
国民管理のために首輪型嘘発見器着用が義務付けられた世界。少年フラノは非合法の首輪除去で日銭を稼ぐ。強盗犯、痣のある少女、詐欺師など依頼人は様々で危険は日常茶飯事だ。だが彼にはある人のためにどうしても外したい首輪があった。それがフラノを首輪と彼自身の秘密へと導く……愛を乞う少年が辿り着く衝撃の結末とは? 小説推理新人賞とダブル受賞でデビューした超大型新人による第5回アガサ・クリスティー賞受賞作。
【「BOOK」データベースより】
嘘が分かってしまう世界
この世界では首輪型嘘発見器の着用が義務付けられ、首輪をつけたら最後、国外に出ることはできず、一度国内に入れば、出ることはできない。
例えば服の試着中、店員がお世辞を言っても、嘘であれば首輪は赤く光り、客に嘘だとバレてしまう。
嘘をつけばバレるのに、それでも嘘をつかずにはいられない人間の本性。
首輪を外そうとすれば、首輪が絞まって殺される。
それでも自由を求めて、主に富裕層が首輪の除去を求め、少年フラノは彼らの首輪を除去していく。
とある少女を助けるために
フラノはある少女の首輪を除去するために、依頼者の首輪を除去しながらその方法を探していく。
その中で判明していく首輪の秘密、そしてフラノ自身の秘密。
絶望へと落ちていく
はっきり言って、救われない話です。
進んだ先にあったのは、絶望でした。
何度も挫折し、その度に立ち直るのに、それはさらなる絶望の呼び水にしかならない。
作品全体の感想
※ネタバレ注意です。
この作品はフラノの18歳(現在)と16歳の頃を行き来しながら、彼が依頼人たちと触れ合う中で成長、もしくは世界に絶望していく姿を描く、救いのない話です。
しかも、結局何が真実なのかも分からないまま、フラノはその人生の幕を閉じてしまいます。
個人的には、サクラノに告白するシーンで、サクラノは「私も好きよ」と答えますが、その時の首輪が赤く光っているところが、もう辛くてたまりませんでした。
ここまで絶望を繰り返しても、さらなる絶望が待っているなんて、不条理としか言いようがありません。
ただ続編の構想もあるということなので、フラノに代わって誰かがこの世界を変えてくれるのでしょうか?
もしくは、さらなる絶望を突きつけられてしまうのでしょうか?
苦しい読了感に襲われながらも、続編を期待せずにいられない。
この作品は、そういった魅力を秘めています。
これから読む人、これから読み返す人の参考になるように、本作のキーワードなどをまとめてみたいと思います。
本作のキーワードの解説
首輪の種類
・ルル社
四歳児から小中学生まで装着していることが多い。純粋な心の揺れに敏感に反応しないようにワームの嘘判定は緩く設定されている。成長期は首輪の付け替えが多いため、取り外しが比較的簡単。
・ブルーノ社
一番普及している。中高生から中年まで幅広い。ワームの嘘判定は厳しめ。ルル社に比べると構造も複雑。
・パルファン社
七十歳以上の高齢者、身体や精神に障害を持つ人、重病人に装着される。唯一、ワイヤやモーターが搭載されていない。省エネルギー設計で、バッテリーの交換周期は六週間。制限が緩く、一目で分かるように外殻が派手なピンク色をしている。
・ロールシャハ社
主に前科者や犯罪予備軍に装着される。設定が厳しく、除去も困難。
・レンゾレンゾ社
他の四社に比べて圧倒的に数が少ない。どんな人間に着けられているかは不明で、外見は他社のものに似せているため、知識のある人間でも見分けがつかない。また除去者排除のシステムを搭載していている。
→首輪除去者の排除を目的とした首輪。首輪を外した人間が現れると、その家族はレンゾレンゾ社の首輪を装着され、その記憶を消される。今のところ、除去は不可能と言われていて、ハザードオレンジによって被除去者、除去者共に葬る。
用語
・ハザードイエロー
心理状態が不安定になり、破壊試行を探知すると発動するシステム。治安局に発報する仕組みになっている。
・ハザードオレンジ
首輪が近距離に二つある状況で、どちらかのバッテリーボックスのカバーが開かれた状況で、かつ双方の首輪のランプが継続的に赤く光った場合に作動するシステム。一定時間以内に解除しないと、双方の首輪が絞まる。
ハルノがピッピの首輪の秘密を見抜いた理由
ハルノはホテルでの襲撃をきっかけに、ピッピの首輪がダミーであることを見抜きます。
彼女の首輪は、そうというフレーズに反応して赤く光るのです。
彼女、および襲撃者の赤く光った時の言葉をまとめると、
「そうね……じゃあ、名前はピッピ。ピッピって呼んで」(p.244)
「そうかもしれない。そうじゃないかもしれない」(p.246)
「ああすることが必要だったの。治安局の捜査(そうさ)の手を逃れるために」(p.248)
「そうするほかないの」(p.251)
「そうだ」(p.262)
「いずれ逃走(とうそう)にも限界がくる。捕まったらおまえはひどい拷問が待っている。ざまあみろ」(p.262)
「そうよ」(p.292)
「ええ。捜査官じゃない」(p.292)
「そうなるわね」(p.294)
後半が分かりやすいセリフだったので、特定のフレーズで光るということに気が付ければ、意外と簡単だったかもしれません。
ちなみに僕は全く気が付きませんでした。
内容は以上です。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。