『同志少女よ、敵を撃て』あらすじとネタバレ感想!激化する独ソ戦に巻き込まれた女性たちの物語
独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵”とは?
Amazon商品ページより
第11回アガサ・クリスティー賞大賞受賞作をはじめとして、あらゆる賞などで話題を呼んだ本書。
一人の平凡な少女が戦火に巻き込まれ、狙撃兵としての道を歩む。
次第に日常からかけ離れていく様を描きつつも、一人の少女としての今後のへの希望や悩みも同時に描く。
テーマとしてはかなり重ためですが、そこをキャラクターつけなどによって適度にエンタメ性を保っていて、かなり読みやすいように仕上がっています。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想を書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
少女
本書の主人公は、十六歳の少女・セラフィマ。
彼女は母親のエカチェリーナに銃の使い方を学び、母子で猟師を務めていました。
村人がたった四十人しかいないイワノフスカヤ村において、獣を狩ることのできる二人は貴重な存在でした。
セラフィマは村のことが好きで、彼女を囲む人たちのことが好き。
こんな日々がずっと続くことを疑いませんでした。
転機
セラフィマは十八歳に成長し、優秀な成績のためモスクワの大学に進むことが決まっていました。
母親を残すことに不安を抱きつつも、この時点では希望に包まれていました。
ところがある日、そんな希望はいともたやすく砕かれます。
母親とセラフィマが村に戻ると、村にはドイツ語を話す兵士が押しかけていて、村人を拘束していました。
兵士たちは村人の言い分を無視して彼らを殺害し、母親もまた殺害されます。
残されたセラフィマをひどい目に遭うと思われましたが、ここで新たな勢力が現れます。
新たな道
新たな勢力は村を制圧した兵士たちを殺害し、セラフィマを助けてくれます。
代表者と思われる女性はイリーナと名乗り、心に傷を負ったセラフィマに対して冷酷な一面を見せます。
はじめは死にたいと思っていたセラフィマですが、次第に怒りを燃やし、ついに新たな生きる気力を手に入れます。
それは母親を殺害した狙撃兵と、母親たちを救ってくれなかったイリーナへ復讐を果たすことでした。
一方で、イリーナはそんなセラフィマを受け入れ、彼女を一流の狙撃兵に仕上げ、戦場に送り込むことを決めます。
こうしてイリーナのもとに狙撃兵を目指すこととなった少女たちが集められ、戦場に送るための訓練が始まります。
感想
戦争という問答無用の状況
本書では独ソ戦を舞台に、戦争があらゆるものを破壊し、奪っていく様をこれでもかと描きます。
冒頭、セラフィマの村が彼女を残して殺害されてしまいますが、それはほんの序の口に過ぎません。
セラフィマは狙撃兵として戦場に出ると、その目で多くの敵味方の命が奪われていく様を見せつけられます。
ある時は奪われ、ある時はセラフィマ自身が敵の命を奪います。
憎しみが憎しみを呼ぶ。
泥沼のような戦争が本書において終始描かれ、セラフィマが生きる世界がどこまでも救いのないことが描かれます。
人間の変わりよう
はじめは普通の少女だったセラフィマですが、訓練と実戦によって次第に冷酷な狙撃兵に変貌していきます。
顕著なのは、セラフィマが自分の狙撃で殺害した人間を公言し、称賛を浴びられないことに不平不満をぶちまける時です。
それだけ変貌しなければ生き残れないのが戦場ですが、そうなってしまったことを自覚するとセラフィマは激しく動揺し、変わってしまったことに恐怖を覚えます。
この葛藤は最後まで続くことで、その中でセラフィマは最高の狙撃兵とは何なのか、もし戦いが終わったら狙撃兵はどう生きるべきなのかを考えることになります。
それこそが本書の見どころであり、戦争がただ虚しいものではなかったことにしてくれる要因になっています。
あくまでフィクションである
本書を読んでいて唯一気になったのが、映像化、もっといえばアニメ化を前提のような描写が多く、フィクション感が強いという点です。
キャラクターの味付けしかり、一狙撃兵の活躍としてはちょっと出来過ぎなセラフィマの活躍です。
そこまで協調してこそ物語として面白いということは分かりますが、それでもやややりすぎていたのかなと感じています。
これは好みの問題でしょう。
逆にそこまで明確なフィクションとして仕立てたからこそ、多くの読者に選ばれたと思うので、これは一つの正解だったのかなと思います。
おわりに
受賞作であることをはっきりと示してくれた内容で、あっという間に読めてしまいました。
同時期に珍しくミリタリーものを立て続けに読んだせいか戦争に対する見方が大きく変わり、今後の考え方に大きな影響を与えそうな気がしました。
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