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『真実の10メートル手前』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

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高校生の心中事件。二人が死んだ場所の名をとって、それは恋累心中と 呼ばれた。週刊深層編集部の都留は、フリージャーナリストの太刀洗と 合流して取材を開始するが、徐々に事件の有り様に違和感を覚え始める……。太刀洗はなにを考えているのか? 滑稽な悲劇、あるいはグロテスクな妄執――己の身に痛みを引き受けながら、それらを直視するジャーナリスト、太刀洗万智の活動記録。

Amazon内容紹介より

ベルーフシリーズ第三弾となる本書。

第二弾はこちら。

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本作は表題の『真実の一〇メートル手前』を含めた六つの短編からなる作品で、米澤さんの作品を初めて見るという方でも楽しむことができます。

しかし、主人公である大刀洗は『さよなら妖精』から登場している人物なので、そちらを読んでからの方が楽しいのは言うまでもありません。

大人になり、彼女は色々な意味で変化しています。

でも学生時代の面影も残していて、懐かしさと寂しさが入り混じり、不思議な気持ちになりました。

あと、爽やかな類のミステリではなく、真相が判明した後も薄暗さを残す後味のあまり良くないミステリです。

大刀洗の背負った業のようで悲しくもありますが、その中においても自分の正義を貫き、誰かを救おうとする彼女の姿勢には尊敬の念すら抱きました。

この記事では、そんな本作の魅力についてあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

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あらすじ

真実の一〇メートル手前

『王とサーカス』の前日譚として長篇の第一章のつもりで書いたが、担当の編集さんと相談した結果、短編として独立した話。

大刀洗が新聞記者だった時期が舞台になっています。

東洋新聞に入社した大刀洗万智は、後輩の藤沢を連れて山梨に出張していました。

フューチャーステアというベンチャー企業が経営破綻し、社長の早坂一太、妹で広報の真理が失踪。大刀洗は真理の行方を追っていました。

フューチャーステアは詐欺会社だとニュースでは流れていますが、実際に真理にインタビューしたことのある大刀洗はそんな印象を受けておらず、真実を追い求める取材でもあります。

大刀洗は真理の妹の弓美から、真理から連絡があったと連絡を受け、その音声データをもらいます。

そこから大刀洗は真理が山梨にいると推測し、藤沢と向かったのでした。

真理と弓美との音声データから、真理が電話した時にいたと思われる店を突き止め、酔った彼女を介抱したフェルナンドというフィリピン人の青年から話を聞くことに。

大刀洗は事情を話して真理に会わせてくれないかと交渉しますが、傷つき逃げてきた真理を庇うようにフェルナンドは本当のことを教えてくれません。

そこで大刀洗は、真理を苦しめるために来たのではないと説明します。

本人に責任がないことまで含めて罵られている彼女に、何かを言う機会を与えたい。

大刀洗はそう考えていました。

フェルナンドはその言葉を信じ、真理が店の裏にある川に車を止めて休んでいることを教えてくれます。

二人が向かうと、川を挟んだ向こう側に、窓ガラスにスモークフィルムの貼られた車が止めてあって、中の様子は分かりません。

車まで一〇メートルという距離でいつでも写真を撮れるようにカメラを構える藤沢。

と、大刀洗は何かに気が付き、カメラをズームさせます。

すると、窓枠に目張りがしてあるのが見えました。

あることに気が付いた大刀洗は慌てて車に向かって走り出しますが、その時、救急車のサイレンが鳴り、他の誰かが先に気が付き、救急車を呼んでくれたのだと安堵します。

しかし、早坂真理は死亡しました。

アルコールと睡眠導入剤を大量に服用の上、自分の車に排気ガスを引き込んだのです。

死因は一酸化炭素中毒。

事件性はなく、明らかに自殺でした。

正義漢

見知らぬ誰かの目線。

夕方のラッシュを迎えた吉祥寺駅では、ホームに人が飛び降り轢かれたことが原因でパニックになっていました。

辺りが騒然とする中、目線の人物はとある女の存在に気が付きます。

女は口元に笑みを浮かべると、メモを取り、停車した電車の下にあるであろう死体を撮影しようと携帯電話を構えているのです。

しかもさらに現場に近づくと、取り出したボイスレコーダーに声を吹き込んでいます。

この人物は、女を恥を知らない人間だと断じます。

しかし、それより気になったのは、女が『事故』ではなく『事件』と言ったことでした。

普通に考えれば飛び降り自殺のはずなのに、なぜ『事件』だと断言できるのか?

しばらく女のことを観察していると、不意に女が振り返り、こちらを見ます。

そして、言いました。

「人を線路に突き落とした感想はいかがですか?」

場面は変わり、男と先ほどの女が喫茶店に入ります。

女はセンドーと呼ばれ、ここで初めて女が大刀洗だと分かります。

また、この男も高校時代から付き合いのある誰かだと分かります。

二人は事件の前、仕事の用で会っていて、男が線路に落ちたところを目撃していたのです。

そこで大刀洗は事故ではなく事件だと見抜き、男に協力を求めます。

大刀洗はこれは場当たり的な犯行であると推測し、犯人をおびき出すことにしました。

死んだ男は電車内で他の乗客に迷惑のかかる行動をとっていたため、正義漢の犯行だと考えます。

それならば、周りの迷惑を考えずに取材する記者がいれば、より許せないのではと考えたのです。

しかも事件だと声に出したのことで、犯人は犯行を目撃されたのではないかと不安になるはず。

そして大刀洗の予想通り、犯人は無事に現れ、大刀洗に協力した男によって無事に写真に収めることが出来ました。

つまり、最初の視点は犯人のものだったのです。

また犯人が来なければ恥ずかしい思いをするだけ、と涼しい顔の大刀洗。

しかし、男の写真を見て大刀洗はこうも思います。

常識知らずの記者を演じたつもりが、本当に事件を目の前にして喜んでいたのではないか、と。

それは本人にも分かりません。

しかし、大刀洗にも男にもそれを否定することはできず、複雑な心境になります。

そして、会えて嬉しかったと言い残し、大刀洗は立ち去るのでした。

男ですが、おそらく『さよなら妖精』に出てきた守屋でしょう。

文原も考えられますが、最後の嬉しかったと表現するあたり、守屋が適当ではないかと思います。

『さよなら妖精』を読んだ僕としては、この章が何とも言えず辛かったです。

いつか大刀洗が何もかも疲れて羽を休めたい時、またお互いの道が交わり、守屋と結ばれてくれることを祈っています。

それがどれだけ年をとった後であろうと構わないので。

恋累心中

桑岡高伸と上條茉莉という高校生男女が遺書を残し、自殺します。

二人の死は地名の恋累(こいがさね)とかけて、『恋累心中』として報道されることとなりました。

週刊深層に所属する都留正毅は、大貫編集長の命によりこの自殺を担当することになります。

また現地にコーディネーターを手配したと言われ、その人物こそ大刀洗でした。

大刀洗は昨年、三重県の教育委員会や県会議員に爆弾が送り付けられた件について調べていて、その延長線として調査に協力してくれるとのことでした。

都留は周囲からの評判とは違い、大刀洗の有能さに驚き、気が付けば彼女のペースに乗せられてしまいます。

大刀洗はすでに死んだ二人に関わりのある教師とアポイントをとっていましたが、待ち合わせまで少し時間があったため、まずは事件現場を見に行きます。

また待ち合わせのビジネスホテルに向かう途中のタクシーの車内で、都留は遺書が書かれたノートを見せてもらいます。

遺書の最後には、たすけて、と書かれています。

しかし現段階で、それの意味するところは分かりません。

ビジネスホテルの会議室を貸し切りにした大刀洗。

まず現れたのは、去年、上條の担任をしていた下滝という男でした。

下滝は警戒感を露にしますが、質問に答えていきます。

しかし、上條に関していじめはなかったといいます。

また彼氏の桑岡に関してはあまりいい印象は持っていませんでした。

質問はそれで終わり、次に二人の部活の顧問である春橋が来ます。

下滝と違い、二人について思うことを全て言っていく春橋。

また今年度から理科主任を任され、備品管理について手を焼いていることが分かります。

都留は大刀洗と別れ、検屍結果を受けた記者会見から情報を得ます。

上條が妊娠していて、しかも相手が身内であることが判明します。

これで桑岡が彼女を助けようとするも報われず、絶望した二人が自殺に踏み切ったのだという流れが見えてきました。

その後、一人小料理屋で飲んでいた大刀洗に合流する都留。

彼女は、『手をつないであの世に行ける』と書かれていたにも関わらず、二人が別々の場所で発見されたことに疑問を抱いていました。

そこで記者会見にもあった黄燐を飲んで死のうとした話が出てきますが、黄燐は毒性が強くても即死することはなく、長い間苦しみます。

おそらく苦しむことに耐えかねた桑岡は上條を刺殺し、自身で飛び降りたという予想がつきます。

しかし、なぜ二人は毒として黄燐を選んだのか?

そこで大刀洗は、都合の良い情報だけを二人に教えた人物がいたのだと推測します。

そして大刀洗には目星がついていて、二人は翌日、中勢高校に向かいます。

到着すると、校門の前でカメラを構える大刀洗。

二人は黄燐をここから入手したのだと言います。

都留は猛毒である黄燐の在庫数量が合わなくなった状況を考え、責任回避のために二人に黄燐を飲ませた、つまり理科主任である春橋が犯人だと考えましたが、それは違いました。

結論から言って、犯人は下滝でした。

春橋が犯人だと、そもそも黄燐を生徒に持ち出されたことによる責任が発生してしまいます。

また、大刀洗は県議会議員や教育委員会に爆弾が送り付けられる事件について調べていることを思い出し、全てが繋がります。

警察は捜査の過程で犯行に使われたのが黄燐であり、高校に黄燐があることを突き止めます。

下滝は捜査の進展に焦りを感じ、黄燐を急いで処分する必要性に迫られました。

そこで桑岡から楽に死ねる方法はないかと相談を受けた際、黄燐を勧めたのでした。

しかし、実際は楽に死ねる所か死よりも苦しい思いをし、裏切られて二人でした。

名を刻む死

檜原京介は田上良造の遺体の第一発見者でした。

田上は何かにつけて難癖をつける老人で、それが急に静かになったことがきっかけで遺体に気が付いたといいます。

この件はニュースでも報じられ、田上の日記には『名を刻む死を遂げたい』と書き残されていました。

京介は最初こそ遺体の第一発見者としてマスコミに追われましたが、それもすぐに終わり、平穏を取り戻しました。

そんな中、京介はこの件を調査している大刀洗と出会い、彼女が田上の息子に会いにくことを知り、同行することにしました。

向かう途中で、田上は新聞の投稿に対しても難癖をつけていたこと、遺体が見つかった時、記入済みの雑誌についてきたアンケート用紙があったことを教えてもらいます。

京介は田上の息子、宇助と対面しますが、父親に似た粗暴な人物で、ついてきたことを後悔します。

また、田上が父親から続く庭師の会社の専務を務めていたこと、宇助が最近田上の家に来ていたことを知ります。

取材後、事件について京介に大刀洗は説明します。

名を刻む死とは、肩書きつきで死ぬことでした。

しかし、残されたアンケート用紙には無職と書かれており、そこで大刀洗は書いたのが田上ではないと疑っていました。

そこで宇助に報酬を渡す際に領収書を書かせ、筆跡を確認したのです。

その結果、アンケートを書いたのは宇助で間違いありませんでした。

つまり宇助が訪れた時点で田上は生きていましたが、彼は食事を与えるなど手を貸すことはしませんでした。

しかし、三日に行くと家族に公言していた手前、田上には四日以降に死んでもらわないと困ります。

そこで宇助はアンケートを書き、その雑誌の発売まで田上が生きているように偽装したのです。

そして最後に、大刀洗は肩書きに気が付いたのはもっと前、京介の父親に話を聞いた時だといいます。

田上は京介の父親に自分を雇って肩書をくれとお願いするも、断られていたのです。

京介は田上を見殺しにしたことを後悔していますが、それは違うと大刀洗は叫びます。

それでも納得のできない京介に、大刀洗はこう言います。

「田上良造は悪い人だから、ろくな死に方をしなかったのよ」

京介のためを思った言葉とはいえ、胸をえぐるような鋭い言葉ですね。

ナイフを失われた思い出の中に

この話では『さよなら妖精』に登場したマーヤの兄が日本を訪れ、大刀洗と共に行動をします。

兄であるヨヴァノヴィチはマーヤから大刀洗のことをよく聞いていて、彼女と会うことも目的の一つでした。

大刀洗は仕事で忙しい身でしたが、ヨヴァノヴィチは観光はせず、彼女の取材に付き合うことにしました。

彼女はある事件を追っています。

松山花凜という少女が殺害された事件で、犯人は未成年のため報道されていませんが、大刀洗は松山良和という男だといいます。

良和は花凜の母、良子と姉弟でした。

良和は花凜を刺殺し、目撃されて逃走。

現在は捕まっているといいます。

良子たちの母親はすでに死亡していて、父親は定職についておらず、以前は良子の、現在は良和の財布から金を得ているとのこと。

また事件当日、良子は花凜を置いて買い物に出ていて、帰ってきた時にはすでに事件が発生したあとだといいます。

しかし、良子の証言や現場には不審な点がいくつもあり、大刀洗はそれを調べるのだといいます。

道中、ヨヴァノヴィチは自身の国が焼かれた時の経験について話します。

大刀洗の同業者たちが次々にやってきましたが、彼らは真実を追求するためではなく、自分たちの決めたことを事実にするためにやってきたのです。

その経験から、ヨヴァノヴィチは記者について良い印象を持っていませんでした。

それに対し、大刀洗は事件を追うことで記者としての誇りについて回答するといい、良和の手記の内容に言及します。

彼は寝ている花凜のパジャマを脱がし、起きて泣き出した彼女を止めるためにナイフで刺殺したのだといいます。

しかし、花凜の致命傷からは衣服の繊維が発見されており、良和の証言とは食い違っていることが分かります。

そして、その後の調査で、大刀洗たちは歩道橋で隠されていた花凜のパジャマを見つけます。

さらに、大刀洗は事件の真相に気が付いていました。

つまり、良和は良子を庇うために自分が花凜を殺したと主張したのです。

しかし、本当に良子が殺したのでしょうか?

大刀洗は良和のヒントから、花凜殺害時に使用されたクッキングナイフを見つけます。

そして、大刀洗は真実に辿り着きます。

現場のカギが閉まっていることから良和しか犯行に及べないと勘違いしていましたが、実は良和の持つ合い鍵を複製し、良和が訪れるまえに良子のアパートに訪れた人物がいたのです。

それが父親でした。

父親は良子の財布から金を盗もうとし、花凜に騒がれたから殺害したのです。

取材が終わり、ヨヴァノヴィチは大刀洗について考えを改めます。

大刀洗は彼女なりの方法で良和を救おうとしていたことに気が付き、それを言われた大刀洗は少し恥ずかしさを覚えます。

かつてマーヤは、大刀洗のことを恥ずかしがり屋だと称したそうです。

彼女は恥ずかしさのあまり、自分の誇りを胸にしまったままいたのです。

二人はさらに打ち解け、その後、晩餐を一緒にとるのでした。

綱渡りの成功例

長野県で発生した水害によって多くの被害が出た中、戸波夫妻は救出されました。

大庭は消防団員として、この救出に一役買っていました。

テレビでこの件について報道され、夫婦は三男の平三が置いていったコーンフレークで食いつなぎ、助かったのだといいます。

それは、大庭の両親が営む店が配達したものでした。

大庭が消防団員としての仕事を終えると、大学の先輩だった大刀洗と再会します。

彼女はこの水害について取材しているということでした。

大刀洗は大庭に当時の状況を確認すると、戸波夫妻にも話を聞く予定だといいます。

大庭もそれに同行することにしました。

会ってしばらくは相手を気遣う大刀洗ですが、本題に入ると容赦のない質問を浴びせかけます。

『コーンフレークには、何をかけたのですか?』

意味の分からない質問に聞こえますが、戸波夫妻は表情を強張らせる。

そして、牛乳をかけたのだと言いました。

しかし、当時、電線は切れていて冷蔵庫は使えませんでした。

また買った牛乳の消費期限は切れていたため、冷蔵庫で保存しなければとても飲めたものではありません。

そこで戸波夫妻は隣の原口家の冷蔵庫を使用したのです。

もちろん原口を助けに行くという理由もありましたが、行った時には原口は大きな石に埋まっていて助けることはできませんでした。

つまり、原口を見殺しにし、冷蔵庫を拝借したのです。

大刀洗が確認すると、この件については公表して構わないといいます。

二人は、事実を話すことが出来てホッとした様子でした。

戸波夫妻の家をあとにした後、大庭が聞くと、大刀洗は今回のことを記事にするといいます。

しかし、決して二人を悪者にするために報道するわけではありません。

コーンフレークについて報道されてしまった以上、誰かがこのことに気が付く可能性がある。

そこで変な噂が立たないように、自分が情報を提供するのだといいます。

しかし、戸波夫妻が事実を告白したがっていたのは運が良かった、つまり綱渡りに成功しただけでした。

記者を続ける以上、誰かを悲しませ、誰かを憤らせることだってあります。

彼女は常に危険な綱渡りをしているのです。

大庭はその恐ろしさを思い、大刀洗の無事を願わずにはいられませんでした。

おわりに

かなり要約してしまいましたが、かなり情報量の多い設定になっていますので、ぜひ本書を読んで内容を確かめてください。

そうして初めて大刀洗万智という人物の魅力に気が付けると思います。

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