道尾秀介『風神の手』あらすじとネタバレ感想!多くの人、長い歳月が一つになる大作ミステリ
彼/彼女らの人生は重なり、つながる。隠された“因果律”の鍵を握るのは、一体誰なのか―章を追うごとに出来事の“意味”が反転しながら結ばれていく。数十年にわたる歳月をミステリーに結晶化した長編小説。
「BOOK」データベースより
道尾秀介さんの作品である本書。
上上町、下上町といった架空の土地を舞台に、一見何の関係もない物語がいくつも進行し、やがて思わぬところで実は繋がっていたことが分かる内容になっています。
ほんの些細なきっかけが後に大きな結果を生み出すという運命のようなものを描いていて、道尾秀介さんならではのスケールを楽しめます。
本書に関する道尾さんへのインタビューはこちら。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
小さな町が舞台
本書の舞台は、上上町や下上町、西取川といった地名のある土地です。
夏は鮎漁や海水浴でにぎわいますが、それ以外の季節は何もなく、娯楽も少ない町です。
本書では花鳥風月になぞらえて四つのパートに分かれ、それぞれ独立した物語が展開します。
花のパートでは一組の若い男女、鳥のパートでは小学五年生の男子二人、風のパートでは花のパートに登場した男女の子どもが主人公となり、それぞれが経験したことが描かれています。
時系列がバラバラで少し理解しにくいかもしれませんが、三十年以上の時を超えて当時の謎が別の人の話によって解けるように構成されていて、読み進めるほどこの町で起きたことが鮮明に浮かび上がります。
全てが伏線といったら言い過ぎですが、当人としてはささいなことでも別の人にとっては重要な意味を持っていたりするので、ぜひ気を抜かずちょっとしたことでも頭の隅に置いておきながら読んでもらえればと思います。
最後の記念写真
本書の各物語を繋げる重要な位置づけにあるのが、鏡影館という写真店です。
ここは世にも珍しい遺影専門の写真店で、写真を撮りにくる人の多くに死が近づいています。
鏡影館に訪れる客自体が重要な意味を持っていたり、鏡影館に飾ってある遺影が謎を解くヒントになっていたりとまさに本書の要です。
もちろんそれだけでなく、死に向かう人に勇気を与えるための写真というコンセプトも興味深く、撮りにきた人の人生や鏡影館のオーナー夫婦の魅力がより引き立つようになっています。
感想
まさに集大成
本書は元々各物語が複雑に絡み合うように考えてはいなかったということですが、そうとは思えないほど見事にリンクし、一つの物語として高い完成度をほこっています。
ある一方からだけでは解けない謎でも、複数の視点を経ることによって真実が浮かび上がるようになっていて、読み進めるごとに真実が少しずつ浮かび上がります。
ミステリというほど謎が重視されているわけではありませんが、ミステリ好きであれば謎が解けていくほど高まる快感はやみつきになると思います。
何が正しいのか
本書では様々な出来事がドミノ倒しのように繋がっていて、長い年月を経て思いもよらない結果を生み出します。
よかれと思ったことが別の誰かを不幸にしていることもあるし、誰かを不幸にする行いが結果的に新しい可能性を生み出すこともあります。
良い結果に繋がったからといって悪事が正当化されるわけではありませんが、どう繋がって何が起こるか分からない人生の奥深さのようなものをしみじみと感じました。
それから正しさについてもちょっと考えました。
その時点では失敗だと思っても、後になって振り返ればそれが思いもよらない可能性を生み出すわけで、そうなると過去のことは失敗とは呼べないかもしれません。
この辺りも人生の奥深いところで、本書の内容とあまり関係ありませんが、前向きに生きるための糧をもらった気がします。
中盤までは多少の我慢が必要かも
本書は後半にいくにつれて加速度的に面白くなってきますが、それまでが人によって評価が分かれるかもしれません。
特に鳥パートでは前の花パートとの繋がりがあまり見られないので、どういう立ち位置の物語なんだろうと困惑する読者もいると思います。
風パートからは全てのことが一気に動き出しますが、そこに辿り着くまでには三百ページ以上あり、結構なボリュームです。
色々なレビューを見ていると、やはりこの部分を許容できるかどうかで評価が分かれているようです。
個人的には多少の我慢をしてでも読んでほしい後半の展開なので、途中で挫けそうになった人もなんとか踏ん張って読み進めて欲しいと思います。
おわりに
作家としてキャリアを着実に積んできた道尾さんだからこそ描ける大作で、まさに集大成です。
冒頭のコナン・ドイルの作品の一説に始まり、ウミホタルの話など興味深い話も数多いので、二度目以降も十分に楽しめると思います。
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