『オリエント急行の殺人』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!
冬の欧州を走る豪華列車オリエント急行には、国籍も身分も様々な乗客が乗り込んでいた。奇妙な雰囲気に包まれたその車内で、いわくありげな老富豪が無残な刺殺体で発見される。偶然乗り合わせた名探偵ポアロが捜査に乗り出すが、すべての乗客には完璧なアリバイが……ミステリの魅力が詰まった永遠の名作の新訳版。(解説:有栖川有栖)
Amazon内容紹介より
映画化もされている、アガサ・クリスティーの言わずと知れた名作です。
今であれば『こんなの有り得ない』と言われてしまうような偶然が多々重なっていますが、これこそがミステリの魅力だと自信を持って言える内容となっています。
雪の影響で立ち往生を余儀なくされた豪華列車オリエント急行。
この大きな密室空間において無残な刺殺体が発見され、偶然居合わせた名探偵・ポアロが事件解決に乗り出すのですが、説明がつかないことが多々あり、それをいかにして解決に導くか、という内容になっています。
真実はそう難しいものではありませんが、登場人物が多いので、誰がどうなって、というところまで把握しきれない人もいるかと思います。
なので、この記事を頭の整理に利用していただければと思います。
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら書いていきたいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
オリエント急行
旅行客の少ない真冬。
エルキュール・ポアロはゆっくりと観光をする予定でしたが、請け負っていたカスナー事件に進展が見られ、急遽ロンドンに帰らなければならなくなります。
そこでイスタンブール=カレー間の寝台車を予約しようとしますが、まさかの満席。
偶然再会した国際寝台列車『ワゴン・リ社』の重役・ブークの計らいで、予約を入れないようにしてある十六号車を手配してもらいますが、こちらも埋まっていました。
それでも諦めずに調べると、二等寝台でまだ一人現れていない人物がいることが分かり、ブークの計らいでポアロはそこに乗車。
マックィーンという青年と同室になり、列車は走り出します。
乗り合わせた人物紹介
オリエント急行には国籍も身分も様々な乗客が乗り込んでいます。
乗客の一覧は以下の通りです。
エルキュール・ポアロ……………私立探偵
ブーク………………………………国際寝台車会社の重役
メアリ・デブナム…………………イギリス人の家庭教師
アーバスノット……………………イギリス人の大佐
ラチェット…………………………金持ちの紳士
ヘクター・マックィーン…………ラチェットの秘書
エドワード・マスターマン………ラチェットの召使い
ハバード夫人………………………アメリカ人の婦人
コンスタンティン…………………ギリシャ人の医師
ドラゴミロフ公爵夫人……………ロシア人の富豪
ヒルデガルデ・シュミット………公爵夫人のメイド
アンドレニ伯爵……………………ハンガリー人の外交官
アンドレニ伯爵夫人………………伯爵の妻
サイラス・ハードマン……………アメリカ人の私立探偵
グレタ・オールソン………………スウェーデン人の婦人
アントーニオ・フォスカレッリ…イタリア人のセールスマン
ピエール・ミシェル………………フランス人の車掌
立ち往生した列車で起きた殺人事件
道中、ポアロはラチェットというお金持ちから命を狙われているとして、大金と引き換えに彼を守るよう依頼を受けますが、これを断ります。
その夜、ポアロは誰かの悲鳴で目を覚まします。
隣はラチェットの部屋でしたが、フランス語で誰かが車掌に話しかける声を聞きます。
それは午前〇時三十七分のことでした。
そこではじめてポアロは、列車が雪で停車していることに気が付きます。
騒ぎ出す客もいる中、翌朝、ポアロはブークに呼ばれます。
なんとラチェットが何者かによって刺殺されていたのです。
医師のコンスタンティンによると、死亡推定時刻は午前〇時から二時の間。
部屋の窓は開いていましたが、雪に足跡はついていなく、犯人は今もこの列車にいると推測されます。
体には十二か所もの刺し傷があり、場所によって力加減は様々で、中には骨と筋肉の固い層を貫いている傷もありました。
ブークはポアロに事件解決を依頼し、ポアロはそれを了承。
列車が雪だまりに突っこんだのは午前〇時三十分頃のことなので、それ以降、列車を離れた人はいません。
つまり、犯人はこの列車の中にいることになります。
鍵となる別の事件
ポアロたちはラチェットの部屋を捜索。
犯人が燃やしたと思われる手紙のかけらを見つけます。
ポアロはこれをアルコールランプの炎にかざし、『小さなテイジー・アームストロングのことを忘れ』という文字が浮かび上がります。
彼はすぐに意味を理解し、ラチェットの本当の名前を導き出します。
本名はカセッティといい、アメリカで起きたアームストロング誘拐事件の犯人として知られています。
ここからはこの誘拐事件の解説。
イギリス人のアームストロング大佐は、有名な女優・リンダ・アーデンの娘を妻に持ち、娘のデイジーと三人で幸せに暮らしていました。
ところが、デイジーが三歳の時に誘拐され、莫大な身代金を支払ったにも関わらず、彼女は殺害されてしまいます。
さらに当時妊娠中だった夫人は流産し、その後死亡。
アームストロング大佐も後を追うように拳銃で自殺します。
事件から半年後、誘拐犯一味のボスとして逮捕されたのがカセッティでした。
しかし、彼は証拠不十分を理由に無罪放免となり、ラチェットという偽名を使ってアメリカを離れていたのでした。
カセッティであれば、アームストロング家に関係する人物から恨みを買っていても不思議ではありません。
またポアロは、夜中にカセッティの声を聞いているから、犯行は〇時三十七分以降に行われたものとして調査を続けます。
事情聴取
ここからは乗客や車掌一人一人に事情聴取を行います。
しかし、全員に完璧なアリバイがあり、調査は難航します。
問題となる点は以下の通りです。
① Hのイニシャルがついたハンカチの持ち主
② パイプ・クリーナーの持ち主
③ 真っ赤なガウンを着ていたのは誰なのか
④ 車掌の制服で変装していたのは誰なのか
⑤ 時計の針が一時十五分で止まっている理由
⑥ ラチェットは複数の人間によって殺害されたのか
ハンカチについて、Hというイニシャルを持つ女性は三人いますが、誰も自分のものだと認めません。
パイプ・クリーナーについて、使うのはアーバスノット大佐だけですが、わざと現場に落として彼に罪を擦り付けようとしている可能性もあります。
真っ赤なガウンを着ていた人物はいまだに分からず、車掌の制服で変装していた人物について、証言から考えると乗客の誰とも条件が合いません。
時計の針について、この時刻に犯行が行われたのか、その前後なのか、決め手になるようなものとは今のところありません。
最後に犯人について、刺し傷からは少なくとも二人の人間が関与していることが分かっています。
ポアロは情報は出揃っていて、後は考えるだけだとして、黙考します。
そして、推理を披露します。
推理
まずは犯行現場に落ちていたハンカチについて。
実は伯爵夫人のパスポートに書かれたファーストネームは油のしみでぼやけ、エレナ(Elena)に見えます。
しかしポアロは、ヘレナ(Helena)なのではと指摘。
また犯人の最初の計画では、雪で列車は止まることなく時刻通りに動き、車掌の制服はトイレに脱ぎ捨てられていたのではとポアロは考えます。
そうすれば外部の者の犯行ということになり、犯人は到着した駅で逃げたという筋書きができます。
また焼かれた手紙について。
これが燃え残ってしまったのも犯人の失敗です。
処分し損ねたことで、アームストロング家と深い関係を持つ人物がこの列車に乗っていて、その人物に疑いがかかることになります。
ポアロはまずハンカチの持ち主である伯爵夫人に事情を聞くと、彼女は観念して本当のことを話します。
彼女の本名はヘレナ・ゴールデンバーグといい、リンダ・アーデンの娘で、ソニア・アームストロングの妹でした。
さらにパスポートの細工も認め、カセッティを殺害する強い動機があることも認めた上で、殺害を否認。
伯爵も、彼女が昨夜、部屋から一歩も出ていないと証言します。
またハンカチも自分のものではないと伯爵夫人はいいます。
すると今度は、公爵夫人がハンカチは自分のものだと名乗りをあげます。
彼女の名前はナタリアですが、ハンカチのイニシャルはロシア語で、ロシア語ではNがHになるのだと説明。
さらに公爵夫人がソニアの妹であることを知りつつも、黙っていたことを白状します。
それは友人に対する忠誠心からくるものだと彼女は説明しますが、彼女の年齢を考えると、犯行は難しいとしか言いようがありません。
さらに彼女の右の胸ポケットにはハンカチが入っていたため、彼女が嘘をついていることが分かります。
そこで今度は、メアリに再尋問します。
ポアロは、彼女がアームストロング家の家庭教師をしていたことを突き止めていて、そのことを突きつけます。
彼女は世間の評判を気にして嘘をついたと言いますが、途中で泣き出し、アーバスノット大佐がポアロたちに彼女の無罪を訴えかけます。
また、ポアロはアントーニオがアームストロング家のお抱え運転手であることを知り、彼にそのことを聞きます。
彼は不当な疑いをかけられることを嫌って嘘をついたといいます。
次々とアームストロング家の関係者が浮き彫りとなり、ポアロはついに全員を集め、二つの解決法を示します。
結末
結果からいって、乗客全員がアームストロング家の関係者でした。
詳細は以下の通りです。
メアリ・デブナム…………………アームストロング家の家庭教師
アーバスノット……………………アームストロング大佐の友人
ヘクター・マックィーン…………ソニアを昔から崇拝していた
エドワード・マスターマン………アームストロング家の召使い
ハバード夫人………………………リンダ・アーデン本人
ドラゴミロフ公爵夫人……………ソニアの母、リンダ・アーデンの友人
ヒルデガルデ・シュミット………アームストロング家の料理人
アンドレニ伯爵……………………リンダから事情を聞いて一緒に乗車
アンドレニ伯爵夫人………………ソニア・アームストロングの妹
サイラス・ハードマン……………自殺した子守娘の恋人
グレタ・オールソン………………デイジーの乳母
アントーニオ・フォスカレッリ…アームストロング家のお抱え運転手
ピエール・ミシェル………………自殺した子守娘の父親
カセッティにつけられた十二の傷は、十二人の人間によってつけられました。
上記の人間は十三人ですが、伯爵夫人の代わりに伯爵が参加し、車掌のピエールも参加しています。
彼らはカセッティが死刑判決を免れた時、自分たちの手で死刑を執行しなければと決意。
カセッティの行方を突き止めると、使用人としてマックィーンとエドワードが送り込まれ、近々オリエント急行に乗ることを知ります。
そこでピエールが車掌を務める日に合わせてカセッティを乗車させ、他の人もその日に乗車。
全ての部屋を予約し、邪魔者も排除したつもりでした。
ところが、ポアロが乗り込み、列車も雪で立ち往生してしまいます。
それでも彼らは犯行を続行することにし、誰が殺害したのか分からないように十二人が一回ずつカセッティを短剣で刺します。
嘘の証言で調査を撹乱し、お互いにアリバイを作ることで乗り切るつもりでした。
しかし、ポアロはそれを見抜き、これで終わりかと思われました。
ところが、ポアロはこれ以外にもう一つの真相を披露していました。
カセッティを狙っていたとされる謎の人物が途中の駅で乗車し、車掌の制服で変装して彼を殺害。
列車が発車する前に駅にまた戻ったというのです。
犯行時刻について、時計は一時十五分で止まっていましたが、東ヨーロッパと中央ヨーロッパでは一時間の差があり、カセッティはそれを忘れていました。
つまり実際の時間は〇時十五分だといいます。
そして〇時三十七分に聞こえた声、それは第三者のものだったと。
明らかにおかしな点が見られる推理ですが、今回の犯行には正当性があるとして、ブークはこちらの推理を支持。
コンスタンティンも賛成し、自分の診断にはいくつか間違いがあったと口裏を合わせてくれることになりました。
こうして事件の真相は隠され、犯行に関与した彼らは警察に突き出されずに済んだのでした。
おわりに
大胆なトリックに、物議を巻き起こした結末。
殺人に正当性などないと分かってはいても、無念な思いを胸に抱えた人を前に、ポアロと同じ結論に至る人もいることでしょう。
僕はこの結末で良かったように思います。
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