のことがぽつぽつ書かれている程度です。

水尾は男を見る目がないと吐き捨てますが、未練タラタラなのは明らかで、私は『水尾さん研究』という名目で彼女を付け回します。

一週間のスケジュールを把握するほどの徹底ぶりで、誰がどう見てもストーカーでした。

ライバル?

私がいつものように水尾のストーキングをしていると、見知らぬ男からやめるよう警告されます。

調査の結果、男が水尾と同じ学部の三回生、遠藤正であることが判明します。

遠藤の口ぶりからして水尾と親しい間柄であるように感じられますが、何てことはありません。

彼もまた私と同じで、水尾のストーカーだったのです。

一人の女性をめぐって、二人のストーカーは火花を散らし、最後に思いがけない結末が待っていました。

ええじゃないか騒動

私やその友人たちにとって忌むべきクリスマス。

友人の飾磨(しかま)に連れられ、私はクリスマスイブの四条河原町に繰り出します。

二人は江戸時代に起きた騒動にならって『ええじゃないか』と口にし、通りがかる人にも声をかけます。

それは種火にもならないはずの些細なことでしたが、二人の予想に反して『ええじゃないか』の言葉は瞬く間に四条河原町に広がり、文字通りの『騒動』に発展します。

浮足立つクリスマスイブの雰囲気を吹き飛ばした先に、私は何を見て何を思うのか。

その先はぜひ本書を読んで確かめてみてください。

感想

妄想の極致

男性であれば誰でも通るであろうくだらない、そして夢に溢れた妄想。

それをこれでもかとぶちまけているのが本書です。

しかし、本書の主人公である『私』は一味違います。

妄想と現実との境が曖昧で、元彼女である水尾さんを研究と称してストーカーし、それを崇高な行いだとばかりに正当化します。

本書に登場する『変態』と『紳士』という言葉を見て、『変態紳士』という言葉を久しぶりに思い出しました。

日本でも有数の学力を誇る京都大学に入学できたのに、今は休学中の五回生で、アルバイトや読書、それからストーキングと桃色の迷宮を探索する日々。

本来、優秀であることが容易に想像できるのに、それを違った方向で発揮する生粋の変態です。

一方で、クリスマスのことを親の仇のごとく嫌うあたりに世間一般への劣等感が見てとれ、切なくなる瞬間もありました。

振り切り過ぎて痛快なのに、ふと我に返ると切なくなってしまう。

絶妙なバランスで、森見さんのセンスの高さがうかがえました。

ふと漏れる本音

ここまで書いた内容だとろくでもない私ですが、たまに漏らす本音が素直で胸にじわりと広がります。

そこには等身大の失恋した大学生の姿があり、共感したという人も多いのではないでしょうか。

どれだけ強がっても、いつかは事実を受け入れて前に進まないといけません。

私は本書の中で、強がりから事実を受け入れるだけの成長を見せ、それは失恋中の読者の良き理解者となります。

はじめに登場した時の印象が印象なだけに、その成長ぶりには感動してしまいました。

彼の成長ぶりははじめとおわりの二行に凝縮されているので、ぜひ注目してみてください。

おわりに

痛々しくも、ここまで描き切ることでそれを痛快なものに変えてくれた本書。

森見ワールドがこれでもかと炸裂していますので、別の作品から森見さんを知ったという方にもぜひ読んでほしいと思います。

おかしくて笑えるのに、どこか切なさが漂う変態紳士の強がり。

こんな物語を夢中で読んでいる時ほど嬉しい時はありません。

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