『往復書簡』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
高校教師の敦史は、小学校時代の恩師の依頼で、彼女のかつての教え子六人に会いに行く。六人と先生は二十年前の不幸な事故で繋がっていた。それぞれの空白を手紙で報告する敦史だったが、六人目となかなか会う事ができない(「二十年後の宿題」)。過去の「事件」の真相が、手紙のやりとりで明かされる。感動と驚きに満ちた、書簡形式の連作ミステリ。
「BOOK」データベースより
書簡とはいわゆる手紙のことで、本書では手紙のやりとりによって物語が進行するという独特な手法がとられています。
そのため相手の顔が見えず、みんながみんな言いたいことをズバズバ言っていて、通常の会話とは違ったやり取りが見られます。
また本書は短編がいくつか集まって構成されているので、様々なテイストの物語を一度に味わうことができます。
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
十年後の卒業文集
かつて高校の放送部に所属していた生徒の十年後を描いています。
主に登場する人物は谷口あずみ、高倉悦子、山崎静香の三人。
先日、同じ放送部だった浩一と静香の結婚式が行われ、あずみ、悦子含めた放送部員は久しぶりに集まり、近況報告をします。
一方、かつて浩一と付き合っていた千秋はおらず、夫の仕事の関係で海外で暮らす悦子は事情を知りませんでした。
一部では行方不明ともささやかれています。
そこで結婚式後、悦子はあずみに手紙を書き、千秋の消息をたずねます。
すると千秋がある事故にあい、右頬に二十針縫う大怪我をおい、それを見せたくないがために誰にも会っていないのだと教えてくれます。
しかし、あずみは悦子の自分に対する呼び方、知らないはずのエピソードを書いているなどの点から本人ではないのではと疑い、本人しか知らないであろう質問をいくつか投げます。
悦子はそれに答え、納得いかないながらもあずみは手紙の送り主が悦子だと信じ、事故の経緯を教えてくれます。
その頃はまだ千秋と浩一は付き合っていましたが、浩一に千秋から別れのメッセージが入っていて、浩一は身を引くしかなかったのだといいます。
悦子は次に、静香にも手紙を送り、千秋の事故のことを聞きます。
静香もまた送り主が悦子ではないのでは?と疑問に思い、また千秋の事故の原因が自分にあるのだと疑われているようで不快感をにじませます。
静香は確かに学生時代、浩一のことが好きで、しかしその頃には千秋と付き合っていました。
それでも成長するとそれを受け止め、もう大丈夫なはずでした。
ところが、社会人になってからあずみと千秋と三人で会い、かつて悦子も入れて四人で登った松月山に行くことになります。
そこで事故は起きました。
過去を乗り越えたはずの静香でしたが、山を登るにつれて過去の自分に逆戻りした気持ちになり、浩一と結婚できるようにと願掛けする千秋を見て、当時の惨めだった自分を思い出してしまいます。
帰り道、そんな負の気持ちから静香は足元にある大きな石を蹴り落とします。
すると、その石が前を歩いていた千秋の足元に転がり、彼女はその石に当たってバランスを崩して転倒。
顔から転び、二十針縫う大怪我になってしまったのです。
静香は当時のことを気にしていましたが、悦子はそれでも事故だったのだと言い、静香を慰めます。
繰り返し浩一と結婚して幸せですか?と聞かれる静香ですが、幸せです、ときっぱりと答えるのでした。
そして、最後に悦子にあてた手紙が登場します。
送り主は、なんと行方不明になっているはずの千秋でした。
彼女は貧乏劇団員をしていて、去年から悦子の一時帰国用のマンションに住み、郵便物の転送係を引き受けながら住まわせてもらっていたのです。
その時に浩一と静香の結婚式の招待状を受け取りますが、あいにく悦子は帰国できませんでした。
そこでバレるのが前提で代わりに出席しようかと千秋が提案すると、悦子はそれを了承。
千秋は悦子として結婚式に参加します。
ところが、顔の傷痕を消すために他の部分も少しいじったせいか、誰もが千秋のことを悦子だと勘違いし、言い出すタイミングを見失ってしまいます。
すると友人たちは千秋のことをあることないこと話し始め、千秋はあの事故のことをあずみ、静香はどう思っているのだろうと気になって仕方ありません。
そこで悦子のふりをして手紙を出し、聞き出そうとします。
途中、二人に本当に悦子かと疑われますが、かつて悦子と話した内容などを思い出してなんとか答え、無事に二人の気持ちを聞き出すことができました。
しかし、二人が思っていることと真相は少し違っていました。
千秋は事故にあったのは自分のせいだと割り切っていて、逆にそれを利用して浩一と別れることに成功します。
実はかなり早い段階で浩一と合わないことに気が付いていた千秋ですが、二股をかけたりしても浩一は別れてくれず、逆に周りを味方につけて外堀を埋めようとして迷惑していたのでした。
静香と結婚したことで千秋も一安心し、そういったことも含めて楽しい青春時代だったと手紙を結ぶのでした。
二十年後の宿題
主に書簡を交わすのは、三十八年の教師生活を終え定年するも入院している竹沢真智子と、かつての教え子で教師になって八年になる大場敦史。
真智子はこれまでの教師生活を振り返り、六人の教え子のその後がどうしても気になるから、直接会って近況報告をしてほしいと敦史に依頼。
敦史は快諾し、真智子から六人それぞれに宛てた手紙を手に、順番に会っていきます。
まず初めに会ったのは河合真穂です。
真穂は結婚して黒田姓に変わり、敦史が真智子から預かった手紙を渡したいと申し出ると、それを快く受けてくれます。
真智子を良い教師だと思っている一方、事故というワードが敦史の耳にとまります。
それは真穂たちが小学校四年生の時、真智子とその夫、真穂含めて六人の生徒が赤松山に落ち葉拾いに行った時に起きた出来事でした。
真智子の夫の作ってきてくれたお弁当はおいしく、公園でバトミントンをして時間を過ごします。
すると生徒のうちの一人、津田武之が真智子の夫と生田良隆が川に落ちたと叫び、辺りは騒然とします。
真穂は真智子に救急車を呼ぶよう言われ、現場には行っていません。
たちまちの内に救急隊員が到着し、良隆は一命を取り留めますが、真智子の夫は亡くなってしまいます。
この時点で敦史は、真智子の気にしている六人とは事故に居合わせた生徒たちなのだと確信。
次に会ったのは、津田武之でした。
真穂から事故の概要は聞いていましたが、この遠足は藤井利恵と古岡辰弥の仲直りピクニックだったのだと武之から教えてもらいます。
さらに他の生徒に関しても、秋の行楽シーズンに予定のなさそうな貧乏な家の子供たちを集めたのです。
武之はそのことに気が付いていたけれど、真智子の夫の作る料理は本当においしく、そんなことは忘れて嬉しかったのだといいます。
ところがあんなことが起こり、武之は慌ててみんなを呼びに行き、その後の現場は見ていません。
そのためか武之もまた事故のことは引きずっておらず、人の好意を素直に受け入れ、誰かのために行動できるようになっていました。
三人目に会ったのは、根元沙織で、今は結婚して宮崎姓になっていました。
彼女はこれまでの二人と違って真智子への不信感に溢れていて、敦史は事情を聞きます。
すると、沙織は現場で目の当たりにした真智子の行動について教えてくれます。
あの日、真智子の夫と良隆は溺れ、良隆は夫にしがみついていました。
真智子は川に飛び込んで二人の元に辿り着くと、なんと良隆を夫から引きはがし、夫の救助を優先したのです。
良隆は気絶したのか大人しくそのまま流され、下流の大きな岩にひっかかって助かりますが、夫はそのまま亡くなってしまいます。
沙織はこの事故がきっかけで真智子に不信感を抱き、一人で自立できるようにとこれまでやってきました。
しかし、そんな彼女も結婚し、今なら真智子の気持ちが分かると言います。
さらにもしかしたら真智子の夫は泳げなかったのではと思っていて、後日、真智子によってそれが正しかったことが分かります。
次に会ったのは、古岡辰弥でした。
彼は仲直りピクニックの原因となった自分と藤井利恵とのケンカのことを話し、そのせいで真智子の夫は亡くなった。
二人はそれ以来、罪悪感を抱いたまま暮らしていました。
話を聞くと、どうやら罪悪感を共有する以上の感情があることに敦史は気が付きますが、辰弥はそれを否定します。
このまま利恵の連絡先を教えてもらう予定でしたが、辰弥はこれを拒否。
仕方なく利恵は後回しにして、敦史は生田良隆と接触を図ります。
すると、彼は事件のことを思い出したくないと敦史との接触を拒否し、代わりに彼の気持ちを綴った手記を送ってきます。
彼は自分のために真智子の夫が死んでしまい、彼の分まで生きなければと恩人の死に囚われていました。
しかし、ある時、マンションの屋上から飛び降りようとしている女性を偶然見つけ、その命を救います。
良隆はこれで真智子の夫とのことを終わらせたいと思い、そこで手記は終わっていました。
そして最後の一人の利恵ですが、真智子からいずれ敦史のもとに利恵から連絡が入ると手紙に書いてあり、敦史はその時を待ちます。
そんな時、敦史の彼女で県立病院で看護師をしている山野梨恵から連絡が入り、二人は久しぶりの食事を楽しみます。
しかし、途中から真智子とその教え子の話になると、梨恵はあの事故の時、真智子は妊娠していて流産してしまったという知るはずのないことを話し、そして自分が藤井利恵であると打ち明けます。
彼女は小学校六年生の時に両親が離婚し、母親の姓の山野になり、名前も父親から一字とった『利』を母親の意向で『梨』に変えたのだといいます。
そして、今も梨恵は辰弥のことを想っているのではないかとマイナスな方向に思考が進んでしまいます。
それでも敦史は意を決して結婚を前提としたお付き合いを申し込みますが、梨恵は辰弥のことが忘れられず、敦史はついひどい言葉で彼女を傷つけてしまい、彼女は敦史の申し出には答えずに帰ってしまいます。
これで二人の恋は終わったように思えました。
しかし後日、真智子のもとに梨恵からの手紙が届きます。
梨恵は真智子の夫の死を免罪符のように思っていて、いつか捨てなければと思っていたところに辰弥から突き放され、友人から紹介してもらったのが敦史だったのです。
敦史といると、似ていないのにあの優しかった真智子の夫のことが思い出され、またプロポーズされたことも本当は嬉しく思っていて、こんな自分でも結婚していいのかと悩んでいました。
その相談に対して真智子の答えはありませんが、代わりに敦史から真智子に対して、彼女と二人でお見舞いに行きますという手紙が届きます。
この時点では確定していませんが、後に彼女とは梨恵のことだということが分かります。
十五年後の補習
永田純一と岡野万里子は中学生の頃から十五年付き合っていますが、純一が国際ボランティア隊としてP国に二年間赴任することになり、手紙のやり取りをしながら遠距離恋愛をしています。
ちなみにP国の名前は作中で明かされていませんが、治安の悪さと極楽鳥という言葉から、おそらく極楽鳥が国鳥であるパプアニューギニアのことだと思われます。
二人はお互いの生活のことを書く一方で、話題にいつも十五年前の事件が挙がります。
純一には当時、一樹と康孝という友人がいましたが、二人はある日を境に険悪になってしまいます。
理由は、康孝が一樹の母親を馬鹿にしたからでした。
怒った一樹が康孝を殴っても純一含めたクラスメイトは仲裁に入りませんでしたが、万里子だけはいつも二人の仲裁に入りました。
しかし、そんな時に事件が起きます。
万里子と一樹は康孝に手紙で古い倉庫に呼び出され、康孝によって閉じ込められてしまいます。
さらに火事になり、万里子は純一によって助け出されますが、一樹はそのまま焼死。
同じ日の晩、康孝は校舎の屋上から飛び降り自殺したのでした。
万里子は病院に運ばれますが、その前後の記憶がなく、そのことをずっと気にしていました。
純一は万里子のことを気遣いながらも当時のことを説明してくれました。
ところが、手紙を交わすうちに万里子は記憶を徐々に取り戻し、そして英会話スクールに通う阿部に乱暴されかけたことをきっかけに全ての記憶を取り戻します。
事件当時、脱出を試みた万里子と一樹ですが、途中で万里子は一樹に乱暴され、殺されると思った彼女は近くにあった角材で一樹を殴り、殺害してしまったのです。
そして純一がその現場を目撃したため、万里子をかばって火をつけた。
万里子はそう思っていました。
純一もそのことを認め、一樹の死をタバコの不始末による事故に見せかけるためにライターで放火したのだといいます。
ところが、話にはさらに続きがありました。
純一はその後、康孝に会うと、万里子を呼び出した手紙のことを知っていることを告げ、タバコの吸い殻を彼に見せます。
それは倉庫に落ちていた康孝の吸い殻ですが、放火とは何も関係ありません。
しかし、純一が追い詰めると康孝はそれが真実だと思い込み、自殺してしまったのです。
万里子を守るために、純一もまた殺人を犯していたのです。
そして手紙の最後に、万里子への愛をしたため、P国に来た観光客が万里子に見えると書いてあります。
これは後で分かりますが、本物の万里子で、真実を知ってもなお純一のことが忘れられないと会いに来てくれたのです。
一年後の連絡網
ここでは国際ボランティア隊員同士が手紙のやり取りをしていますが、まず梨恵が登場します。
彼女は看護師としてT国に赴任していますが、日本に高校教師の婚約者がいるということで、敦史とは今も関係が続いていることが分かります。
また純一と彼を追いかけてきた万里子のエピソードも少し記されていて、こちらも過去を乗り越えて順調であることがうかがえました。
おわりに
普段顔を会わせて話すのとは違う言葉遣いで、非常に気持ちが伝わる手紙らしさが全面的に出た物語でした。
イヤミス要素はあまりありませんので、そういった作品が苦手という方もぜひ本書を手に取ってみてください。
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