ミステリー

道尾秀介『シャドウ』あらすじとネタバレ感想!次々と襲い掛かる不幸の先にある真実とは?

人間は、死んだらどうなるの?―いなくなるのよ―いなくなって、どうなるの?―いなくなって、それだけなの―。その会話から三年後、鳳介の母はこの世を去った。父の洋一郎と二人だけの暮らしが始まって数日後、幼馴染みの亜紀の母親が自殺を遂げる。夫の職場である医科大学の研究棟の屋上から飛び降りたのだ。そして亜紀が交通事故に遭い、洋一郎までもが…。父とのささやかな幸せを願う小学五年生の少年が、苦悩の果てに辿り着いた驚愕の真実とは?話題作『向日葵の咲かない夏』の俊英が新たに放つ巧緻な傑作。

「BOOK」データベースより

道尾秀介さんの作品で、第7回本格ミステリ大賞を受賞しています。

道尾さんの作品というとあまりミステリのイメージがありませんでしたが、読んで大正解でした。

『向日葵の咲かない夏』は救いの物語として書いたつもりが読者にそのメッセージがうまく届かず、もっと分かりやすい救いの物語として書かれたのが本書です。

その言葉通り、中盤にかけて登場人物みんなが不幸な目に合いそうな勢いで沈んでいきますが、事実が一つずつ浮かび上がることで救いの光が見えてきて、最後にホッと安堵の息をつけるように出来ています。

人間の感情の揺れ動きはもちろんのこと、ミステリ部分自体もよく出来ていて、文句なしでオススメの一冊です。

以下のインタビューで本書についても少し語られています。

累計発行部数600万部記念 道尾秀介ロングインタビュー

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

タイトルの意味

内容に入る前に、タイトルの意味について。

本書には投影という心理機制が登場しますが、これは自分の心の中にある好ましくない部分を否定するために誰か違う人に置き換えて考えることです。

つまり、嫌いな自分を相手に投影することで自分には問題がないと思い込もうとする行為で、投影する相手のことをシャドウと呼びます。

物語中には心理学に関係する言葉、知識が数多く登場しますが、どれも丁寧に説明されていますので、詳しくは本書を読んで確かめてください。

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あらすじ

二人だけの生活

我茂洋一郎の妻・咲枝は癌によってこの世から去り、我茂と小学五年生の息子・凰介の二人だけの生活が始まります。

死を覚悟していたとはいえ二人は悲しみに暮れますが、我茂の学生時代からの友人・水城徹や妻の恵、娘で凰介の同級生・亜紀が二人を励ましてくれます。

そんな中、凰介は前触れなく憶えのない奇妙な光景を見ることが何度かありました。

視界が縦の格子で塞がれ、その向こう側で交わる二つの裸体。

その側でこちらを見る小さな男の子。

この光景を見る時、凰介は決まって恵か亜紀と話していました。

なぜこんな光景を見るのか。

しばらく謎のままになりますが、終盤になってその意味が明かされます。

歪んだ家族

我茂家を支えてくれる水城家ですが、こちらはこちらで問題を抱えていました。

二年前のあることをきっかけに水城は亜紀が自分の子どもでないと疑っていて、それ以来、常に恵の浮気を責めていました。

恵はそんな生活に疲れていて、亜紀にとって家は心休まる場所ではありませんでした。

我茂の知らない、歪んだ水城家。

そんなある日、恵が水城の勤務先である病院の屋上から飛び降りて亡くなったと知らせが入ります。

警察は知りませんが、水城は恵の遺書を見つけていて、自殺が濃厚でした。

そのすぐ後に今度は亜紀が車に轢かれ、腕を骨折します。

轢いた車のドライバーは亜紀が自ら飛び出してきたと証言。

あれだけ仲良く付き合っていた我茂家と水城家は、咲枝の死をきっかけに一気に不幸に向かって落ちていきます。

再発

不幸はこれだけではありませんでした。

咲枝を失った我茂は、精神的な病を再発してしまいます。

異変を感じ取った凰介は、我茂のお世話になっている精神科医の田地にこのことを相談します。

田地は我茂をまた治すといってくれますが、不安はそれだけではありませんでした。

凰介はパソコンのゴミ箱をたまたま覗くと、そこには恵の遺書と全く同じ文面のファイルが残されていました。

最終更新日は恵が亡くなった日の夜で、遺書の内容を我茂が知ることは出来なかったはず。

凰介の胸のうちは不安でいっぱいになりますが、大好きな父親を支えられるようになろうと決意し、様々な行動に出ます。

その結果、一連の騒動に隠された真実が次々に明らかになります。

感想

苦しみの先の幸せ

『向日葵の咲かない夏』で伝えきれなかったことを伝えるために書かれた本書ですが、受ける印象としては全くといっていいほど異なり、こちらの方が分かりやすく、リーダビリティに優れていました。

咲枝の死をきっかけに始まった不幸の連続。

幸せな生活を勝ち取るため、懸命に足掻く凰介と亜紀。

最悪な展開を予期させる要素が数えきれないほど盛り込まれ、それに抗うには凰介たちはあまりにも幼く、頼りなく映ります。

しかし、現状を打破しようとする中で二人は成長し、物語の最初と最後ではまるで別人のようになっていました。

そこに至るまでの心理描写はとても丁寧で、まさに救いの物語です。

僕は『向日葵の咲かない夏』も読みましたが、こちらは奇抜で面白いものの、救いというものを見出せなかったので、道尾さんのメッセージが今度こそは正しく伝わったのだと嬉しくなりました。

ミステリとしても優秀

道尾さん自身、あまりジャンルにこだわりがなかったそうですが、ミステリという存在を知ってそのルールに従って執筆されたのが本書です。

そのため、物語の至るところにかすかな違和感、事件を解決に導くためのヒントが散りばめられていて、それが終盤になって一気に回収されます。

この緻密な組み立て方は見事で、ちょっとしたアイテムすら推理に組み込んでしまうあたりに構成の上手さを感じました。

一方で、謎解きが主な楽しみ方というミステリとはやや異なり、あくまで事件解決までに至るまでの凰介たちの行動、心理状態の変化が一番の楽しみどころではないかと考えています。

そういった意味で謎解き要素が主張しすぎることはなく、かといって物足りなさを感じさせることもない、絶妙なバランスになっています。

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おわりに

本書はミステリと括ってしまうにはもったいないと思えるほど物語が面白く、誰にでもオススメできる文句なしの名作でした。

もちろんミステリとしても大賞に選ばれるだけあって解き応えがあり、ミステリファンの欲求を満たすにも最適です。

僕も長らくそうでしたが、『向日葵の咲かない夏』から道尾さんに入るとその一冊で終わってしまって次の作品に手を出さないという人もいると思います。

しかしそれは本当にもったいなくって、こんなにも多くの人に受け入れられる作品もあるので、道尾秀介という作家さんを知る上で本書にはぜひ挑戦してほしいと思います。

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