『アクロイド殺し』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!

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深夜の電話に駆けつけたシェパード医師が見たのは、村の名士アクロイド氏の変わり果てた姿。容疑者である氏の甥が行方をくらませ、事件は早くも迷宮入りの様相を呈し始めた。だが、村に越してきた変人が名探偵ポアロと判明し、局面は新たな展開を…驚愕の真相でミステリ界に大きな波紋を投じた名作が新訳で登場。

「BOOK」データベースより

エルキュール・ポアロ・シリーズの三作目にあたる本書。

読む前からミステリーファンの間では物議をかもした名作であると耳にしていたのですが、まさにその通りでした。

あまり詳しく話してしまうとネタバレになってしまうので、後述します。

時代を経てもなお色褪せない名作ですので、ぜひその目で確かめてください。

この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。

ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。

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本書のポイント

最初に本書が物議をかもした理由についてご説明したいと思います。

それはズバリ『叙述トリック』です。

読者は本に書かれた文字を読んで内容を理解していきますが、その内容が正しい、あるいは全てを語っているとは限りません。

意図的に情報が限定、もしくは隠蔽され、真実から遠ざける手法のことを『叙述トリック』と呼びます。

今ではわりとメジャーな手法になりましたので、ある程度ミステリー小説を読んだことがある人であれば、途中で気が付くかもしれません。

しかし、本書はその手法の先駆けであり、その時代においては卑怯だと言われることも少なくありませんでした。

詳しいトリックは後述しますので、記事を読み進めていただければと思います。

登場人物

本書には数多くの人物が登場します。

記事を読んでいて混乱してきたら、こちらを参照してください。

エルキュール・ポアロ………私立探偵

ロジャー・アクロイド………地主

ラルフ・ペイトン……………ロジャーの義子

セシル・アクロイド夫人……ロジャーの義妹

フローラ・アクロイド………セシルの娘

ジェフリー・レイモンド……ロジャーの秘書

ジョン・パーカー……………ロジャーの執事

ミス・ラッセル………………アクロイド家の家政婦

アーシュラ・ボーン…………アクロイド家の小間使い

ヘクター・ブラント…………ロジャーの旧友。少佐

フェラーズ夫人………………キングズ・パドック屋敷の未亡人

ジェームズ・シェパード……医師

キャロライン…………………ジェームズの姉

あらすじ

自殺?

物語は、医師のジェームズの視点を通して語られます。

舞台はキングズ・アボット村で、冒頭、この村で二つある大きな屋敷のうち一つ、キングズ・パドックの所有者・フェラーズ夫人が亡くなっているのをジェームズは発見します。

彼は死因を睡眠薬であるヴェロナールの誤った過剰摂取だと診断しますが、姉のキャロラインは良心の呵責による自殺だと決めつけていました。

フェラーズ夫人の夫は一年前、大量の飲酒による急性胃炎によって亡くなっていますが、キャロラインはフェラーズ夫人が殺害したのだと信じていて、今回、彼女は自分のしたことに耐えられずに自殺したのだといいます。

シェパードは姉がまたおかしなことを言いだしたと呆れ、村人に話し回らないか心配でした。

相談

この村にはもう一つの大きな屋敷・ファンリー・パークがあり、持ち主はロジャー・アクロイドという地主です。

彼には妻がいましたが過剰なアルコール摂取によって早くに亡くしていて、その代わりに、妻の連れ子のラルフを大事に育ててきました。

しかしラルフはつい半年ほど前にロジャーとケンカし、姿を消していました。

またロジャーの弟の未亡人・セシルとその娘のフローラと一緒に暮らしています。

村ではロジャーとフェラーズ夫人がいつ再婚するのかとずっと言われてきましたが、今回の一件で状況は大きく変わりました。

そんな時、シェパードはロジャーと出くわし、相談したいことがあると夕食に誘われます。

夜になって彼の屋敷に向かうと、フローラからラルフと婚約したことを伝えられます。

食事が終わるなり、ロジャーによって書斎に連れていかれるシェパード。

ロジャーは誰も聞いていないことを確認すると、フェラーズ夫人の夫は毒殺されたこと、毒を持ったのは夫人であると打ち明けます。

シェパードは疑いましたが、夫人本人が明かしたのだとロジャーは言います。

ロジャーはフェラーズ夫人に婚約を申し込みましたが、彼女の表情は晴れず、耐えきれずにこのことを打ち明けたのだといいます。

そして、その秘密を知っている人物が一人いて、彼女はその人物から大金を巻き上げられ精神的に参っていました。

その人物の性別は不明ですが、ロジャーは男だと断定。

彼はフェラーズ夫人が何か遺言を残したはずだと思っていて、その時、彼女からの手紙が郵便で届き、開封して読みます。

ロジャーは読み上げますが、肝心の相手の名前が出てくる前に一人で読むと言いだし、ジェームズは仕方なく部屋を出ます。

後で重要になる点として、手紙が届いたのは八時四十分、ジェームズが部屋を出たのが八時五十分です。

そして帰り道、見知らぬ男にファンリー・パークへの道を聞かれ、それが九時のこと。

家に到着したのが、男と会った十分後。

そして十時十五分過ぎ、ロジャーの執事・パーカーからロジャーの殺害を知らせる電話が来ました。

アクロイド殺し

シェパードは慌てて屋敷を訪れますが、パーカーは電話をしていないといいます。

シェパードは部屋にいるロジャーに呼び掛けますが返事はなく、非常時ということでドアを壊して中に入ります。

すると電話の通り、ロジャーは死んでいました。

彼は背後から短剣で刺されていました。

警察が現れると、状況の確認が始まります。

窓が開いていて、その付近には靴底にゴムの突起がついた足跡が複数見つかり、犯人のものと思われます。

ロジャーの秘書・レイモンドは九時半に、ロジャーが誰かと話す声を聞いていて、内容は金の無心らしいことが分かりました。

さらに九時四十五分にはフローラがロジャーと挨拶をかわしていたため、彼が亡くなったのはそれより後ということになります。

凶器の短剣はロジャーの旧友・ブラント少佐が贈ったもので、応接間のシルヴァー・テーブルに入っているはずのものです。

ジェームズにかかってきた電話のことも考慮すると、パーカーが一番怪しいですが、決定的な証拠は今のところありません。

名探偵の登場

事件の翌朝、ジェームズのもとをフローラが訪れます。

彼女はジェームズの隣人に会いたいといい、その人物とはエルキュール・ポアロでした。

彼は探偵を一年前に引退し、この村に引っ越してきていたのです。

ジェームズはポアロがこの事件に介入することを好ましく思っていませんでしたが、フローラの熱意に負けて彼に会います。

ポアロはこの依頼を引き受け、真実を洗いざらい暴くことを約束します。

警察の捜査により、ラルフが容疑者として挙がっていました。

というのも、彼は昨日この村にいて、ファンリー・パーク付近で九時半に目撃されていました。

さらに現場に残っていた足跡とそっくりな靴を所有しているのです。

しかし、ポアロはそういったことには惑わされず、体型的に物事を整理していきます。

一方、昨晩ジェームズにかかってきた電話は、キングズ・アボット駅の公衆電話からかけられていたことが判明します。

また昨日、不手際によって小間使いのアーシュラがロジャーから怒りを買い、仕事をクビになったことが分かりました。

全員が嘘をついている

ポアロはこれまでの調査で事件に関係する全員が嘘をついていることに気が付きましたが、誰一人として語ろうとはしませんでした。

そこで真実を暴くために行動を開始します。

すると、それぞれの人物が順番にポアロやジェームズを訪れ、自分の嘘、秘密を暴露していきます。

まずはじめは、セシル。

彼女は借金をするほどお金に困っていて、ロジャーの遺産に期待していました。

そして、ロジャーの部屋に入り、遺言状を探したことを打ち明けます。

次に会いに来たのはレイモンドです。

彼もまた借金を抱えていましたが、ロジャーが亡くなったことである程度のお金が入り、借金を返済して少し余ったことを明かします。

次にポアロはパーカーを家に呼び出し、真実を話すよう説得します。

すると彼は前の主人を脅迫し、大金を得ていたことを告白します。

一方、フェラーズ夫人は謎の脅迫者によって二万ポンドもの大金を支払っていますが、もしパーカーがその脅迫者であれば、今もまだ執事を続ける理由がありません。

つまり彼の話が本当であれば、彼が脅迫者ではないことになります。

その後、事件の夜にジェームズが会った不審な男の正体が分かり、名前をチャールズ・ケントといいます。

ロジャーの殺害時刻の間、彼にはアリバイがありました。

しかし、ファンリー・パークを訪れた理由を話さないため、警察はさらに取り調べをします。

登場人物の嘘はまだこれだけではありません。

現場からはお金がなくなっていましたが、それを盗んだのはフローラでした。

彼女も母親と同様、お金に困っていたのです。

そして、九時四十五分にロジャーと会ったという証言、これもまた嘘でした。

これでロジャーの死亡時刻はもう一度考え直す必要があります。

さらにフローラは心からラルフを愛しているわけではなく、お金が目的の打算的な婚約だったことを明かします。

そして、そんな彼女のことをブラント少佐は愛していて、二人は後に婚約を発表します。

それから真実を話すためにやってきたのは、ミス・ラッセル。

実は不審な男、ケントは彼女の息子で、お金を無心するために屋敷にやってきたのです。

二人が会っていたのは九時二十分から二十五分の間で、九時半にロジャーと話していた人物は別にいたことが分かります。

そして最後に、アーシュラがやって来ます。

実は、彼女とラルフは誰にも内緒で結婚していたのです。

時期がきてから発表するはずでしたが、その前にロジャーがラルフとフローラの婚約を発表してしまい、事件の日の午後、アーシュラは自分とラルフの結婚のことをロジャーに話し、仕事を辞めます。

その夜、約束していたラルフとアーシュラは会い、言い争いをします。

それが終わってアーシュラが屋敷に戻ったのが九時四十五分でした。

真相

ポアロはジェームズが事件に関する記録をとっていることを知り、それを見ます。

ここで読者は、この物語がジェームズの視点から見たものではなく、手記によるものだと気が付きます。

ポアロは彼の文章からその謙虚さに感心していて、ここで読者は手記には書かれていないことがあるのでは?と疑うヒントを得ます。

この時点でポアロには事件の真相が分かっていて、関係者を自分の家に呼んで推理を披露します。

これまでの謎の中でも、九時三十分に誰がロジャーと会話をしていたのかという問題がありますが、それを解決するヒントはロジャーがそれ以前に会った人物にありました。

ロジャーは録音機の会社の人間と会っていて、こっそり録音機を購入。

その時間に自分の声を録音していたのです。

そして、最も疑われているラルフについて、ポアロは居場所を知っているといい、全員が彼の指さす方を向くと、そこにラルフは立っていました。

実はまだ真実を話していない人物がいて、それはジェームズでした。

彼は医師という立場を利用し、ラルフを精神障害者のための施設に隠していたのです。

ではなぜラルフは隠れる必要があったのか。

それは状況からしてアーシュラが疑われるのは当然であり、その疑惑の目を自分に向けさせるためでした。

そして、ポアロは言います。

殺人犯はこの中にいて、明日、真相を警察に伝えると。

この時、ポアロのもとに無線電報が届き、全てが分かりました。

彼はこの場では真実を明かさず、一度幕を閉じます。

結末

ポアロはジェームズだけ残すと、真実を伝えます。

あの日、謎の電話がかかってきたことで、ジェームズはその日のうちにロジャーの死体を発見することが出来ました。

そのメリットは、犯人が現場に居合わせることが出来る点にあります。

そして犯人はこっそりと、録音機を回収することが出来ます。

さらにポアロは先ほど、九時三十分にロジャーが録音機に声を吹き込んでいたと説明しましたが、本当はその声自体が録音機のもので、すでにロジャーは亡くなっていたのです。

ロジャーが録音機を購入したことを知っていて、かつ機械について知識のある人物が犯人であり、それはジェームズでした。

彼は手記の中で、八時五十分に屋敷を出て門番小屋を通過したのが九時だと語っていますが、歩いて五分とかかりません。

実はこの間に偽装工作を行っていました。

ジェームズがロジャーを殺害したのは、フェラーズ夫人からの手紙を一人で読みたいと言われて退室しようとした時で、屋敷を出た時にはロジャーは亡くなっています。

その後、持ち出したラルフの靴をはいてわざとぬかるみを歩き、現場に足跡を残したのです。

フェラーズ夫人を脅迫していたのもジェームズでした。

そしてそれが夫人からロジャーに伝わることを恐れ、殺害したのです。

またジェームズにかかってきた電話について、これは彼の作り話ではありません。

事件の日、ジェームズの患者の中にアメリカ行き客船の給仕がいて、その人に帰り際、駅で電話をかけてもらったのです。

その人はそのまま船で出航してしまうため、厄介払いができます。

ところが、ポアロはこの給仕の名前を調べていて、電報を送っていました。

全員を集めた日、届いた電報はこの給仕からのもので、電話したことを認めました。

最後にポアロは、ジェームズに対して別の逃げ道を選ぶチャンスを与えます。

それはキャロラインのためであり、方法として睡眠薬の飲み過ぎを提案します。

そして、手記を完成することを勧め、二人は別れます。

最後に、『弁明』という章タイトルでジェームズは手記を完成させ、ポアロ宛てに送ります。

これで彼が犯人だと分かってラルフの無実は証明され、さらにポアロと警察がこの手記をもとに内密に処理することで、このことをキャロラインに知られずに済みます。

彼は自殺の方法として睡眠薬のヴェロナールを選択。

死ぬ前に、ポアロが仕事を引退してここにやって来なければよかったのに、と思うのでした。

おわりに

叙述トリックもそうですが、最後に探偵が自殺を勧めて物語を終わらせるという手法には驚かされました。

そして、時代を超えて今もなお読み継がれる名作なだけあって、非常に楽しんで読むことが出来ました。

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