『アリクイのいんぼう 家守とミルクセーキと三文じゃない判』ネタバレ感想!あらすじから結末まで!
「人がハンコを作る時には事情があります」そう語るのは喫茶店にして印章店という『有久井印房』の店主。しかしその姿はどう見ても白いアリクイで、なおかつ少々ふっくら気味。そんな店長をサポートするのは、ウェイトレスの宇佐ちゃんと、キザなカピバラのかぴおくん。「ハンコを作ってください!あれ、なんでシロクマが?」訪れ驚くお客さんに「ぼくはアリクイです」と静かに出されるコーヒー。不思議なお店で静かに始まる、縁とハンコの物語。
「BOOK」データベースより
先日、本屋でメディアワークス文庫の新作を眺めていると、本作を見つけました。
何かビビッとくるものがあったので即買い、家で読もうとしましたが、なんと二巻だったのです!笑
タイトルだけでは続き物かどうか判断できなかったとはいえ、なんたる失策。
慌ててネットで注文し、ようやく手元に一巻が届いてすぐに読み終わりましたので、本作の感想などを記事にしたいと思います。
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どんな作品?
可愛らしい表紙の通り、優しい雰囲気の世界観ですが、決して優しいばかりではありません。
アリクイさんのお店に来る人たちは、それぞれ悩みを抱え、答えを探したくてもがいています。
それを解決してくれるのが、アリクイさんを始めとする『有久井印房』の面々です。
可愛い見た目に反してずばずば物を言う宇佐、職人で気が向いたときにしかしゃべらないカピバラのかぴおくん、タイプライターを嘴で一心不乱に打つ常連の鳩なんとかさん(そう呼ばれている)。
鳩なんとかさんに関しては、著者に代わりジョナサン・ハートミンスターを名乗る鳩なんとかさんらしき鳥があとがきを書いているので、これが本名なのかもしれない。
作中では一言もしゃべらないけど、意外と上から目線。もしかしたら彼がこの作品を執筆しているという設定なのかもしれない。
と、まあ、そんなことは置いといて。さながら動物園のような光景ですが、ここはハンコ屋さんです。
しかし、それだけでは経営が成り立たないということで喫茶店のようなメニューも揃え、客を釣ろうと目論んでいます。意外と現実的。
本書は、年齢も性別も違う人たちがひょんなことから『有久井印房』を訪れ、それぞれの目的に合ったハンコを彫るという、文字で表せばたったこれだけの話。
でも、ハンコには種類によってちゃんと意味があり、その意味を通じて訪れた人たちの悩みが解決していく過程が時に面白く、時に優しい気持ちになれます。
結局、アリクイさんたちは動物なの?
本書の最大の謎。
それは、『有久井印房』の面々が本物の動物なのか否かという問題です。
最初の話である『迷える旅人とミルフィーユと実印』において、江田真夜がアリクイさんに驚いていると、「はい。店長の有久井」ですと、まるで人間かのように名乗っています。
しかも、宇佐は彼のことをふっくらしたおじさんだと言い、こちらも人間であるかのように認識しています。
ということは、お客さんには人間に見えているけど、本当は人間?
さらに気になるのは真夜と宇佐のこのやりとり。
「えっ、お客さんには、わたしが動物に見えるんですか?」
「あなたは……人間に見えるけど」
中略
「なーんだ残念。自分が何に見えるか聞いてみたかったのに。あ、すみません。ずっとしゃべってたら注文選べないですよね」
つまり、宇佐は自分たちが動物に見えていることを知っていることになりますよね。
しかも、この会話の直後、真夜には宇佐のお尻に丸い尻尾があり、頭の横にもウサギのような耳が垂れているのが見えていますし。
ということは、彼らは本来は人間だけれど、何らかの理由で動物に見えてしまっているということになります。
しかし、最後の短編で宇佐の小学生時代から『有久井印房』で働きだすまでの話が描かれていますが、宇佐は正真正銘の人間でした。
また、宇佐が初めて『有久井印房』を訪れた時点で、アリクイさんはすでにアリクイの姿でした。
そうなると、いくつか理由は考えられますが、お店にかけられた魔法もしくは呪いの類でしょうか?
でも、店外においてもアリクイさんはアリクイの姿なので、そういうわけでもなさそうです。
また作中で何度もアリクイさんの師匠の話が出てきますので、今後、重要な人物として登場するかもしれません。
まあ、気になる謎ではありますが、本作ではそんなこと、すぐにどうでもよくなります。
アリクイさんはアリクイ以外ありえませんからね。
彼がアリクイだからこその優しい作風になっているんだと思います。
ただそれはそれとして、今後もこの謎について考察していきたいと思います。
今後の展開を予想
宇佐の物語が描かれているので、いずれかぴおくんや鳩なんとかさん、もっといえばアリクイさん本人にフォーカスを当てた話が出てくるかもしれませんね。
まあ、鳩なんとかさんはこの作品の著者という可能性があり、いわば裏方のような役割を果たしているので、あまり表舞台に出てくることはないと思いますが。
本作では『縁』を大事にしているので、いずれそれまでに出てきた登場人物たちとの『縁』が重要な役割を果たしてくれるかもしれません。
楽しみです。
おわりに
展開の読めないタイトルと表紙からは想像できない、優しく心温まる物語です。
この世界観こそが本書最大の魅力だと思いますので、ぜひその目で体感してください。
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