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『キネマの神様』あらすじとネタバレ感想!どん底から再生までを描く感動エンタメ

39歳独身の歩は突然会社を辞めるが、折しも趣味は映画とギャンブルという父が倒れ、多額の借金が発覚した。ある日、父が雑誌「映友」に歩の文章を投稿したのをきっかけに歩は編集部に採用され、ひょんなことから父の映画ブログをスタートさせることに。“映画の神様”が壊れかけた家族を救う、奇跡の物語。

「BOOK」データベースより

本書はW主演の一人として志村けんさんが名を連ねる形で映画化を予定していましたが、志村さんが新型コロナウイルスによる肺炎悪化で亡くなり、撮影は一時中断。

現在は沢田研二さんの出演が決まり、2021年公開を目指して制作しています。

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原田マハさんといえば『楽園のカンヴァス』などの美術に関する知識を活かした作品もあれば、『本日は、お日柄もよく』などの痛快で最後に感動を与えるエンタメ作品もあり、本書は後者に当たります。

ご都合主義が過ぎるという声も聞かれますが、そこにエンタメの醍醐味があると僕は思っていて、本書は驚きの連続で最後の最後まで読者を楽しませてくれます。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

タイトルの意味

内容に入る前に、タイトルの意味について。

『キネマ』とは映画を意味するキネマトグラフの略で、今では『シネマ』と並んでレトロ趣味から使われる言葉として定着しています。

『キネマの神様』とは作中に登場するブログのタイトルで、文字通り、映画の世界を司っている神様という意味で用いられています。

このブログはキネマの神様の使徒があらゆる映画に関する感想・評論を神様に報告するという形で映画を紹介しています。

もう一つの意味として、作中で『映画館にはキネマの神様がいる』と言われており、どちらかというとその意味がメインではと思っています。

本当にキネマの神様がいるのかどうかは、皆さんの目で確かめてください。

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あらすじ

どん底

円山歩は四十歳手前にして社内に流れる事実無根の噂で居場所をなくし、思い切って退職。

しかし、問題がありました。

歩一人であればどうとでもなりますが、問題は彼女の父・郷直(さとなお)にありました。

郷直は重度のギャンブル好きで、どれだけお金がなくても歩がいるから大丈夫だと借金を重ね、このままでは歩の母も含めて一家共倒れです。

歩は郷直の大好きな映画を糧に生きていけるようネットの使い方を教え、郷直はネット中に広がる映画関係のブログを夢中で読み漁ります。

一方で、歩にも転機が訪れます。

それは映友社という映画雑誌を手掛ける会社からのライターのオファーでした。

キネマの神様

映友編集長・高峰はかつて日本映画界の黄金時代を築いた人で、郷直が勝手に英友のブログに投稿した歩の評論を見て、すぐさまオファーしたのでした。

歩は映画の世界でまた働けることに喜びますが、映友はがけっぷちで歩の肩にかかるプレッシャーは半端ではありません。

その時、起死回生のアイディアを思いつきます。

郷直は『ばるたん』という管理人が運営するブログにメールを送り、それがばるたんの目を引きます。

ばるたんは実は高峰の息子で、郷直に映友のブログを書いてもらえないかと考えたのです。

こうして郷直は執筆作業を始め、ブログ『キネマの神様』は大ヒット。

広告料が入るようになり、映友は一気に活気づきます。

ライバル

『キネマの神様』は歩のかつての同僚・清音の協力で英語に翻訳され、世界中で見られる媒体に成長します。

郷直の評論に賛否両論がつく中、『ローズ・バット』と名乗る人物から挑発的なコメントが寄せられます。

英語で書かれた文章は郷直とは違った切り口で映画を評論し、郷直もその評論に対して賛同や反論を繰り返し、やがて二人の応酬が名物となってアクセス数は一気に跳ね上がります。

話がどんどん大きく膨らむ中、新しいシネコンが出来る関係で郷直の友人が経営する映画館が閉鎖を決定。

郷直はどうにか状況を変えられないかと悩み、ついにローズ・バットに助けを求めます。

その言葉が、思いも寄らない奇跡を生み出すのでした。

感想

壮大なスケール

望まない退職と父親のギャンブル癖。

この上ないほどどん底から始まり、予想できないような偶然が連続して起こり、やがてそれらが奇跡を起こす。

もはやエンタメのお手本のような展開で、スケールはみるみる内に壮大になっていきます。

原田さんの作品ではこのスケールの大きさがしばしば見られるのですが、本書ではネットという全世界を繋ぐ媒体、そして映画という共通の文化のおかげでスケールはついにワールドワイドにまでなります。

急展開につい当初の設定などが疎かになりがちですが、作品の芯の部分はブレずに最後まで残っているので、そのあたりのバランスがうまいなと感じました。

とにかくまっすぐで熱い

これは歩や郷直に限らず、登場人物の誰もが熱いものを持っていて、それを臆せずまっすぐ前に押し出してきます。

好きなものは好き、と胸を張れるその姿は頼もしく、読んでいて清々しくくらいに気持ち良かったです。

僕は小説が好きですが、映画好きとも通じるものがあり、頷いてしまうこだわり、名言がたくさんありました。

何かにめり込むことのできる気質の人、いわゆるオタクには共感できる部分も多いのではないでしょうか。

読むには勢いが必要

一方で、そのまっすぐさが時折恥ずかしくなってしまい、読むのを躊躇してしまうことが何度かありました。

青臭いというか、がむしゃらなんですよね。

僕自身、そういった作品は決して苦手ではないのですが、原田さんの『本日は、お日柄もよく』でも同様に躊躇してしまうことがあったので、原田さん×エンタメが完全にははまっていないのかもしれません。

せっかくの名作なだけに、途中で雑念が入ることは残念でなりません。

こういった勢いの必要な作品は案外、映像だとすんなり見れてしまうこともあるので、ぜひ映画が公開された時には見に行きたいと思います。

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おわりに

志村けんさんのこともあり、おそらく本書から原田マハさんに入門したという人も出てくると思います。

それは喜ばしいことで、原田さんは知っておいて損のない小説家の一人です。

ぜひ本書をじっくり読んでいただき、もっと原田さんの作品を楽しみたいという人は本書と同じタイプのエンタメ作品にもいくのもいいですし、『楽園のカンヴァス』、『暗幕のゲルニカ』などの美術が関係する作品にも挑戦してみてください。

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