『ハサミ男』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
美少女を殺害し、研ぎあげたハサミを首に突き立てる猟奇殺人犯「ハサミ男」。三番目の犠牲者を決め、綿密に調べ上げるが、自分の手口を真似て殺された彼女の死体を発見する羽目に陥る。自分以外の人間に、何故彼女を殺す必要があるのか。「ハサミ男」は調査をはじめる。精緻にして大胆な長編ミステリの傑作。
「BOOK」データベースより
殊能将之さんのデビュー作であり、ミステリーのおすすめとしてしばしば挙げられる本書。
一言でいうと、とても面白かったです。結末を知らない状態でもう一度読みたいくらいに。
面白かった点を挙げたいのはやまやまですが、それ自体がネタバレになってしまうので、記事の本文で取り扱いと思います。
まだ未読だという方は、出来れば先入観がない状態で読んでみてください。
話の仕組み自体は、分かってしまえば意外と単純なので、勘の良い人は途中で気が付くはず。
しかし、気が付いてもその後、二度、三度と驚きの展開が待っているので、最後まで楽しむことが出来ます。
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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はじめに~重大なネタバレ~
あらすじを書いていくのですが、ただ書いただけでは意味が分からなくなってしまいます。
そこで、はじめにここで本書に仕掛けられた重大な秘密をネタバレしたいと思います。
本書では、ハサミ男である『わたし』の一人称と、警察の三人称で物語が進行していくのですが、途中から警察の疑う死体の第一発見者である日高光一=わたしであるかのように読者は錯覚させられます。
しかし、実際は『わたし』=安永知夏という女性です。
なぜ読者が女性を男性と勘違いしてしまうかというと、いくつかの仕掛けがあります。
タイトルにあるハサミ男のイメージに引っ張られ、つい男を想像してしまいます。
しかし、一人称は『わたし』なので、性別はどちらともとれます。
また服装は男女どちらでもあり得るユニセックスなもので、口調が男っぽいので、勘違いしても仕方ありません。
わたしは、ハサミ男が殺害したと偽装された死体の第一発見者となりますが、その後すぐに日高も発見します。
事件現場に警官の磯部が到着した時、知夏は取り乱した演技をしていて他の警官に介抱されていて、日高が事情聴取を受けているので、磯部は日高=第一発見者と認識します。
読者はわたしが最初に死体を見つけたことを知っているので、わたし=日高と誤認します。
また、わたしは自分がでぶであることを自認していて、警察は日高が百キロ近い巨漢であると言っているので、どうしても両者が同じであると勘違いしてしまいます。
ちなみに知夏は自分のことをでぶだと言っていますが、磯部はふっくらとした健康的な体と言っているので、本人が思っているほど太っているわけではないと思います。
一方、読者はわたし=女性であることに気が付くことも十分可能です。
僕はずっと女性だと思っていました。
まずこれまでのハサミ男の犠牲者の二人の女性は、性的暴行を受けた形跡がないため、考えられる理由として、犯人が女性であるというのはすぐに思いつくと思います。
それから三人目の被害者である樽宮由紀子について、わたしは『わたしから見ても美人』と言っています。
わたしから見ても、という言葉は普通、同性に対して使いますよね。
さらにわたしは、美人な由紀子が満員電車の中で変質者に会わないことを願っていますが、これは自分も被害者になりうる立場にいるからでは、という考え方できます。
つまり、同性である女性です。
それから朝起きて、寒いとカーディガンを着ますが、この仕草も女性を連想させますよね。
男性であれば、パーカーなどが多い気がしますし、ちょっとくらいな寒さも平気ということもあります。
以上のことを踏まえ、あらすじのネタバレに入りたいと思います。
あらすじ
第三の犠牲者
物語は、ハサミ男であるわたし(安永知夏)の一人称によって進行します。
作中では一貫してわたしを使用していますが、この記事では分かりやすいように知夏と日高をしっかり区別して書きます。
知夏はこれまでに二度の殺人を犯していて、三度目の相手として目黒区鷹番に住む女子高生・樽宮由紀子を選びます。
彼女を選んだ理由について、知夏がアルバイトをしている氷室川出版では、数年前から添削式通信教育を始めていて、その答案の中から成績の良い彼女を見つけ、興味を持ったのでした。
しかし、顔を知らないため、アルバイト先から無断で住所を入手し、偵察に向かってまずはマンションまでの道順を覚えます。
一方、知夏には自殺願望があり、週末になるとあらゆる方法で自殺を試みますが、全て失敗。
そんな時、彼女の中から『医師』と呼ばれる男性で、もう一つの人格のような存在が話しかけてくることがよくありました。
二度目の偵察は、由紀子を実際に見ることを目的としていました。
まずは由紀子の通う高校の制服を確認し、駅前のファストフード店で昼食をとります。
それから彼女のマンションの玄関前まで訪れ、家族構成を把握。
避難用の階段に身を隠し、由紀子の帰りを待ちます。
すると夜になって由紀子が帰宅。
知夏が思った以上の美人でした。
それから数日して、最後の調査と思って由紀子の高校に向かい、下校中の彼女を尾行。
マンションのある駅に着くと、由紀子は待ち合わせをしていましたが、相手は四十前後の男性で、二人はファストフード店で軽い食事をとります。
知夏も後を追いますが、普段あまり感情を見せない由紀子が笑っていることから、親密な相手だと判断。
並んで帰る二人を眺め、知夏は男性を父親の一弘だと判断します。
そこから、しばらくはアルバイトの繁忙期で忙しくなります。
その間に彼女は凶器となるハサミをアルバイト先から入手します。
全国どこでも売っているありふれたハサミ。
その先端をやすりで研ぎ、アイスピックのようにして使用するのが彼女の習慣となっていました。
これで準備は整い、アルバイト先が繁忙期を脱するのを待ってから調査を再開。
由紀子の詳細なスケジュールを確認し、チャンスをうかがいます。
そして迎えた運命の日。
暇だったため、早々の帰宅を許された知夏は由紀子のマンションのある駅に向かいます。
『おふらんど』という喫茶店に三度目の来店をして彼女を待ちますが、一向に現れません。
そこでマンションに先回りして待ちますが、それでも由紀子は現れず、諦めて帰ろうとします。
その時、通りがかった公園で得体の知れない何かがうずくまっているのが見え、知夏は近づきます。
それは、由紀子の死体でした。
しかも、首はビニール紐で絞められ、首にはハサミが突き刺さっていたのです。
これはまさしくハサミ男の犯行そのものです。
しかし、当の知夏は殺害などしていないため、誰か別の人物がハサミ男の犯行に偽装したことが分かります。
さらに運悪く、そこに通行人(日高)が声をかけてきたため、知夏は死体の第一発見者のふりをし、警察を呼ぶよう頼むのでした。
ただし、バックの中に入っているハサミを見られたらおしまいなので、咄嗟に茂みの中に放り投げます。
同時に『K』とイニシャルの入ったライターを見つけ、それをポケットにしまうのでした。
捜査
ここからは、知夏の一人称と警察の三人称で物語が進行します。
公園に刑事の磯部と下川が到着し、ベンチに座って俯く女性(知夏)と別の刑事に事情聴取されている男性(日高)を発見しますが、磯部は日高が第一発見者だと判断。
この時点で、読者は『わたし』=男性だと勘違いさせられます。
現場には進藤、松元、村木もいて、警視庁の指示が出てから代行検視を開始します。
殺害方法、被害者に性的暴行の跡がないことから、警察はハサミ男の犯行だと考えていました。
また、磯部は茂みの中から、由紀子の喉に刺さったのと全く同じハサミ、知夏が投げ捨てたものを発見します。
知夏は今回の犯行がハサミ男によるものだという報道に苛立ちを感じていて、医師は真犯人を見つけるべきだと提案。
口では嫌だと拒否しますが、一方で知夏も興味がありました。
警察では、犯罪心理分析官の堀之内が捜査に加わり、今回の事件がハサミ男の犯行である可能性が高いと発表。
また、現場に行かない自分に代わって捜査する人間が必要だとして、磯部は彼の指揮下に入ります。
報告書による状況の確認を行いますが、ここで伏線が一点。
報告書には部活動で、という言葉が出てきますが、堀之内は弓道部で、と具体的な名前を出します。
これは、堀之内がかつて由紀子と交際していて知っていたからです。
しかし、この時点で怪しむ人間は誰もいません。
一方、知夏は情報を入手するために、氷室川書店の人間として樽宮家に電話をかけ、告別式の場所と日時を入手。
参加しますが、そこで驚くべきことが分かります。
由紀子の父親、一弘を見つけますが、それは以前、ファストフード店で由紀子と一緒にいた男ではありませんでした。
後に、由紀子と会っていたのは堀之内だと判明します。
また妻のとし恵が美人であることが分かります。
その後、同じ場面を、同じく告別式に参加した磯部視点から見ます。
彼は、告別式に参加する日高を目撃していて、引っ掛かるものを感じています。
読者はこの流れから、やはり『わたし』=日高だと錯覚します。
しかし、磯部はしっかり知夏のことも目撃していて、『喪服の女性はどうしてきれいに見えるのだろう』とコメントしています。
しかし、知夏がとし恵のことを美人だと称していたため、読者は、磯部のコメントの女性=とし恵だと勘違いしてしまいます。
その後、知夏は由紀子と会っていた男性を思い出そうとしますが、いまいちよく思い出せません。
そんな彼女のもとに、週刊アルカナの記者・黒梅が現れ、事件当時のことを聞いてきます。
そこで知夏は、由紀子が数多くの男性と肉体関係を持っていたこと、両親が連れ子同士の再婚で、弟は父親方、由紀子は母親方であることを知ります。
また、知夏は黒梅の名刺を一部いじり、自分の名前の入った嘘の名刺を作成します。
その名刺を使って由紀子の一番の友達である亜矢子に接触。
亜矢子は、由紀子は他人の感情が分からず、だから他人に興味があり、数多くの男性と関係を持ったのだといいます。
そのうちの一人として、体育教師の岩左邦馬の名前が挙がります。
彼のイニシャルは『K』のため、知夏はライターの持ち主ではないかと考えます。
容疑者
堀之内のプロファイリングの結果が出ますが、あまり役に立つものではありませんでした。
村木は、もう一つのハサミについて言及されていないことに疑問を感じ、休んでいる堀之内を呼び出します。
すると、彼は自宅から二十分で到着して、雨でずぶ濡れでした。
実はここも伏線で、堀之内の自宅は郊外にあるため、そんな短時間で来られるはずがありません。
さらに車で来るなら、そんなにずぶ濡れのはずがありません。
濡れているのは彼が歩いて来たからで、これがきっかけとなり、堀之内は妻と別居中で鷹番に住んでいることが判明します。
堀之内は村木の意見を聞き、もう一つのハサミについて言及します。
ハサミが残されていたのは、持ち帰ることが出来なかったからだと。
持ち帰れなかったのは、現場にいるところを他の人物に見られたで、だから持ち主はハサミを投げ捨てたのです。
つまり、持ち主は遺体発見者ということになり、以後、警察は日高を追い始めます。
一方、知夏はアルカナの記者を装って岩左に取材を依頼。
タバコを吸うのかという質問に岩左は首を横に振り、ライターの持ち主でないことが分かって知夏はがっかりします。
岩佐は、由紀子が数多くの男性と関係を持ったことについて、愛情に飢えていたからだと分析。
しかし、関係を持った他の男性を教えてはくれず、調査の糸もここで途切れたように思えました。
警察は、日高について調べ始めます。
日高は事件当時、友人宅を訪れた帰りだったと話していて、刑事たちは彼がハサミ男だとは言わないものの、怪しい何かを感じていました。
しかし、憶測だけで上に報告し、大々的に捜査することは出来ません。
そこで磯部たちだけで内緒で捜査することを決めます。
本来であれば、そんなことは出来ませんが、磯部は現在、堀之内の助手に任命されているため、自由に動くことが出来ます。
また聞き込みをするのに日高の顔写真が必要だと判断し、写真が趣味の進藤に撮影を依頼、その時を待ちます。
場面は変わり、知夏は調査の糸が切れたと思い、また自殺しようと考えますが、その前にミートパイのおいしかった『おふらんど』に向かいます。
すると、店主は由紀子のことを知っていて、ユキちゃんと親しげです。
話を聞くと、由紀子はよく一人でこの店に来ていて、一度だけ同じ年頃の男性と来たことがあるのだといいます。
しかし、由紀子は彼氏ではなく弟だといいます。
その後、またしても自殺に失敗。
意識を失っていると、ドアのチャイムの音で目が覚めます。
知夏が出ると、相手は刑事の村木と磯部でした。
追い返すのは簡単ですが、そうすると不利になると判断し、知夏は上がるよう勧めますが、二人は慌てて遠慮し、近くの喫茶店で話を聞きたいといいます。
読者は相手が日高で、部屋が汚いから二人が遠慮したのだと思いがちですが、本当は知夏のシャツの上のボタンが開いていて、胸元が見えていたからでした。
しかし、当の知夏は気が付いていません。
シャワーを浴びると喫茶店に移動し、死体発見時の話をします。
知夏は磯部の落ち着きない様子に、自分が疑われているのかと思いますが、実際は彼女が美人で、単純に緊張しているからでした。
知夏は事件当時、知っている人が近くに住んでいたから、そこに行っていたと証言。
これも、前の日高の証言と重なるため、読者はわたしが日高だと疑いません。
村木は、一部報道されたもう一つのハサミについて聞いてきますが、茂みの中にあったことを知夏が知っていると話すわけにはいきません。
そこでもう一つのハサミについて、週刊誌で読んで知っているが、死体発見時には気が付かなったとコメント。
刑事は帰っていきますが、このままでは自分が捕まるかもしれないと思った知夏。
そこでアルカナの黒梅に連絡をとり、もう一つのハサミが茂みの中で発見されたことをリークし、代わりに樽宮家の住所と電話番号を入手します。
これで住所と電話番号の入手先が氷室川出版だと気が付かれませんし、もう一つのハサミのことが週刊誌に載れば、そのことを知っている=ハサミ男であるという図式は成り立ちません。
その後、磯部たちは日高の家に行ったことを話しているので、知夏の家への訪問と関連づけたくなりますが、順番は日高→知夏の順番で、先ほどのやりとりとは一切関係ありません。
また、警察は進藤に頼み、喫茶店に移動する間に遠くから日高の顔写真を撮影することに成功します。
また、ふざけて村木や堀之内のことも撮影しますが、これも実は伏線になっています。
この時点より前から、村木たちは堀之内のことを疑っていて、日高の聞き込みと同時に堀之内の聞き込みをしようと考えていました。
そこでふざけたふりをして堀之内の顔写真を撮影したのです。
また、この時点では、磯部は堀之内が疑われていることを知りません。
場面は変わり、知夏はまたしてもアルカナの記者を装い、由紀子の弟である健三郎に接触。
話を聞くと、肉体関係こそ持っていないものの、彼は由紀子に恋愛感情を抱いていたことが分かります。
しかし、由紀子の方は誰にも心を開いていなかったようです。
一方、知夏がリークした情報が週刊誌に載り、警察は大慌て。
日高の頭の良さにますます警戒します。
また聞きこみの結果、有力な目撃情報を下川が入手。
磯部は気持ちがはやって堀之内に報告することになりますが、下川が言う目撃情報とは、堀之内のことで日高のことではありません。
しかし、磯部はこの時点でもまだそのことを知らないため、堀之内に報告しようと言い出したのです。
そこで日高がファストフード店での目撃されたことにして、なんとか誤魔化します。
本当は、堀之内が由紀子と会っていたという目撃情報です。
これがきっかけとなり、一同は磯部にも堀之内を疑っていることを伝え、捜査に協力してもらいます。
さらに場面は変わり、健三郎との話から、由紀子がファストフード店で会っていたのは実の父親だったのではと推測した知夏。
そこで樽宮家に電話し、仏前にお参りさせてほしいと理由をつけ、とし恵と接触します。
すると、とし恵は第一発見者である知夏に、現場を案内してほしいと頼み、公園に行きます。
とし恵は健三郎の話などから、知夏が嗅ぎまわっている記者だと気が付いていました。
その上で精一杯愛しても、それが届かなかった苦しみを吐露します。
また、実の父親も告別式に参加していたことが判明します。
しかし、知夏はファストフード店で見た男が告別式に参加しているのを確認していません。
つまり、由紀子が会っていたのは実の父親でもないということです。
一方、警察は日高の目撃情報入手に苦戦していましたが、ハサミについて新たな情報を得ます。
現場にあった二本のハサミですが、よく見ると、先端の尖らせ方に微妙な違いがあることに気が付きます。
二番目の被害者に突き立てられたハサミと比べた結果、それと同じだったのが茂みの中あったハサミで、由紀子に刺さった方は尖り方が甘いことが分かります。
つまり、二つのハサミの持ち主は別で、ハサミ男のものは茂みの中にあった方で、殺人を犯していないということです。
大きな勘違い
またしても自殺として首吊りを試みて失敗した知夏。
医師は彼女の異常性を指摘します。
その時、玄関のチャイムが鳴り、相手は知夏と同じ死体の第一発見者である日高でした。
ここでわたし=安永知夏で、しかも美人であることが判明。読者は混乱します。
日高はあの夜、知夏がハサミを投げ捨てるところを目撃していて、彼女がハサミ男であることに気が付いていました。
殺人鬼の部屋には入れないという日高に従い、知夏はショルダーバッグ、ライターを持って彼の車に乗って彼のアパートに向かいます。
中に入ると、日高はどうやら知夏自身に興味がある様子。
そこで知夏はライターを返すといって出すと、それを持った手で日高の鼻を思い切り殴ります。
気絶した日高をテーブルの脚に縛りますが、なかなか起きないので電気ポットに入った熱湯をかけて起こします。
知夏は台所から取ってきた包丁を持っていて、日高は殺されるのではと命乞いします。
知夏は日高に由紀子を殺害したのかと聞きますが、彼は知らないといいます。
しかも、確かに光一でイニシャルはKですが、ライターも日高のものではありませんでした。
住所も、ハサミ男ホームページに遺体発見者として掲載されていたのを見て知ったのだといいます。
ここまで話を聞くと、知夏はおもむろに服を脱ぎ、ビニール手袋と靴下だけの姿になります。
日高は疚しいことを期待しますが、服を脱いだのは返り血で汚したくないからでした。
知夏は彼の口に包丁を突き刺し、殺害します。
その後、手を洗って服を着て、指紋などの証拠を隠滅。
知夏は早く出ようとしますが、医師はもう遅いと、車に乗った時点で尾行されていたことを明かし、ドアのチャイムが鳴ります。
出ると、相手は堀之内で、部屋の中にある日高の死体に向かいます。
知夏は、堀之内が日高の死体に気をとられているうちに彼を殺害しようとしますが、堀之内は拳銃を構えて知夏の方を向きます。
彼はここでようやく、知夏がハサミ男だと理解。
一方、医師も堀之内が真犯人だと告げます。
この時、知夏の肉体に、知夏と医師の人格が交互に現れ、あたかも会話しているような描写がされています。
医師はこの状態について、二重人格ではなく妄想人格だと説明し、医師こそが元々の人格で、普段表に出ているハサミ男こそが妄想人格なのだといいます。
医師は、由紀子の死体を発見した時から、犯人に目星がついていました。
というのも、あまりにもハサミ男の犯行に似すぎていて、しかも性的暴行の痕跡も残していない。
報道では、憶測で性的暴行があったのではと言及していたため、もし報道などによって犯行方法を知ったのなら、そういった痕跡を残していたはず。
それがないということは、性的暴行がなかったと知る人物、つまり警察関係者ということになります。
しかし、そこからが絞り込めません。
そこで、医師は真犯人を探すよう知夏に提案。
知夏が犯人にたどり着けば言うことはありませんが、もしたどり着かないとしても、誰かが嗅ぎまわっていると警察に知らせることが出来ます。
そして気が付いた犯人は、必ず一人で知夏に会いに来ると踏んだのです。
知らされていなかった知夏は憤慨。
また、医師は重要な証拠としてライターを挙げていましたが、おそらく公園にただ落ちていたもので意味はなく、知夏に調査させるための餌でした。
しかし、実際は堀之内含めて警察は知夏のことなど微塵も疑っていませんでした。
うまく調査しすぎたのです。
それでも日高を追う過程で、知夏にたどり着くことが出来ました。
そして今日、堀之内は日高の犯行現場を押さえ、彼をハサミ男として捧げ、自分の犯行を誤魔化すつもりでした。
それもご破算となりましたが、目の前の知夏は日高を殺害し、二人の女性を殺害した本物のハサミ男です。
堀之内からしたら、彼女を捕まえれば本来の目的は達成されることになります。
そして、ここからは堀之内が由紀子を殺害した動機について。
二人はかつて交際していて、堀之内の方は本気で彼女のことを愛していました。
そんな時、由紀子は妊娠したと報告。
これが世間に知られれば、堀之内は警察を辞めなければなりません。
しかし、それでも堀之内はいいと思い、妻と離婚して、結婚しようと伝えます。
それが、あのファストフード店でのやり取りでした。
しかし、由紀子はそんな堀之内に対しておかしそうに笑います。
実は、彼女は妊娠などしておらず、ただ堀之内の反応が見たかっただけなのです。
そして堀之内は別れを切り出され、怒りがやがて殺意に変わったのでした。
堀之内の告白を聞いて、頭がおかしいと言い放つ知夏。
しかし、殺人鬼である知夏に言われる筋合いなどなく、堀之内は激情して彼女に暴行すると、日高の死体から包丁を抜き、拳銃と両方を持つ形になります。
その時、玄関を叩く音がして、入ってきたのは磯部でした。
堀之内は冷静になって事態を誤魔化そうとしますが、磯部はすでに堀之内が犯人であることを知っています。
それでも堀之内は何とかしようと熱弁しますが、隙が出来ます。
そこに知夏が飛び掛かり、なんと自殺するために堀之内の持つ拳銃を自分に向けさせ、彼の手ごと引き金を引いて胸を撃ちます。
しかし、そんなことで死ぬことは出来ず、磯部はますます堀之内が日高も殺し、知夏にも発砲したと勘違い。
すると、気が狂った堀之内は由紀子殺害だけでなく、日高殺害と知夏への発砲というありもしない罪まで認め、拳銃を口に突っ込んで発砲し、自殺するのでした。
真相
入院する知夏のお見舞いに訪れた磯部。
磯部は初めて会った時から知夏の美しさに惹かれ、恋をしていました。
知夏は彼の来訪を快く迎えます。
家に訪問した時とは性格がかなり違っていますが、それもそのはず、今は医師が表に出て話しているからです。
知夏はなぜ堀之内が犯人だと分かったのかを聞き、ここから磯部による解説が始まります。
その内容はすでに上記のあらすじの中に書いてありますので、一部割愛します。
まとめると、堀之内は最初からハサミ男の犯行だと決めつけていて、それがまず引っ掛かりました。
さらに現場に行かないのもおかしいと思われますが、それは彼が現場に行けば、彼の目撃情報が集まってしまい、由紀子との関係がバレてしまうからです。
しかし、呼び出した時に、郊外の家からにしてはあまりにも到着が早かったため、一同は堀之内について調べなおします。
すると、彼は妻と別居状態で今は鷹番に住んでいることが判明。
これはおかしいと思い、日高だけでなく堀之内の顔写真も撮影し、同時に捜査。
すると堀之内の目撃情報が入り、彼が自分の犯行をハサミ男になすりつけるために、捜査の方向を誘導しているのではと疑念を強めます。
さらに二つのハサミの違いが分かり、犯人はハサミ男ではないと判明。
その時、彼は日高に会うために拳銃を持って外出。
警察は、日高がハサミ男で、彼に由紀子殺害の罪をなすりつけるために出かけたのだと判断。
そして、日高のアパートでの出来事につながるのでした。
知夏は、あの夜の出来事について聞かれますが、ショックであまり覚えておらず、堀之内が銃口を上げたので思わず飛び掛かり、逆に撃たれたのだと嘘の証言をします。
結局、証拠はありませんが、日高がハサミ男だと判断するしかなく、知夏は期せずして疑惑から逃れるのでした。
結末
磯部が帰ると、知夏と医師が今後のことを話します。
すると、医師はライオス王のおでましだと言っていなくなると、病室に医師そっくりの見た目をした医師が入ってきます。
彼は知夏の父親で、知夏と母親との間に確執があることを知った上で、家に戻ってくるよういいます。
それに対して答える知夏の口調は女性そのもので、おそらく第三の人格、ハサミ男のような妄想人格だと思われます。
父親がいなくなると、知夏はこれからのことを考えます。
ハサミ男であり続けることは出来ないと思う知夏ですが、隣の老婆のお見舞いで来た高校生くらいの少女にクッキーをもらいます。
少女は頭が良さそうで、次の瞬間、知夏はこう言っていました。
『きみ、名前はなんていうの?』
補足~ライオス王について~
最後に、医師そっくりの父親が登場し、医師は彼をライオス王と呼び、父親は知夏と母親との間にある確執を心配していました。
これは『エディプスコンプレックス』という言葉の語源になった神話を暗示しています。
エディプスコンプレックスとは、母親を手に入れようと思い、父親に対して強い対抗心を抱く、幼少期に起こる心理的な抑圧のことをいい、男女によってその性質は異なります。
女性である知夏の場合、成長するにつれて子どもの女性にはペニスがないことに気が付きますが、大人になったら生えてくると思いこみます。
ところが、母親にもペニスがないことに気が付き、大人になったらペニスを去勢されるのだと不安になります。
すると、なぜ私のペニスを立派にして生んでくれなかったのと母親に怒りを向けるようになります。
またこの時、三つの方法によってこの去勢コンプレックスを解消しようとしますが、知夏の場合は、自分は男でいつか生えてくると信じ込み、男性的な性格を身に付けるという方法でした。
だから本来の人格である医師は、男性のような口調なのです。
しかし、なぜ彼女がハサミ男の妄想人格を得るに至ったのか、またなぜ医師は父親の姿をしているのか、それは本書では語られませんでした。
おわりに
一つのトリックに気が付いても、そこから何度も驚きの展開が待ち受けているので、最後まで感心しながら読むことが出来ました。
最後に美しい女性がハサミ男だと分かり、日高のような男でなくて良かったと心から思いました。
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