伊坂幸太郎
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『逆ソクラテス』あらすじとネタバレ感想!作家人生二十年目に生まれた傑作短編集

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逆境にもめげず簡単ではない現実に立ち向かい非日常的な出来事に巻き込まれながらもアンハッピーな展開を乗り越え僕たちは逆転する!無上の短編5編(書き下ろし3編)を収録。

「BOOK」データベースより

伊坂幸太郎さんの作家デビュー二十年目という節目に刊行された本書。

文庫本が出るまで待とうか迷っていましたが、読書欲をそそられるタイトルと評判の良さに負けて単行本を購入しました。

そうしたらこれがめちゃくちゃ面白くて、とあるレビューにあった『伊坂幸太郎版 「君たちはどう生きるか」』というフレーズにも納得がいきました。

青春と呼ぶには幼過ぎる少年や少女が主人公となり、日常のどこにでも転がっていそうな理不尽、窮地に対して知恵と勇気を振り絞って立ち向かう。

大きな事件が起きるわけではないのに大きなことを成し遂げたような達成感があり、自分の現状に思い悩む人にとって良い道標になる作品でした。

この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。

核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

逆ソクラテス

主人公の加賀が、自身の小学六年生の頃のことを、冒険譚を読むような気持ちで思い出す話。

加賀は、小学六年生の時に転校してきた安斎とひょんなことから仲良くなります。

安斎は他の子どもたちに比べて大人びていて、クラスで馬鹿にされている草壁のことを気にしていました。

草壁はクラスメイトや担任から『ダメな奴』という先入観を植え付けられていますが、安斎はそれを覆してやろうと考え、加賀や優等生の佐久間、草壁本人を巻き込んで担任の久留米先生の先入観を崩す計画を立てます。

安斎は計画の中でソクラテスの言葉を持ち出し、彼の言葉とは正反対に位置する『自分は完璧で間違うわけがない、何でも知っている』という『逆ソクラテス』状態を覆すことを目標にしています。

安斎たちの行動は少しずつ周囲に影響を与え、未来に大きな変化をもたらします。

スロウではない

主人公の司は小学校時代の担任・磯憲(あだ名)と会い、小学五年生の時のことを一緒に振り返ります。

司と悠太はクラスで目立たない存在で、何か悩みがあると脳内で映画『ゴッドファーザー』に登場するマフィアのボス、ドン・コルレオーネを思い出し、その悩みを払拭するという発散方法をとっていました。

ある日、運動会のリレーの選手を決める際、二つのチームのうち片方はくじ引きで決めることになり、司は見事に当たりくじを引いてしまいます。

さらに司と同じく、運動神経の悪い村田花も選ばれてしまい、司や花もちろんこと、花の友人で転校してきた高城かれんや悠太も暗い気持ちになります。

しかし、その状況を打破してくれたのはかれんでした。

かれんはインターネットで速く走れる方法を見つけてきて、司と花にあったフォームを教えてくれます。

これで少しはマシになりましたが、面白くないのはクラスのリーダー格である渋谷亜矢です。

亜矢は途端に不機嫌になり、リレーでビリになったら謝れと理不尽な要求をします。

果たして、司たちはリレーでビリを免れることが出来るのか。

やがて運命の運動会当日を迎えますが、物語は思わぬ方向に進みます。

非オプティマス

小学五年生の将太の担任は久保といい、新任にも関わらず覇気がなく、生徒になめられていました。

またその頃、保井福生という少年が転校してきて、常に安そうな服を着ていることから『やすいふくお』と一部のクラスメイトからからかわれていました。

しかし、当の福生はそんなことは一切気にせず、何の縁か将太と仲良くなります。

福生はクラスで威張っている騎士人(ナイト)に反感を持っていて、彼を痛い目に遭わせようと計画を立て、それに将太を巻き込みます。

タイトルの『オプティマス』とは、トランスフォーマーに登場する司令官・オプティマスのことを指します。

彼の口癖に『私にいい考えがある』というものがありますが、彼がその言葉を口にする時、大体うまくいかないというおまけがあります。

では、そんなオプティマスに『非』がつくとどんなことが起きるのか。

とても痛快で、それまでの悔しさがスッとする内容になっています。

また物語が進行するにつれて久保の過去が明らかになり、大人にも色々事情があることを描く一面もあります。

アンスポ-ツマンライク

歩たち五人は小学校の時にミニバスに所属していて、そのコーチが磯憲でした。

小学六年生の時、ミニバスの最後の大会でチームは残念ながら決勝トーナメントには進出できず、あと一歩というところで勝利を掴めなかったことから、この敗北はいつまでも五人の記憶の中に残っていました。

タイトルはその時の試合にちなんでいて、チームメイトと一人・駿介がしてしまった『アンスポーツマンライクファウル(アンスポ)』というファウルのことを指します。

それから十年以上経ち、大人になった五人は久しぶりに再会します。

場所は、チームメイトの一人がバスケのコーチを務める小学校の体育館でした。

五人は小学生たちのバスケを見ながら昔を懐かしみますが、その時、銃を持った男が乱入してきます。

通り魔かと思われましたが、五人はすぐに気が付きます。

六年前、五人は通り魔の男を捕まえたことがあり、その時の男でした。

男は復讐心に駆られ、今すぐにでも誰かを殺害する恐れがありました。

緊迫する中、歩だけは男が乱入した時に器具庫にいたので、まだその存在に気が付かれていません。

歩は恐怖で足が動きませんが、かつての試合での失敗を思い出し、同じ失敗はもうしないと勇気を振り絞って思い切った行動に出ます。

逆ワシントン

謙介と倫彦(としひこ)は、小学校を休んだ友人の靖の家にプリントを届けに行きます。

対応してくれたのは二年前に再婚して靖の父親となった男で、どこか挙動不審なところがありました。

ある日、倫彦は靖が父親に虐待されているのではと言い出し、その根拠として靖の体に出来た大きな痣をあげます。

謙介は一気に不安になりますが、靖の両親に直接聞くわけにはいかないし、靖の部屋は二階で様子を見ることも容易ではありません。

その時、二人はある計画を思いつき、クラスメイトの京樹(あだ名は教授)を巻き込んで実行に移します。

タイトルにあるワシントンはいわずと知れたかつてのアメリカ大統領で、謙介の母親いわく、ワシントンは桜の木を切ったことを正直に言ったことで褒められたというエピソードにちなんでいます。

ちなみに、このエピソードは作り話だそうです。

その逆ということで、どんな結末が待っているのか。

クスクス笑えるだけでなく、思わぬ伏線回収からくる感動があり、本書の締めくくりにふさわしい内容になっています。

感想

令和の伊坂幸太郎

伊坂さんの作品でユーチューバー、ドローンといった現代を代表する名詞が登場したことが意外で、令和という新しい時代に順応していることがうかがえました。

一方で、伊坂さんらしいすごそうで大したことのない登場人物(褒め言葉)、逆に大したことなさそうで良いことを言っている登場人物、思わぬところが繋がりを見せるストーリーが光っていて、令和においても伊坂幸太郎という作家が健在であることを示してくれました。

現実と創作のバランスが絶妙

本書で起きる出来事は規模こそ小さいですが、誰でも経験があるような嫌なもので、リアリティがあります。

誰もが、あの時こうしていれば、なんて思ったはずです。

本書では読者のそんな願いに応えるように問題を解決するのですが、その方法が斬新かつ展開がご都合主義で、このあたりは創作ならではの魅力になっています。

現実と創作がうまく組み合わさることで、本書は単なるエンタメとしてだけでなく、現実を生きる僕らを救ってくれるヒントになり得る可能性を秘めています。

そういった意味で現実と創作のバランスが絶妙で、これが高い評価に繋がっているのだと感じました。

驚かされる伏線回収

伊坂さんはこれまでも物語の構成に定評があり、伏線を驚く形で回収して読者に予想以上の感動と喜びを与えてきました。

本書においても、それは健在です。

序盤の伏線は分かりやすい形で張られ、すぐに回収されるので誰でも見破れるようになっています。

しかし、そのことに満足していると、後から出てくるもっと大きな伏線回収に驚かされることになります。

特に『逆ワシントン』のラストはあっ、と声が出てしまうような演出で、最高の読了感でした。

小さな願いが、時を超えて実現する。

伊坂さんのこの演出は、何度読んでも嬉しくなってしまいます。

おわりに

伊坂さんの作品の中でも特に万人受けで、誰にでも胸を張ってオススメできる名作でした。

今後の自分の人生を支えてくれる。

辛くなった時、本書がきっと心の糧になってくれる。

まだまだ伊坂さんは創作の最前線を走り続けてくれる、と確信できました。

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