『骨董匣 異形コレクションLX』あらすじとネタバレ感想!
ホラー・幻想小説のシーンを牽引する、全編新作書下ろしの巨大アンソロジーシリーズ、創刊28年目にして到達した記念すべき第60巻は、「異形」の原点の一つとも言える「骨董」がテーマです。常連新鋭入り交じった、美しくも呪わしい饗宴にご参集ください。収録作家:藍内友紀、天沢時生、井上雅彦、大島清昭、空木春宵、上條一輝、北沢陶、黒木あるじ、澤村伊智、篠たまき、斜線堂友紀、田辺青蛙、久永実木彦、牧野修、芦花公園
Amazon内容紹介より
シリーズ第六十弾となる本書。
前の話はこちら。

骨董というと僕はあまりピンときませんが、アンティークとなると途端に胸のときめきを感じます。
ロマンがあり、そこに思いがけない歴史やいわれがあり、底知れない恐怖を生み出しても不思議ではない。
そんな予感を感じさせてくれる一冊で、期待通り、あるいは期待以上の満足度でした。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想などを書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
対小匣【篠たまき】
東京オリンピックを控えた昭和三十年代の話。
俺はダム用地課に所属し、大規模な土地買収のために日夜活動していました。
とはいっても、対象となる土地は山間の村が多く、交渉は飲みの席と決まっていて、体力気力がものをいう仕事です。
仕事中、鴛鴦の声を聞き、俺は職人をしていた叔父が持っていた小匣を思い出します。
ひくりのかっぱ【黒木あるじ】
市立の視聴覚センターで働く井佐木のもとに、芸大時代の同期である壬生が現れます。
壬生が井佐木の前に現れたのは、彼に河童のミイラを造ってほしいからでした。
冗談や何かの例え話ではなく、正真正銘、河童のミイラです。
壬生は骨董を専門にしていて、それが必要な理由を説明してくれますが、井佐木を待っていたのは思ってもみないことでした。
一致するオブジェクト【上條一輝】
警察庁は新たなに就任した長官の肝入りで、次世代技術活用操作推進室を創設します。
AIを捜査に活用することを目的にした部署で、配属された可児は『ミッケルン』と名付けられたAIシステム普及に努めますが、思うように進みません。
困った可児は警察学校の同期である塩野に相談します。
すると彼女が口にしたのは、一ヵ月前に発生した不可解な事件でした。
俺が作った俺の遊び場【澤村伊智】
俺はパラダとともにアーバンおじさんズというコンビをやっています。
彼らは怪談めいた来歴のある物、いわゆる呪物を蒐集し、それをもとに動画で語ることで収益を得ていました。
しかし、人気を得るためにしたことで抗議を受け、二人は反省します。
それは至極まっとうなことをしようというわけではなく、抗議を回避しながら自分たちに都合の良い呪物を生み出すというものでした。
金魚の櫃【藍内友紀】
わたしは小学校時代からの友人である朱郷紫から、箱をバラすのを手伝ってほしいと相談されます。
紫は職場の人が持っている物件のうちから飲食店を譲り受けることになり、そこ手足を折りたためば人が入れそうな箱があるのだといいます。
箱自体は解体してくれる人を手配していますが、素行の観点から一緒にいてほしいとのことでした。
わたしは飲食店の場所を聞いた時、箱に思い当たることがありました。
雛がたり【大島清昭】
大学生の僕は春休みに帰省しますが、それが憂鬱でした。
理由は、実家にある、江戸末期から伝わる古今雛でした。
僕は幼い頃、古今雛の表情が平常時と異なる瞬間を目撃していて、両親に伝えるも後で表情は戻っていたため、勘違いということでその場は収まります。
この経験が彼のその後の進路に影響していますが、そんな古今雛がある実家から足が遠くなるのも仕方ないところです。
僕は重い足取りで実家に戻りますが、そこで一連の騒動に巻き込まれてしまうのでした。
秋が笑う【井上雅彦】
成瀬昭夫は宿に来ていて、藤川涼子とかつて来たことを思い出します。
涼子は税務会計事務所で出会い、近所の公園で彼女が絵を描いているところを目撃したことで興味を持ち、交流が始まります。
成瀬自身も画家になりたかった過去があることで距離が急速に縮まり、秋に二人で旅行に行くことになりました。
彼の回想の中で、旅行で何があったのかが描かれます。
箱守りの娘【田辺青蛙】
鈴は幼い頃に両親を亡くし、身寄りがないことで集落の家々をたらい回しにされます。
ゴミを漁って食いつなぐも、それだけでは足らなくなると村人たちの目が険しくなりました。
誰もやりたがらないような過酷で汚いことをしても、もらえる対価はわずかばかり。
それどころか住んでいる小屋を燃やされ、人生に行き詰まる鈴ですが、そんな時に人さらいにあいます。
さようなら、グーテ【久永実木彦】
わたしは愛猫のグーテを亡くし、傷心状態でした。
職場の野間は悪い人間ではありませんが、傷心のわたしに猫を話を振ってくることがあり、空気を読めない一面がありました。
一方で、わたしの後輩の灰屋木はそんなに野間にわたしに代わって指摘してくれますが、彼もまた気をつかえない人間であり、わたしは精神を削られていきます。
少しずつグーテを思い出しながら気持ちを整理していくわたしですが、そんな時に事件が起きました。
因果骨董店の中庭(パティオ)【牧野修】
オレは自分の人生を見限って自殺を試みます。
気が付くと見知らなぬ場所にいて、因果骨董店なるものがありました。
そこには店主がいて、ここは夢ではなく、オレはまだ死んでいないが病院で植物状態であることを告げます。
店にはオレのように植物状態の人間が何人もいて、不思議な交流が始まります。
乞匣【斜線堂有紀】
船守の嘉一は女性を船に乗せて島に向かっていました。
女は売られてきた身で、島で待ち受けているのは過酷な運命です。
嘉一は彼女の不幸を憐れに思う一方で、彼女の持つ匣に注目します。
女性は蕣と名乗り、自分が身売りされるまでの経緯から匣について語り始めます。
神の見えざる手【天沢時生】
本書では未来永劫語られるであろうサッカーの試合が描かれ、『ただ神の手が触れた』という選手のインタビューが印象を強めます。
一方で、物語の世界観もまた強烈で、街に蝸牛の雨が降るのが当たり前になっていました。
人々は蝸牛が降る世界に変わったことでそれに順応するように生活を変え、今でも営みをしています。
そんな中で、かつてサッカー選手で、歴史的なあのシーンにいたわたしは、あの歴史的なシーンの裏に隠された真実などを語ります。
ゴス・リヴァイヴァル【空木春宵】
二十九歳で、営業職で、契約社員で、女のわたし。
彼女は骨董品が並ぶ店に立ち寄ります。
店側からすれば大したものを購入しそうにないわたしなど相手にする価値がなさそうですが、店主はわたしに話しかけてきます。
店主はいくつもの骨董品を見せる中で、特にわたしの興味を引いたのはある固定器具で、それは死者を生かすためのものでした。
梅霞【北沢陶】
貞二郎は鶯を入れるための鳥籠を買います。
それは百年以上に作られたもので、貞二郎は気に入り、そこに特に大事に育てている梅霞という鶯を入れて飼うことにしました。
これなら梅霞も満足してくれるはず。
貞二郎は満足感に満たされますが、そこから梅霞の様子がおかしくなります。
ヨブを問う【芦花公園】
沖田誠は妻の咲と離婚していますが、彼女は骨董に詳しくてセンスが良いことが冒頭に語られます。
離婚した今でも、咲ならどう思うだろうという観点で物を見ていて、それによって骨董市で革装丁の本と出会います。
咲なら興味を持つのではという理由から購入しますが、それは聖書のようなもので、そこに前の持ち主の書き込みがいくつもありました。
沖田は何の気なく書き込みを読みますが、そこでこの本が普通でないことに気が付きます。
感想
骨董の魅力
本書はタイトル、表紙からもう魅力満載です。
骨董、アンティークはただ美しい・素晴らしいだけでなく、歳月を重ねたことで味が出て、そこに歴史や逸話が付与されていることも珍しくありません。
そうするとお金では表現できない価値がそこに生まれ、物語のテーマとしてこれほどふさわしいものはありません。
僕は特別アンティークが好きというわけではありませんが、それでも良いものが目に留まれば購入して家で大事に飾ることもそれなりにあります。
そのため、本書は完全に僕好みで、記念すべき第六十弾にこのようなテーマを選んでくれた井上雅彦さんには感謝しかありません。
悪くないけれど印象は薄目
テーマとしてこれ以上ないはずなのに、読み終えてそんなに印象が残らないのは意外でした。
こうしてブログを書くことで、本書の面白さをしっかり振り返ることができました。
しかし、これまでの異形コレクションと比べてしまうと、記憶に残るような一作はなかったような気がします。
強いて言えば井上雅彦さんの『秋が笑う』が特に好きで、季節にともなうノスタルジー、過去の甘さと苦さが入り混じったテイストはかなり好みでした。
井上さんの作品は情景や感情が鮮やかで、脳の中で視覚情報に変換されるほどの解像度が好きです。
その他の作品も面白いのですが、そこまでのめり込めなかったので、もしかしたら単なる相性の問題なのかもしれません。
おわりに
当初の期待と異なる読了感となりました。
悪くなかったのですが、僕がアンティークに抱く好きという感情が、小説で表現したものとは少しずれたのかもしれません。
それでも歴史を重ねたからこそ説得力のある恐怖が生み出されているので、シリーズを通して読んできている人にとって必読といえるでしょう。
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