
深夜の交通事故から幕を開けた、家族の危機。押し寄せる悪意と興味本位の追及に日常を奪われた母と息子は、東京から逃げることを決めた――。辻村深月が贈る、一家の再生の物語。読売新聞好評連載、待望の単行本化。
【Amazon 内容紹介より】
辻村さんの待望の新作です。
ただ単行本というとハードルがやや高く、ファンの方でも「文庫本まで待とうかな…」となる人も少なくないと思います。
そこでこの記事では、本作の魅力やポイントをネタバレを極力抑えてご紹介しますので、購入にあたって参考にしていただけると幸いです。
ネタバレを気にしないという方はこちらの記事をご参照ください。

以下は本書に関する辻村さんへのインタビューです。
https://otekomachi.yomiuri.co.jp/enta/20180323-OKT8T69980/
テーマは『家族の再生』
近年、辻村さんのテーマに掲げられることが多くなった『家族』というキーワード。
本書はまさしく『家族』の物語です。
東京で平和に暮らしていたはずの三人家族。
ところが、とある事故をきっかけに一家は好奇の目に晒されることになります。
しかも事故に遭った父親は突如失踪し、母親と息子は見えない恐怖に耐えられなくなり、東京を離れて各地を転々とすることになります。
それでも親子を付け回す手が休まることはなく、いつ終わるとも知れない現実に疲弊してしまう。
そんな辛さがリアルに描かれています。
しかし一方で、訪れた各地の鮮やかな風景、温かい人たちに触れ合いが見事に描写されていて、これまで親子が知らなかった幸せも見つかります。
そして、やがて親子は真実を知り、家族の再生に向かって行動を起こす。
おおまかなストーリーはこんな感じです。
初期の作品と比べると、凄惨な出来事は起こらず、そういったジャンルが苦手な方にも安心して読むことができます。
ただ一方で、作品内での起伏はどちらかというと少ないので、ハラハラドキドキしたいという人にはもしかしたら向かないかもしれません。
しかし、辻村さんの胸に染みわたる感動は健在、むしろ増していますので、読んで後悔はしないと個人的には思います。
親子の成長
『家族の再生』に向かう物語ですが、その過程で母親の早苗、息子の力(ちから)が成長していく姿にも注目です。
早苗は優しいけど少々頼りなく、力に対してつい過保護になってしまう。
力は小学五年になって思春期に入りかけ、ちょっと生意気な面も目立ちます。でも、本当は優しい子です。
そんな二人ですが、突然各地を転々することとなり、最初は生きていくだけ必死で、先のことを考える余裕もありません。
今まで当たり前だと思ったことが、実は当たり前ではなかった。
そのことに気が付いた二人は、少しずつ成長しながら自分たちで幸せを手に入れようと必死になって頑張ります。
その過程が読んでいて本当に尊いなと感じました。
守るものがある人は強い。
この言葉に嘘はなく、力を守るために早苗は本当に強くなっていきます。
また力も、小学生なりに母親のことを考え、少しでも力になりたいと頑張ります。
途中から男としての自覚も芽生え始め、女性である早苗を守りたいという気概も出てきます。
物語の最初と最後では、二人はもはや別人。
その過程を丁寧に描いていますので、親子関係に悩んでいるご両親、お子さん、もしくは将来子供を持ちたいと考えている方には特におすすめです。
もちろん、そうでない方にもおすすめですよ。
この尊さは、一見の価値ありです。
家族とは
そして最後に、家族とは何かを考えさせられました。
当たり前のように側にいてくれるため、時には疎ましく思い、気持ちとは逆のことを言って傷つけてしまうこともあります。
でも、無償の愛を注げるのもまた家族なんですよね。
早苗と力もお互いの距離感に困惑し、愛情ゆえにぶつかってしまうこともありますが、次第にその本当の大切さに気が付いていきます。
父親を一度失ったからこそ、そこに行き着けたのかもしれません。
先ほどの成長の話もそうですが、これもまた尊いことですよね。
ただどの家庭でもこんなハードな人生を送っていたら大変ですので、ぜひ本書を読んで家族の大切さを再認識してください。
日常の中にこそ、幸せはあるだと確信しました。
最後に
あまり内容に触れていないので参考にならないかもしれませんが、僕が本書から受け取った感動をネタバレなしに語るのはそれだけ難しいのです。
なので、もしこの記事を読んでそれでも悩むのであれば、ぜひ購入して読むことをおすすめします。
それが運命の出会いというやつかもしれませんので。
ますます華々しい活躍をされる辻村さん。
今後も目が離せません。
辻村さんのランキングを作りました。
