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『冷たい校舎の時は止まる』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

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雪降るある日、いつも通りに登校したはずの学校に閉じ込められた8人の高校生。開かない扉、無人の教室、5時53分で止まった時計。凍りつく校舎の中、2ヵ月前の学園祭の最中に死んだ同級生のことを思い出す。でもその顔と名前がわからない。どうして忘れてしまったんだろう―。第31回メフィスト賞受賞作。

「BOOK」データベースより

学園祭のあの日、死んでしまった同級生の名前を教えてください―。「俺たちはそんなに薄情だっただろうか?」なぜ「ホスト」は私たちを閉じ込めたのか。担任教師・榊はどこへ行ったのか。白い雪が降り積もる校舎にチャイムが鳴ったその時、止まったはずの時計が動き出した。薄れていった記憶、その理由は。第31回メフィスト賞受賞作。

「BOOK」データベースより

辻村深月さんのデビュー作品です。

一作目にして辻村さんの繊細な感性、物語への強い思いと譲れないもの、そういったものがはっきりと感じられる作品です。

しかも、上下巻合わせて千ページを超える超大作。

一気に読もうと思うとつい息切れしてしまうので、のんびり作品の世界に浸りながら読むことをおすすめします。

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

閉じ込められた八人

この物語の主人公となるのは、高校受験を間近に控えた高校三年生八人。

雪が降りしきるある日、八人はそれぞれ登校しますが、いくら時間が経っても他の生徒が誰も登校してこないこと、そして担任の榊含めて教師もいないことに気が付きます。

大雪による休校で、連絡網が回ってこなかったのだと解釈し外に出ようとしますが、一階部分の出口は全て何らかの力によって閉ざされ外に出ることができません。

二階部分の窓などは開きますが、高さからして脱出は不可能です。

八人は担任の榊によるいたずらではないかと思い、改めて校内を探しますが、榊の姿はどこにも見当たらず、三階より上に上がるための階段がどこに見つかりません。

さらに携帯電話はおろか職員室の電話を繋がらず、八人は孤立状態に陥っていました。

八人はただならぬ気配に気づき始め、時計を見て驚愕します。

最後に確認した時は九時台だったにもかかわらず、今や五時五十三分を示していました。

ここにきて、八人は自分たちが二か月前に開催された文化祭に向けて一緒に準備をしたクラス委員という括りでまとめられていることに気が付き、閉じ込められた原因は文化祭のあの事件、生徒の飛び降り自殺が関係しているのではと思い至ります。

ところが、同時に驚きます。

誰一人として自殺した生徒の名前も顔も思い出せないのです。

そして、違和感も抱きます。

事件の直後に榊やこのメンバーで撮った写真がありますが、そこに写った生徒は八人ではなく七人ではなかったか。

つまり、この中の誰かがその自殺した生徒なのではないか。

一方、この物語では『ホスト』と呼ばれる謎の人物が登場し、校舎に閉じ込められた彼らを傍観しています。

ホストは彼らを閉じ込め、望むことは一つ。

それは自殺した生徒のことを思い出し、その胸に罪悪感や後悔を募らせることです。

そんなホストの意図を知らない八人ですが、そのうちの一人である清水あやめがとある話をします。

世界では、極度の興奮状態や緊張状態に陥った人間が自分の精神世界に周囲の人間を閉じ込めてしまうという仮設が立てられていて、子ども、特に女の子に起きやすいと言われています。

自分たちは、そういう状態にあるのではないのか。

そして、ここから脱出することはできるが、この世界に蓋をするために誰か一人が残らないといけないのだといいます。

例外として、蓋をする役目はすでに死んだ人など『幽霊』と呼ばれる存在でも務めることができる。

この場合、自殺した生徒を残していくことが最適だと考えられます。

信じられない状況を目の当たりにして、八人はこの謎に挑みます。

八人の人物紹介

この謎に挑むにあたって、閉じ込められた八人のことを整理したいと思います。

八人が通う青南学院高校は県下一の進学校で、彼らが入学する前に大幅改装があり、設備面でも他校よりもはるかに恵まれています。

そのため入学希望者が増加し、彼らの代は例年よりもさらに偏差値が高くなっています。

個人ごとの詳細は以下の通り。

鷹野博嗣

深月の幼馴染みで、周囲からは付き合っていると勘違いされることもあるが、どちらかというと腐れ縁。

また担任の榊とは従兄弟で、容姿もそっくりでよく兄弟と間違われる。

入学金免除のB級特待生で、成績も優秀。

陸上部に所属し、体育祭ではあやめのミスをカバーするなど運動面も優秀で、あやめからは本当の才能がある『本物』だと一目置かれている。

基本的に優等生だが、麻雀やタバコの経験もあり、ただお堅いというわけではなく、柔軟な対応力も持つ。

一方でどんな時でもマイペースで、閉じ込められてからも焦った様子を見せていない。

辻村深月

著者と同姓同名、分身ともいうべき登場人物。

鷹野とは幼馴染みで、あまり体が丈夫ではないが、鷹野の勧めで陸上部のマネージャーになった。

同じくマネージャーで二年生からクラスメイトとなった角田春子とは仲が良かったが、二年の終わり頃から状況は一変。

二人は志望大学が同じだったが、模試の判定は深月の方が上だった。

おまけに春子は猛勉強、深月はまだ引退せずに陸上部のマネージャーをしているのに、なぜなのか。

溜まった不満は全て深月に向けられ、それを感じ取った深月は態度がぎこちなくなり、それを見た春子はますますエスカレート。

結果として深月は拒食症にまで追い込まれてしまった。

それでも鷹野たちがいてくれたことで持ち直し、その傷も癒え始めていた。

しかし、鷹野と昭彦は文化祭の日、深月が春子に何かを言われて再び傷口をえぐられ、自殺したのではと疑っていた。

菅原

茶色の髪に、片耳にピアスをつけ、いわゆる不良。

閉じ込められた日も、賭け麻雀とタバコがバレて一週間の停学処分をくらい、処分が終わって初めての登校だった。

悪ぶった態度が目立つが、仲間思いで何事も前向き、悪く言えば深く考えない思考の持ち主。

その明るさで、校舎に閉じ込められたという異常な状況の中でもみんなの気持ちを保たせた。

また教師を目指している。

佐伯梨香

景子とは家が近所ということもあって昔からの知り合い。

中学時代は荒れ、高校入学後しばらくも度々停学処分を食らっていた。

高校進学前に両親は離婚。

母親からは高校進学を反対されるなど複雑な家庭環境で育ったが、性格はとても明るく、荒れていた時に自分のことを気にかけてくれた榊に好意を抱いている。

そんな家庭環境から、景子は梨香が自殺した生徒ではと疑っていた。

三姉妹の長女で、高校生の沙弥、小学生の弓子という妹がいる。

不良に思われがちだが頭は悪くなく、何事にも一生懸命に取り組む。

しかし、本人の自己評価は低く、自分のことを好きな充に対して、内心気の迷いだと思っている。

菅原と同様、教師を目指している。

片瀬充

自他ともに認める大人しい性格で、梨香に好意を抱いているが、叶わなくても別に良いと思っている。

過去に何人もの女子に支えてほしいと告白されているが、相手の重たすぎる気持ちに応えることができず、自分は決して優しくないと思っている。

桐野景子

冷静沈着、中性的な美人で、女子からの人気が高い。

感情に乏しい表情であることが多いが、生徒会長の諏訪裕二に好意を抱いているが、彼からの告白は断っている。

彼を独占したい一方、自由な彼を自分が縛ってしまうことが我慢ならず、こういう女性的な部分を受け入れられずにいる。

藤本昭彦

成績優秀で、人が言えないことも平気で口にすることができる自信家だが、それが嫌に感じない性格の持ち主。

特に女子人気は高く、深月が拒食症に陥ったことにいち早く気が付いたのも昭彦で、鋭い観察眼を持つ。

深月のことを必要以上に心配するが、それには理由があった。

かつて通っていた中学で、クラスメイトである沢口豊がいじめを苦に自殺。

沢口が自分を頼りにしていたことは分かっていたのに力になれなかった。

そんな後悔から、同じ思いは二度としたくないという思いが強い。

清水あやめ

成績トップで入学した入学金・授業料免除のA級特待生。

美術部に所属し、絵画のコンクールで受賞するなど絵の才能もあり、周囲から一目置かれている。

一方で本人は自分が『本物』でないと自覚していて、鷹野こそが『本物』だと感じている。

消えていく仲間

手がかりを探して校内を回っていると、通じないはずの携帯に着信が入り、深月が出ます。

最初は何も聞こえませんでしたが、次第に声が聞こえてきます。

それは事件当時の緊迫感のある生徒たちの声で、深月は後にこれを『自殺者の耳になった』と話しています。

これを境に、不思議なことが次から次へと起こります。

一人、また一人と何かの世界に囚われたように過去のことを思い出し、罪悪感の果てに自殺した生徒の名前を思い出します。

しかし、それを誰かに告げる間もなく、姿を消し、代わりにマネキン、または絵に描かれたマネキンが残されていました。

上巻終了の段階で、充、昭彦、あやめが姿を消します。

そして、最初の充が姿を消すと同時に、止まっていた時計の針が動き出すのでした。

深月への執拗な攻撃

次に五時五十三分になったらまた何かが起こるのではとみんなで固まり、菅原の提案で寝てやり過ごそうとする四人。

しかし、今度は梨香がいなくなります。

しかもそれだけではなく、深月の左手首にリストカットしたような痕が浮かび上がり、どこからか自分自身の声が聞こえます。

覚えがないのにその声は自分がやったと主張していて、深月の精神はますます不安定になります。

ホストの攻撃はそれだけに止まらず、景子、菅原も姿を消し、残されたのは鷹野と深月の二人だけ。

そして、このタイミングで半年以上も止まっていた生理がきて、深月は愕然とします。

鷹野は彼女を落ち着けると、睡眠薬を飲ませて眠らせ、次の五時五十三分を待ちます。

そして、迎えたその時。

鷹野の意識は事件のあったあの日にありました。

鷹野は自殺を阻止しようと屋上に向かいますが、忘れている生徒が来た瞬間に意識が途切れ、気が付くと校庭に立っていて、屋上には自殺する生徒が立っていました。

角田春子です。

春子があの日と同じように飛び降り、ただ見ていることしかできなかった鷹野。

そこには榊の姿もありますが、彼だけが記憶と違う動きをします。

鷹野の方を向くと、言います。

ようやく思い出したか、博嗣、と。

真実

鷹野は気が付くと校舎の中にいて、四階の教室に入ると榊が座っています。

榊は全てを知っていました。

死んだのは春子ですが、ここは深月の中だったのです。

ことの始まりは、閉じ込められた前日、深月が榊の家を訪れたことでした。

彼女は自分が春子を殺したと言いますが、自殺の原因は受験ノイローゼであり、深月と揉めたことは関係ありません。

しかし、自殺したあの日、春子は深月に宛てて手紙を書いていました。

仲直りして、元に戻りたいと。

しかし、深月はこれまで何度もそう言ってきましたが、それを拒否したのは春子であり、今さら戻れるわけがありません。

手紙には許してくれるなら屋上に来てほしいと書かれていましたが、深月は行きませんでした。

さらに偶然、その前に鉢合わせてしまい、深月は受け入れられないことを春子に伝えていたのです。

それだけなら深月がここまで追い詰められるのとはありませんでしたが、彼女は遺書となった手紙を処分し、自分が殺したのだと思い詰めていました。

そして、一人ではその責任に耐えられなくなり、みんなを巻き込んだのです。

みんなの記憶から春子の名前を消し、それを忘れてはならないと非難し、最も許せない自分のことは最後まで残して苦しめる。

鷹野たちと一緒にいた深月は攻撃性を欠いて弱い、彼女が理想とする自分であり、本物はこの上、五階か屋上にいるのだといいます。

しかし、自殺から日が経ち、なぜ今なのか。

それは、深月に生理がきたからです。

深月は春子とのことで半年以上生理がきていませんでしたが、それがきたことで精神が安定、春子の自殺を忘れて立ち直ろうとする自分に嫌悪し、覚悟を決めて榊の家を訪れます。

彼女はシャワーを借りたいと言い、そこでリストカットして自殺を計ります。

しかし死ぬことができず、異変を感じた榊が発見、救急車を呼びます。

現在、現実の深月は生死をさまよっているのだといいます。

ここまで話すと、教室に偽物の深月が訪れ、二人の名前を呼びます。

鷹野、菅原と。

担任の榊はいなかったのではなく、最初からいたのです。

菅原榊、それが彼の名前です。

深月は榊が教師でなく同じ生徒だったら深月、春子両方の味方をして、今回の事件にはならなかったのではと思ってしまいました。

だから、彼は生徒として登場し、他のみんなも記憶を変えられ、違和感を抱かなかったのです。

鷹野は真実を深月に告げますが、彼女は受け止めきれずに逃げ、鷹野の榊は後を追います。

深月は五階で本物の自分と会い、全てを思い出します。

屋上に上がった鷹野と榊。

そこには、フェンスから飛び降りようとする本物の深月がいました。

鷹野は止めますが、彼女はそれを拒み、『みんな、忘れて』と残して飛び降ります。

それを追いかけて飛び降り、彼女を抱きしめる榊。

鷹野は屋上から落ちる二人を見つめ、泣き叫びます。

すると、突然大城な光が現れ、二人を守るように包み込みます。

光、春子の魂は言います。

ごめんね、みづき。

みづき、ゆるしてね、と。

結末

春子の魂が蓋をして、無事に脱出できた鷹野たち。

鷹野が目覚めると夜中で、急いで榊の家に向かいます。

ちょうど深月が救急車で運ばれるところで、榊と一緒に同乗。

病院には他のみんなも集まり、深月の無事を祈る中、手術は無事に成功。

一同は安堵しますが、ここで榊は自分が学校を辞めるという噂を肯定し、これまでの騒動は関係ないと言いますが、本当のことは誰にも分かりません。

それから約二年後、七人は無事に大学に進学し、あやめと景子を除く五人は集まり、春子の墓参りに行きます。

一年に一度、お盆の時期にみんなで集まって春子の墓参りに行く。

それが、七人で決めた約束でした。

鷹野とあやめは同じT大学に進学し、梨香は家族の希望、そして榊が残ると思って地元の大学の教育学部に進学。

景子と深月は留年。景子は裕二を追って京都の大学の医学部に進学。

深月は体調不良を理由にその年の受験を断念し、その分勉強して当初よりレベルの高いJ大学に進学。

充も昭彦も都内の大核に進学しています。

そして、鷹野は実家に届いた榊からの手紙を受け、榊が今教師として勤める小学校に一人向かいます。

電車に乗っていると、彼の教え子と思われる小学生から菅原先生に似ていると言われ、弟だと答える鷹野。

電車を降りようとすると、不意に視界の端に何かを捉えた気がして、鷹野はそちらを向きます。

そこにいたのは、制服の冬服を来た角田春子でした。

穏やかに微笑む彼女に高野が苦笑に似た笑みを返すと、春子は満足そうに消えます。

鷹野は今度こそ降りると、榊のいる小学校に向かって歩きだすのでした。

おわりに

かなり内容を端折っていますが、本書ではそれぞれの心情が掘り下げられ、冒険と呼ぶにふさわしい壮大な体験を読むことが出来ます。

デビュー作と侮ることなかれ。

不朽の名作です。

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