『使徒の聖域』あらすじとネタバレ感想!作品に漂う違和感の正体とは?
カウンセラーの千尋は、自殺志願者の奈央から自殺サイトの存在を知らされる。その管理人は、8年前に知り合った「ヒロアキ」ではないかと疑いを抱く。過去を辿っていくうちに明らかになる真相とは!?
Amazon商品ページより
『違和感の小説』という帯に書かれたフレーズがなんとも読書欲をそそる本書。
あらかじめ結末に近い内容が提示されてから過去に遡るので一種の先入観が植え付けられますが、やがてその認識が誤りであることが分かります。
ボーっと読んでいると突然の変化についていけない可能性があるので、一瞬も気が抜けません。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
死刑
冒頭、拘置所で私とヒロが面会しているシーンから物語は始まります。
ヒロは四人を殺害した罪で死刑が言い渡されていて、控訴はしないつもりです。
私はカウンセラーとしてヒロの抱える闇を追い続けて、二人の出会いはずっと過去に遡ぼることが明かされます。
二人はどのような時を重ねてきたのか。
なぜ私はヒロに執着するのか。
ここから時系列を前後させながら二人の過去が明かされます。
自殺サイト
美谷千尋は都内のクリニックでカウンセラーをしながら、大学時代のサークルOBである八木田が館長を務める図書館でも時々カウンセリングをしていました。
ある日、今道奈央という少女が図書館にいる千尋の元を訪れます。
奈央は不登校状態にあり、何かしでかす気配がありました。
千尋が少しずつ話を聞くと、奈央はとある人と自殺する約束をしているといってとあるSNSアカウントを見せてくれます。
『首絞めヒロ』というそのアカウントは苦しまずに死ねる方法を教えてくれるのだといい、奈央はもうすぐで自殺を決断しようという状態です。
千尋はなんとか日程を後にするよう説得し、一方であることに気が付きます。
首絞めヒロのサイトで公開されている自作小説に見覚えがあり、それは八年前に出会ったヒロアキが書いたものでした。
出会い
高校三年の夏。
予備校に向かう途中で千尋は何者かに首を絞められます。
抵抗したおかげで命は助かりますが、千尋は自分の首を絞めた男と目が合って不思議な感覚に陥ります。
その目にはSOSのサインが感じられ、自分ならば救えると思ってしまったのです。
これが千尋とマミヤヒロアキの出会いでした。
ヒロアキは千尋よりも少しだけ年上で、千尋が通報するといっても動じる素振りすら見せません。
こうして千尋は一方的にヒロアキに興味を持ち、彼の抱える闇を分析しようと試みますが、それがやがて大きな事件へと繋がっていきます。
感想
調査が怖くもスリリング
本書は千尋がヒロアキと出会い、異常な執着を持って彼を追い続けるというのが基本の形になっています。
カウンセラーとなった段階であればまだしも、何でもない高校生である段階でそこまで執着するのか。
しかも自分の首を絞めるような異常な相手を。
導入がやや不自然な気もしますが、そこを除いては興味を惹かれる展開といえます。
何も知らないヒロアキがどういう人物なのか追う中で彼の姿が少しずつ見えてくるわけですが、それが全てとは限りません。
どういった心理からそんな行動に及んだのか。
予想しては外れ、再びヒロアキを知るための手掛かりを追い求める。
この繰り返しが怖くもあり、それだけでなく非常にスリリングで、ミステリ・サスペンスの面白さが詰まっていると思います。
二人の関係
千尋とヒロアキの関係をどう呼ぶべきなのか迷います。
男女というとつい恋愛感情を思い浮かべがちですが、そう簡単な関係には見えません。
その感情が全くないとはいいませんが、そのほかにそれぞれの自己中心的な気持ちだったり常人には理解できないものだったりが含まれている気がして、理解できるのはこの二人だけなのかもしれません。
描写が増えれば増えるほど分からなくなる二人の関係性。
本書における魅力の一つといえます。
違和感の正体は賛否両論
帯にも書いてある『違和感』について、これは賛否両論が予想されます。
僕ははじめて仕掛けに気が付いた時、何が起こったのか分からず戸惑い、理解するまでに同じところを何度も読んでしまいました。
驚いたのは確かで、『違和感』という言葉にも納得です。
一方で、この設定自体に納得がいったかというと難しいところで、読者の意表を突くために無理やり考えたような不自然さを感じ、これはヒロアキに興味を持った千尋への違和感にも繋がります。
これも帯にある『違和感』なのだとすれば問題がないわけで、個人的には可もなく不可もなくといった評価にせざるを得ません。
おわりに
森さんのこういったダークテイストの入った作品も好きで、概ね楽しく読むことができました。
あまり深く考えずに読んだ方が小説は楽しいなと思った、そんな一冊です。
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