『奪われた死の物語』あらすじとネタバレ感想!哀しい犯罪をきめ細やかに
平戸、網走、能登、京都と、景勝の地に、花と物語を訪ねる取材グループに加わった独身作家が、知らず知らず巻き込まれていった哀しい犯罪。復讐者の巧妙な罠がついに犯人を捕えた時、浮びあがった異常な執念と、愛にこたえない人を想う苦悩と絶望の果てを、甘美に、きめこまかく描く、長編ミステリーロマン。むくわれない愛の果てを痛切に描く!
Amazon内容紹介より
本書は『花の旅 夜の旅』として刊行されたものを、文庫化される際に改題されています。
ある雑誌社の企画で取材のための旅行が企画され、その様子が小説としても描かれます。
本書は旅パートと作家の手記パートの二段構えになるのですが、それらには隠された真実があり、皆川博子さんの味わいある文章で楽しめるのでとても贅沢です。
この記事では、本書のあらすじや個人的な感想などを書いています。
核心部のネタバレは避けますが、未読の方はご注意ください。
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あらすじ
依頼
印刷会社を営み、その傍らで物書きもしている鏡直弘。
彼のもとに『ウィークエンド』という雑誌の編集者・那智克人から依頼が入ります。
内容は『花の旅』というグラビアを始めるにあたり、季節の花の名所を取材で巡るため、その花をモチーフにした短編を書いてほしいというものでした。
若い女性が読者層ということで鏡に自信はありませんでしたが、那智は彼が適任であることを伝え、彼は依頼を引き受けます。
連載する際のペンネームはアナグラムを利用して『皆川博子』とします。
旅
最初の目的地は平戸で、花はツツジです。
旅には那智の他にモデルやアシスタント、カメラマンにその妻がいて、取材がありつつも、旅行としても楽しみます。
ただし、単なる仲良しの旅行とはいかず、男女関係の絡まった駆け引きが入り混じり、鏡としては決して居心地が良いというわけではありませんでした。
それでも取材をして、関係者から思い出話などを聞き、鏡はそれを小説に仕上げました。
謎
取材と連載が順調に続いていきますが、ある時、取材に同行していた一人が墜死します。
作中で何度も墜死を扱っていますが、そのこととどのような関係があるのか。
加えてその後、鏡が睡眠剤の飲みすぎて亡くなってしまいます。
連載は鏡と同じ新人賞で授賞した針ヶ谷奈美子に引き継がれ、第三弾からは彼女が執筆しました。
奈美子は旅や執筆を通じて、この取材旅行に隠された何者かの思惑に気が付き、真実を明らかにするべく推理を始めます。
感想
構造が楽しめるミステリ
本書はあらすじで記載した通り、構造が複雑です。
旅と手記、さらに旅をもとに記載された短編パートもあり、おまけに作家が途中で交代します。
これによって視点が行ったり来たりして、何が事実で何が創作なのかの境界線が曖昧になっていきます。
整理しながら読む必要がある一方で、そこまで混乱することはなく、それは皆川さんの手腕のおかげだと感じました。
読者は隠された真実を求めて読み進め、気がつくと驚きのある真実が待っているので、ミステリ好きであればまず楽しめる作品です。
ロマンスも楽しめる
本書は執筆されたのが平成前ということもあり、現在とはロマンス要素や書き方が異なります。
個人的にはこれくらい男女としてドロドロしていて、変にルールで抑えつけられることなく開けっ広げに書かれている方が好きなので、ロマンスとしても楽しめました。
ロマンスの裏にはそれぞれの愛情や悩みがあり、そこのきめ細かい描写は皆川ならではのものがあり、こちらも楽しめます。
感覚としては二時間ドラマを見ているというか、情景が浮かんでくるようでした。
派手さはない
本書で唯一留意してほしいのは、読者の予想を裏切るような派手さはないということです。
もちろん驚きはあり、必要十分です。
しかし、それは読者の予想の範囲内にギリギリ収まりそうなところにあるので、どんでん返しというわけではありません。
そのタッチ感が本書にはふさわしいので、僕は大満足です。
これから読む人はこの点を押さえておくと、期待値のコントロールができてよりよい読了感に繋がると思います。
おわりに
皆川さんの作品は折に触れて読みますが、やはり面白いです。
本書ではいつもの幻想感が薄めですが、でもその要素があることで普通のミステリでは味わえない現実離れした感覚を楽しめるので、ミステリ好きであればぜひ読んでみてください。
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