『ふたえ』徹底ネタバレ解説!あらすじから結末まで!白河三兎【著】
超問題児の転校生・手代木麗華がぼくらの世界を変えてしまった。ドン臭い「ノロ子」、とにかく地味な「ジミー」、将棋命の「劣化版」、影の薄い「美白」、不気味な「タロットオタク」―友達のいない五人と麗華で結成された『ぼっち班』の修学旅行は一生忘れられない出来事の連続で…。物語が生まれ変わる驚きの結末!二度読み必至、どんでん返し青春ミステリーの傑作誕生。
「BOOK」データベースより
白河三兎さんによる青春群像作品です。
『私を知らないで』で知っている方もいるかもしれません。
そして本書の内容ですが、超問題児の転校生・手代木麗華が転校してきたことで高校生活は一変し、友達のいない、いわゆる『ぼっち』たちにも変化が訪れる、そんな青春物語です。
ところが、本書には巧妙な仕掛けが施されていて、読者も早い段階で違和感を抱くと思いますがその正体は分からず、最後の数ページに完全にやられます。
この手法には賛否両論あると思いますが、僕は好きでした。
まさしく二度読みしたくなる作品です。
この記事では、そんな本書の魅力をあらすじや個人的な感想を交えながら紹介したいと思います。
ネタバレになりますので、未読の方はご注意下さい。
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タイトルの意味
内容に入る前に、タイトルについて。
本書では全ての章に『重なる、重ねる』という言葉が入っていて、『ふたえ』とは漢字で『二重』と書きます。
誰かに自分を重ねる。自分の素顔を隠すために化粧を重ねる。過去に現在を重ねる。
そういった物語が重なったから、『ふたえ』というタイトルになったのだと思います。
重なる二人
視点は何をしても鈍くさい『ノロ子』。
この章では本名が明かされませんが、その点は後述します。
高校二年の一学期も一ヶ月が過ぎた頃、手代木麗華が転校してきます。
美人なのに一人称が『俺』で、エルメスのバッグを提げている。
自己紹介では仲良くする気はないと宣言し、注意する担任の久米を逆に口で言い負かし、初日から孤立してしまいます。
彼女について、色々な良からぬ噂が聞こえてきますが、手代木は気にしません。
そして、七月の京都への修学旅行に向けて班決めが行われますが、誰も腫れ物の麗華を誘おうとは思いません。
どの班にも入れず、同じように友達のいない五人のクラスメイトと『ぼっち班』を作ります。
スマホで将棋ばかりしているけれど、同じ学校で通う弟の左京には勝てない渡辺右京こと『劣化版』。
目立たない地味な男子、宮下寛こと『ジミー』。
物静かだけれど肌が綺麗な桜井加代こと『美白』。
タロット占いが趣味な小堀しずえこと『タロットオタク』。
そしてノロ子。
誰も協調性などないので、まとまるはずがありません。
一方、ノロ子は同じ班の宮下のことが好きで、班行動を理由に彼と距離を縮め、告白したいと思っていました。
しかし、手代木は班員それぞれに除け者にされて悔しくないのかと言い、宮下にはお試しで付き合わないかと打ち明け、宮下もこれを了承。ノロ子の計画は早くも狂い始めます。
宮下は手代木の命令で班長になり、行き先を決めますが、誰も意見を挙げません。
結局、手代木が『京都国際マンガミュージアム』、通称えむえむを挙げ、四日間をそこで過ごすことになりました。
そして、修学旅行を迎えます。
問題を起こされたらたまらないと久米が定期的に監視しにくる中、二日目、手代木は用事があるからと久米に無断でえむえむを出て、タクシーでどこかに向かってしまいます。
宮下は呼び戻すと別のタクシーで彼女の後を追い、ノロ子も同乗します。
車の行き先は大阪にある『タカツキ霊園』でした。
手代木は初めからここに来る予定で、だからえむえむを指定したことがうかがえます。
また道中、宮下から手代木は亡くなった父親の墓参りを父親の親族から拒まれていることを教えられ、だからこの機会に来たのだと合点がいきます。
霊園に着くと、手代木は泣いていました。
そこで手代木が父親の死をきっかけに不登校となり、留年をきっかけに転校してきたことを知ります。
手代木が悪態をつく中、ノロ子はつい反論し、ついにはケンカにまで発展。
宮下が仲裁に入りますが、手代木に手を振りほどかれた反動で階段の方に落ちそうになり、手代木は彼に手を伸ばし、二人一緒に階段を落ちて行きます。
ノロ子が助けに行くと、手代木は足首を骨折し、宮下は後頭部から血を流していました。
ノロ子が救急車を手配する中、宮下と手代木は打ち解け、いい雰囲気に。
そして手代木はノロ子のことも認め、ノロ子は自分に与えられたイメージを払拭し、宮下を奪うために手代木に勝負を挑むことを決めるのでした。
素顔に重ねる
視点となる人物の名前はここでは明かされませんが、ここでは『舞妓』とします。
舞妓は病弱なキャラで通っていて、しかもぼっちなので誰も彼女のことを気にしません。
そこでえむえむでの班行動でお腹の調子が悪いと言ってトイレにこもったふりをして、外に抜け出します。
向かった先は舞妓の体験が出来る店でした。
金子という店員に化粧をしてもらっている中、舞妓は自分の存在感が薄いため、綺麗な舞妓になって誰かの印象に残りたいと語り、金子も彼女の気持ちを汲んでとびきりのメイクをします。
さらに彼女は同級生の左京のことが好きで、彼はこの後、班行動で近くに来る予定でした。
そこで金子は彼女に『二重(ふたえ)』という芸名をつけ、ついてきて左京と一緒に写真を撮ってくれるといいます。
班行動予定の場所に行くと左京はいて、口実を作って舞妓と写真を撮ってもらうことに。
左京は彼女が同級生だとは気が付かず、綺麗な舞妓に舞い上がっていました。
撮影後、連絡先を交換しますが、舞妓は自分のしていることが虚しくなってしまいました。
その夜、舞妓は撮った写真を渡したいと左京をホテルのロビーに呼び、舞妓は素顔で臨みます。
左京は待ち合わせ場所に来ますが、舞妓が二重だとは気が付かず、写真だけ受け取って行ってしまいました。
舞妓はやっぱりだめだと諦めそうになりますが、そこにダブりと呼ばれる問題児が通りかかり、二重と舞妓が同一人物だということに気が付いてくれました。
普段は愛想のないダブりですが、彼女には少しだけ心を開いてくれて、舞妓はまた前を向くのでした。
ここでダブりは杖をついているのですが、これがミスリードになっています。
真実は後述します。
重なる想い
視点は、将棋にはまっている右京です。
右京は左京に勝てないストレスからネット将棋にはまり、弱い相手ばかりと戦っていました。
特に『SAE』という人物と対局するのが楽しく思っていました。
修学旅行二日目、手代木に宮下、ノロ子がいなくなる中、右京はSAEが京都在住で不登校だということを思い出し、彼女に会えないかとメッセージを送り、えむえむを抜け出します。
向かったのは京都にある将棋センターで、そこには右京のイメージとは正反対の、ヤンキーのような少女が待っていました。
右京たちは早速対局。
SAEは本名を冴島だといい、梶と名乗る学生服を着た少年がそれを観戦します。
いつもなら勝てるはずなのに、目の前にいる冴島は強く、右京は敗北します。
さらに今度は梶と対局することになりますが、その打ち方に右京は懐かしさを覚えます。
またしても敗北しますが、対局後、右京は言います。
君の方がSAEなんだよね?と。
二人は名前を入れ替えていて、右京がネットで対局していたのは目の前にいる少年、ではなく実は少女の冴島だったのです。
冴島はここで負けたら右京にもう対局してもらえないのではと思い、梶に代理をお願いしていたのです。
それは右京も同じで、最近腕を上げてきたSAEには負けられないと左京にアドバイスをもらいながら対局していたのです。
冴島と帰る中、彼女は左京に興味を持ったようで、右京の恋はあっけなく終わってしまいます。
しかし、左京より強くなれば可能性があることをにおわされ、右京はそれでも燃えるのでした。
偶然に重ねる
視点は、タロットにはまる小堀。
小堀は幼い頃に占いにはまり、それ以降、ずっとタロット占いにはまっていました。
これまで占いのことでぼっちになってきた彼女ですが、手代木が現れたことで転機が訪れます。
小堀もまた宮下のことが好きで、手代木が彼と付き合うと言い出して焦っていました。
誰も小堀の占いを信じてくれませんが、信じてもらえるようになれば宮下に意識してもらえるはず。
そこで彼女は修学旅行を休み、同じ学年の生徒たちの机を覗き見ることで秘密を知り、それを占いで言い当てたことにしようと決めます。
また手代木には、旅行のことを占うと不吉な結果が出るとおどし、修学旅行に対して不安を抱かせるよう仕向けます。
小堀は予定通り、修学旅行を仮病で休むと、同学年の教室を回り、様々な秘密を入手します。
ところが、宮下と手代木が旅行中に救急車で運ばれたことを知り、彼女の占いがたまたま連続で的中してしまいます。
これでクラスのカースト上位にいる生徒は彼女の占いを信じ始め、彼女に占いをお願いします。
小堀も得た情報から占いの結果をでっち上げ、たちまちの内に人気者となり、絶対的な立場を得ます。
しかし、逆に宮下とは距離が離れてしまい、また占いなしでは誰からも相手にされないことに気が付き、虚しくなってしまいます。
一年後、修学旅行の時期がやってきて、現地にいる久米から電話が入り、占ってほしいと言ってきます。
不吉な占いが当たってしまったことを小堀は気にしていて、久米はそんな彼女のことを気遣っていたのです。
小堀は何でも運気が最高だと嘘をつき、久米もまた前向きになると大吉だと適当な占いをして電話を切ります。
実は去年の修学旅行後、宮下は一年以上入院していたことが判明し、また彼に関する良からぬ噂を聞いて、小堀はそのことをずっと後悔していたのです。
それでも久米の言葉で元気づけられ、前向きに生きていくことを決めるのでした。
重ねる生徒
視点は、美白の桜井。
彼女は、手代木が久米に対して失礼なことを言ったことをずっと根に持っていました。
桜井は一年前に弟を亡くしていて、その時、所属する卓球部の顧問が久米でした。
彼女は弟を失った悲しみをうまく感情に出せず、母親からは冷たいと言われ、彼女は親がいる時間は外出し、いない時間だけ帰宅するという生活を送ります。
夏休みが明けても学校には行かず、ゲームセンターに通いつめ、いつしか挑戦者がいなくなるまで上り詰めてしまいます。
そんなある日、挑戦者が現れ、彼女を負かします。
相手は、なんと久米でした。
彼は桜井と話すきっかけを作るために彼女の戦術を学び、練習していたのです。
最初は久米の言葉に反発する桜井ですが、次第に自分が家にいたくなかった理由は、弟の気配が残る家にいるのが辛かったからだと気が付き、ようやく正しく悲しむことができました。
そしてその十か月後の修学旅行、えむえむから手代木たちが脱走したのを機に久米と二人きりになり、手代木が暴言を言った時にかばえなかったを謝罪します。
すると久米は手代木の事情を教えてくれ、彼もまた手代木を父親の眠る霊園に連れて行ってやりたいと考えていることを教えてくれます。
良い雰囲気になる中、久米の元に手代木から電話が入り、焦った桜井は好きだと告白します。
しかし、その言葉は久米に届かず、彼は電話口の声に驚いていました。
過去に重ねる
視点は最初、誰か明かされません。
俺という口調、久米から問題児扱いされていることから手代木ではないかと推測されます。
後に違うことが判明しますが、それまでは手代木と表記させていただきます。
修学旅行三日目、彼女は自分が起こした事故をきっかけに久米にマンツーマンで見張られていました。
えむえむで退屈している中、久米は左京から没収したという将棋で手代木に勝負を挑みます。
勝った方の言うことを聞くという条件で勝負が始まり、舞妓がそれを観戦します。
舞妓は久米に借りたiPADでオンラインの将棋をしていて、そこには手代木と久米の勝負と全く同じ盤面が写されていて、手代木は彼女の手を真似して久米に勝利を収めます。
また対局中、志村という人物から手代木のことを気にかけてやってほしいと久米に話があったことが判明し、手代木と志村の話になります。
志村は手代木の近所に住んでいて、一度、自転車に乗せたことがありました。
それ以降、志村が手代木の家に迎えに来て、手代木を後ろに載せて自転車をこぐことになりました。
この時、手代木は常に志村が異性である彼女に緊張していることに気が付いていて、こいつ、俺のことが好きなのか?と思っていました。
場面は戻り、結局、手代木は負けてしまいます。
最初は自分で打ったため、その分が響いたのです。
勝った久米は、手代木と舞妓を連れてある場所に向かいます。
そこは、前に訪れた霊園で、手代木が勝ったら来ようと思っていた場所でした。
ここで舞妓の名前が『小笠原』だと判明。
名前も宏美だと後で判明し、これは一章のぼっち班での話ではないことがようやく明文されます。
手代木が向かった先には父親の墓、そして『手代木麗華』の墓がありました。
実は、この章の視点は手代木の真似をした宮下だったのです。
階段から落ちた後、手代木は打ちどころが悪くて亡くなっていて、宮下は彼女の死を受け入れられず、彼女の真似をすることで彼女の気持ちに近づこうとしたのです。
彼もまた長期入院を余儀なくされ、足に後遺症を残し、杖をついて歩いています。これが足を折った手代木か?と誤認させていました。
また彼は留年し、今もまだ二年生。
舞妓こと小笠原は一歳下で、留年したことで同学年になったのです。
おそらく二章がぼっちの誰だろうと考えたと思いますが、あれは一学年下の話だったのです。
右京の弟である左京がいたことで、そのことに気が付けそうな気もしますが、双子なのでは?という可能性がよぎり、うまくカモフラージュされていました。
また志村について、彼女はノロ子です。
名前は乃々子といい、留年して強く当たってくる彼を見捨てず、今日も心配していたのです。
これで宮下を自転車に乗せる度に緊張していた意味が分かります。
手代木の死を経て、ぼっちたちは今も繋がっていたのです。
宮下は手代木の墓に来てようやく彼女の死を受け入れ、自分を心配してくれる人の優しさに気が付き、前向きに生きることを決めるのでした。
おわりに
一見普通の青春物語に見せかけてから、思わぬ結末に驚かされた読者も多いはず。
ぜひ二度読みして、どこが伏線になっているのかを確認してみてください。
ぼっちたちが自分を受け入れ、前向きに生きていくその姿に思わず感動するはずです。
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小説のみならずビジネス書、マンガ、専門書など様々なジャンルの作品が500万冊以上読み放題。
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なかなか手に取れない数千円、数万円するような本を読むのもアリ。
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