『名前探しの放課後』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
依田いつかが最初に感じた違和感は撤去されたはずの看板だった。「俺、もしかして過去に戻された?」動揺する中で浮かぶ一つの記憶。いつかは高校のクラスメートの坂崎あすなに相談を持ちかける。「今から俺たちの同級生が自殺する。でもそれが誰なのか思い出せないんだ」二人はその「誰か」を探し始める。
坂崎あすなは、自殺してしまう「誰か」を依田いつかとともに探し続ける。ある日、あすなは自分の死亡記事を書き続ける河野という男子生徒に出会う。彼はクラスでいじめに遭っているらしい。見えない動機を抱える同級生。全員が容疑者だ。「俺がいた未来すごく暗かったんだ」二人はXデーを回避できるのか。
「BOOK」データベースより
本書はこの時点での辻村さんの集大成といっても過言ではありません。
SFからミステリー、青春とあらゆるジャンルを絶妙なバランスで取り入れ、これまでの辻村作品に登場した人物も数多く登場する大盤振る舞い。
上下巻なので読み終えるまでが大変ですが、終盤に明かされる真実に読者はやられた!と思わず唸ってしまうはずです。
以下のインタビューで本書について言及されています。
自分がどんな作家かは読者が決めること何を書いても受け止めてもらえる信頼感――辻村深月(2) | 文春オンライン
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意下さい。
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あらすじ
タイムスリップ
依田いつかはジャスコの屋上で、撤去されたはずの看板を見つけ、違和感を覚えます。
彼は一緒にいた長尾秀人に今日の日付を確認しますが、それは三ヶ月前のものでした。
いつかは徐々にこの日の秀人との会話を思い出します。
これまで付き合っていた豊口絢乃との関係が重たく感じ、告白された別の女子生徒が良いと思っていることを話し、口論になり、仲直りしたのです。
いつかは混乱したまま自宅に戻ると、お腹の膨らんだ姉のかなえが迎えてくれます。
いつかの感覚では彼女はすでに出産し、子供の名前は満塁(みつる)だと知っています。
タイムスリップ。
そんな単語が浮かびますが、いつかはいまいち信じることができません。
彼はこれから三ヶ月先まで起こることを全て知っているのですから。
なぜそんな現象が起きたのか、思い当たる節がありません。
しかし、いつかの頭にはある日のことが思い出されます。
今から三ヶ月後、いつかの同級生の遺体が池で発見されるのです。
しかし、いつかはその同級生の名前を思い出すことが出来ず、どう対処するべきかを考えます。
自殺者を探す
翌日、いつかは高校で唯一、同じ中学出身の坂崎あすなに相談することを決意。
普段、ほとんど交流がないためあすなは相談にきたいつかに驚きますが、人目につかないジャスコで会うことを了承。
いつかは自分にあったことをありのまま話します。
あすなはその手の本をよく読んでいたため自分の見解を述べますが、いつかの置かれる状況とは微妙に違っています。
話しているあすな自身もタイムスリップについて半信半疑でしたが、同級生が自殺すると言われ、放っておくことはできません。
またいつかが三ヶ月に撤去されると指摘した看板。
その場所はあすなのおじいちゃんが経営するレストランの二号店が出店予定の場所で、本当になくなるし、そのことを知っているのはほんの一握りだけ。
この話で、あすなはいつかの話を信じる気になりました。
いじめられっ子
いつかとあすなだけでは手が足りないと感じ、いつかは秀人にも事情を話し、協力してもらうことにします。
さらに別の高校に通う秀人の彼女・椿、秀人の小学校からの親友である天木敬にも声を掛け、自殺を止めるために動き始めます。
椿は協力を快諾してくれますが、いつかと初対面の天木はそう簡単に引き受けてくれません。
それでもいつかの真剣な態度が届き、一年以上先に控えた生徒会長選挙に天木が出た時、いつかも協力するという条件で引き受けてくれます。
いつかはこのメンバーにあすなも引き合わせ、確認することから始めます。
自殺が起きるのは二学期の終業式の日の夜。
遺書の内容は覚えていないし、その生徒が誰なのかも覚えていない。
いつかたちの学年には一九三人いるため、その中から自殺する生徒を探し出さないといけない。
すると、秀人の小学校からの同級生で、同じ陸上部のエース、小瀬友春が数か月前から『ハジメ』という生徒にちょっかいを出していることが分かります。
また翌日、あすなの机の中に遺書のような内容が書かれたノートが見つかり、さらに新聞記事のような文章で自殺した生徒のことが書かれています。
その生徒の名前は河野基。
授業で教室移動があった際に、本人が置いてあったものだと推測されます。
すると本人が現れてノートを回収し、あすなは基がどんな生徒なのかを初めて知ります。
彼は都会から引っ越してきたお金持ちの家の子供で、そういったこともいじめられる要因になっていました。
実際にあすなは基が友春に殴られるところを目撃し、彼なら自殺するかもしれないと思います。
また金曜日、基が友春たちによって体育倉庫に閉じ込められているという情報を入手し、いつかたちは彼を救出。
基はいじめられる悔しさを叫び、遺書と死亡記事を書くのが趣味で、決して自殺するつもりではないといいます。
口が悪いところがあるものの、想像よりも明るい基にいつかたちは安心し、次の計画に移ります。
特訓
いつかたちは基がいじめられるきっかけとして、水泳が苦手で、それをネタにされていることを知ります。
そのため、その水泳を特訓し、Xデーまでに完璧にして友春に見せて見返してやろうと計画します。
そのコーチに指名されたのは、いつかでした。
いつかはかつて周囲から期待される水泳選手でしたが、怪我をきっかけに水泳から離れていたのです。
この提案に基は快諾し、いつかのことを師匠と呼ぶようになります。
あすなも特訓に付き合いますが、自分もまた泳げないことを告白し、一緒に特訓を開始します。
基がいつかの未来で見た自殺した生徒とは違うかもしれない。
それを考慮しつつも、いつかたちは基と共にXデーを乗り切ろうと努力します。
いじめの再発
ここからは下巻の内容。
順調に特訓の成果が出てきた基ですが、それで現状が変わるわけはなく、友春に再び殴られ、週末の旅行のために用意していたお金を取られてしまいます。
また、止めると約束していた遺書を書く趣味は直っておらず、むしろ以前よりも内容は悪化していました。
基は池に飛び込んで自殺しようとまで考えていました。
しかし、怖くて出来ませんでした。
そんな時、それでも特訓を続けようと提案したのはあすなでした。
意味なんてなくてもいい。もし自分が記録会の日に最後まで泳ぎ切ることができたら、遺書を書くのを止めてほしい。
この時、いつかは思い出します。
クリスマスイブの夜、基が池に飛び込んで自殺することを。
本番
記録会当日。
いつものメンバー、そして天木たちに呼び出された友春を前に、基とあすなは泳ぎます。
友春は泳ぎ切れたらもういじめないことを渋々誓い、基は見事二十五メートルを泳ぎ切ります。
そして、あすなも泳ぎ切ることが出来ました。
いつかたちの計画は成功し、全てがうまくいくように見えました。
それでもいじめはなくならない
これで基の自殺はないと思いたいですが、Xデーを乗り切るまで安心することは出来ません。
そこでいつかたちは基が自殺する予定のクリスマスイブにあすなの祖父が営む『グリル・さか咲』でクリスマスパーティーをすることを計画し、基を一人にさせないよう配慮します。
しかし、Xデーが近づくある日、あすなは友春と基が二人でゲーセンから出てくるのを目撃してしまいます。
連絡を受けたいつかたちは手分けして基を探し、天木が彼を見つけます。
問い詰められ、基は言います。
あの水泳以降もいじめは継続していて、今日が初めてではない。
あれだけ努力したにもかかわらずいじめから抜け出せなかったことに、基は悔しさを滲ませます。
しかし一方で、あすなとの約束は守り、もう遺書を書くようなことはしていません。
これまでの努力が無駄になってしまったこともあっていつかはつい熱くなってしまい、基と口論。
ついに基がクリスマスイブの日に自殺することを打ち明けてしまいます。
これは究極の予防策でした。
基はその話を信じませんでしたが、そんな話を聞かなくても自分は自殺しない、そもそもいじめられていないと言い、いつかたちはその言葉を信じるしかありませんでした。
クリスマスパーティー
前日の準備に、基が現れます。
その顔は殴られたのか半分がガーゼに覆われていました。
彼はお金を返して謝ってほしいと友春に食ってかかり、殴られたのです。
お金は取り戻せなかったけれど、一矢報いることができ、死にたくないと改めて生きる意志を見せてくれます。
基は明日の本番も来たいと宣言し、当日を迎えます。
この日は『凍りのくじら』で登場し、いつかたちと同じ高校に通う松永郁也がピアノの演奏をしてくれることになっていて、あすなもまた椿と連弾で演奏することになっていました。
出席者が続々と集まる中、郁也の身内を名乗る長い髪の美人と小柄な老婦人が現れます。
これも『凍りのくじら』で登場する芦沢理帆子と多恵です。
基も参加し、あすなはピアノの演奏に臨みますが、本番で失敗してしまいます。
あすなは誰もいないところで落ち込みますが、おじいちゃんはピアノの演奏、そして泳いだことを褒めてくれます。
その言葉であすなは気持ちを立て直し、椿と一緒にもう一度演奏します。
すると今回も練習通りとはいきませんでしたが、それでも最後まで止まらずに演奏することができました。
これで、無事にXデーをやり過ごすことはできました。
これから先も基とは連絡を取り合うことを約束し、いつかたちは解散します。
本当の自殺者
本当に自殺が止まったのか半信半疑でしたが、いつかの知っている未来では『満塁』と名付けられるはずだった姉の子どもの名前が『天(たかし)』に変わり、いつかは思わずあすなに電話します。
未来は変わったのです。
そして、迎えた始業式。
午後は模試に臨んでいたいつかたちですが、途中で担任が教室に現れ、あすなに廊下にくるよう言います。
これにいち早く反応したのはいつかでした。
彼は秀人にこのことを話すと、担任に自分にあすなを預けてほしいといいます。
いつかは、担任がなぜ今来たのか知っていました。
あすなのおじいちゃんが倒れたのです。
すると、隣の教室から友春、基が抜け出し、基はおじいちゃんの搬送された病院に行くための電車の時間を教えてくれます。
いつかがあすなの手を引いて行くと、友春がバイクに乗ってきてくれます。
友春はいつかにバトンタッチすると、あすなを乗せて駅に向かいます。
事情を知らないのは、あすなだけ。
実はいつかは未来のことを全て覚えていて、あすなに相談する前にすでに秀人に相談していました。
本当に自殺するのはあすなで、そのXデーは終業式ではなく始業式。
自殺の原因。
それは、たった一人の肉親であるおじいちゃんの死に目に立ち会えなかったからです。
いつかは、最初から分かった上であすなに相談し、常に一緒にいるための口実を作っていたのです。
そして、天木の指示の元、あすなをおじいちゃんの元へと送り届けるための最短ルートを用意していたのです。
基が自殺者として認識される。
これもいつかたちが仕組んだことでした。
基と友春は実は従兄弟で、いじめもフェイク。
またいつかは駅まであすなを送るために、バイクの免許を取得したのです。
駅では二人分の切符を持った椿が待っていて、いつかとあすなは基に指示された電車に乗り込みます。
乗っている間、いつかはいつ亡くなるかもしれないおじいちゃんことを何でもないことのように話すあすなを責め、あすなは涙を流します。
目的の駅に着くと迎えの車が待っていて、二人はおじいちゃんの搬送された病院に向かいます。
病室に通されると、辛うじて意識のあるおじいちゃんと対面します。
あすなはきちんとおじいちゃんが褒めてくれる自分の名前が好きなこと、おじいちゃんの孫で良かったことをしっかりと伝えます。
結末
ジャスコの屋上にいるいつかとあすな。
あすなの思いが届いたのか、おじいちゃんは無事に回復し、無理をすることもなくなりました。
『グリル・さか咲』の二号店のオープン準備が進められる様子を見ながら、いつかは『あすな』と呼んでいいかと聞きます。
すると、「いいよ、いつか」とあすなは初めていつかの下の名前で呼んでくれたのでした。
おまけ~秀人と椿の正体~
物語の核心部分であるタイムスリップについて、最後に秀人が説明をしますが、訳が分からなかった人もいたと思います。
というのも、これは『ぼくのメジャースプーン』を読んでいないと真実が分からない仕組みになっています。
長尾秀人。
彼は『ぼくのメジャースプーン』に登場する『ぼく』であり、『条件ゲーム提示能力』という力を持っています。
彼は『Aをしろ。そうしないと、Bになる』という言葉を発すると、条件(A)もしくは罰(B)を強要することができます。
これを六年ぶりにいつかにかけてしまい、その時の言葉は『たとえばさ、今から三ヶ月後、自分が本当に気になってる女の子が死ぬって仮定してみてよ。そうしたら、自然と誰か思い当たらない? そういうのがないなら、いつかくんの人生はすごく寂しいよ』です。
これを言われ、いつかは寂しい人生を送るのは嫌だと思い、気になる女の子が死ぬと仮定し、そのことを想像したのです。
いつかが怪我で絶望していた時、知らず知らずのうちに彼を支えてくれていたあすなのことを。
つまり、これがタイムスリップの正体であり、実際にいつかがタイムスリップして三ヶ月前に戻ったわけではありません。
秀人もそのことを知りつつも、いつかの熱意に応えたいと思って彼の計画に付き合い、偶然にもおじいちゃんが倒れてしまったのです。
また椿について。
彼女もまた『ぼくのメジャースプーン』に登場する人物で、ふみちゃんです。
この作品でようやく本名が明かされ、『椿史緒』だと分かります。
椿が名前だと大半の読者は誤認するため、まさか秀人=ぼくだとは最後になるまで誰も気が付かなかったのでしょう。
しかし、後から読み返すと、上巻のp.420にある『偉い』という椿の言葉は、ふみちゃんも言っていた言葉なので、伏線は実は散りばめられていたのです。
また友春は『トモ』、天木は『タカシ』とそれぞれ『ぼくのメジャースプーン』に登場していましたので、辻村さんのファンの方は薄々勘付いていたかもしれませんね。
この結末はフェアじゃないと、一部批判もあり、その側面があることは否めません。
ただ、辻村さんの作品を愛読している一読者としては、これほどにないオチであり、また彼女のことが好きになってしまいました。
『ぼく』の師匠である秋山も実は本書に登場していますので、未読の方はぜひ『ぼくのメジャースプーン』も読んでみてください。
おわりに
いつかの視点でいえば、タイムスリップに気が付き、自殺する予定の生徒を止めるという本筋がありながら、そこに辿り着くまでに成長するいつかやあすなが描かれ、一冊で様々な気持ちを与えてくれる名作でした。
今の辻村さんの作品ももちろん好きですが、思い出すとつい読み返したくなる作品です。
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なかなか手に取れない数千円、数万円するような本を読むのもアリ。
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