『おそろし 三島屋変調百物語事始』あらすじとネタバレ感想!怖くも心温まる宮部みゆき版百物語
ある事件を境にぴたりと他人に心を閉ざしてしまった十七歳のおちか。ふさぎ込む日々を、叔父夫婦が江戸で営む袋物屋「三島屋」に身を寄せ、黙々と働くことでやり過ごしている。ある日、叔父の伊兵衛はおちかに、これから訪ねてくるという客の応対を任せると告げ、出かけてしまう。客と会ったおちかは、次第にその話に引き込まれていき、いつしか次々に訪れる客のふしぎ話は、おちかの心を溶かし始める。三島屋百物語、ここに開幕。
Amazon商品ページより
宮部みゆきさんのライフワークともいえる本書およびシリーズ。
怪談系ではあるのですが、その先にある温かさや切なさは格別で、何の迷いもなく人にオススメできる名作に出会えたという感動がとにかくすごいです。
ホラーが苦手という人にもオススメできるので、とにかく多くの人に読んでほしい一冊です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
三島屋
物語の舞台は、袋物屋の三島屋です。
三島町界隈には袋物屋として名店が二つありますが、三島屋はその中間に店を構えることで、二つの名店を行き来するお客さんを取り込むことに成功して成長しました。
拡大にともなって作業場を別の貸家に移しますが、かつての作業場だった屋敷は主人である伊兵衛が趣味である碁で使うようになり、屋敷は「黒白(こくびゃく)の間」と名付けられました。
奉公
三島屋に奉公にあがった娘がいて、名前をおちかといいます。
おちかは十七歳で、伊兵衛の長男の娘、つまり姪にあたります。
奉公というよりは行儀見習で、傍から見れば嫁入り前の修行のように見えますが、長男にはそれ以上の深い理由がありました。
その理由は少しずつ明かされますが、おちかは過去の事件に囚われ、本来の彼女を失っていました。
来客
ある日のこと。
三島屋には伊兵衛と約束したお客さんが来訪予定でしたが、伊兵衛は急遽別件が入り、約束したお客さんと会うことが出来なくなってしまいます。
伊兵衛は代理をおちかに依頼して、丁重に謝罪してお帰りいただくよういいます。
おちかに反論する隙はなく、一人でお客さんと会うことになります。
事件のせいで人とコミュニケーションをとることを避けていたおちかにとって、これ以上ないほど嫌なシチュエーションです。
そうこうしているうちに予定のお客さんが現れるわけですが、庭の曼珠沙華を見つけると、どうも様子がおかしい。
おちかがたずねると、彼はその理由について語ってくれます。
感想
リーダービリティが高い
まず思ったことが、圧倒的なリーダービリティの高さです。
本書の魅力がしっかり伝わるのはそのおかげで、宮部さんのレベルの高さが冒頭からうかがえます。
江戸の話ということで、時代物を読まない人からすると、何から何まで耳慣れない言葉、風習で、どうしても読むペースは落ちます。
単語を忘れれば読み返す、を繰り返すことになるので、どうしてもリーダービリティは損なわれます。
その中で宮部さんは読みやすいだけでなく、細かいことを抜くにしても話が成立するよう書いていて、読者に非常に優しい構成だなと感心してしまいました。
適度な怖さ
本書は百物語と銘打っているので、当然怖さは内包されています。
とはいえ、精々友人同士でやる怪談話程度で、直接危害を加えられるような怖さはありません。
しかし、まったく怖くないということはありません。
三島屋を訪れるお客さんの話は初見でも怖いけれど、あとで考察することで怖さを増すこともあります。
またおちか自身が経験したことも怖さを含んでいて、物語が適度な緊張感を持っていることも面白さの要因の一つです。
おちかの成長
本書はなんといってもおちかの存在が良いです。
冒頭では過去の事件によって心を閉ざしていますが、それが次第に開かれていきます。
それもかなりゆっくりで、本書を終えても完全に立ち直ったというほどではありません。
それでも小さな出来事を積み重ねておちかの中で色々な葛藤があり、それを超えた先に成長がある。
じれったくもありますが、だからこそ等身大の少女がありありと浮かび、最後までハラハラしつつも感動することができました。
おわりに
宮部さんの代表作にふさわしい一冊です。
続編もあり、多くの読者に支持されていますので、読んで絶対に損のない作品でした。
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