
ミナミコアリクイの店主が営む『有久井印房』は、コーヒーの飲めるハンコ屋さん。訪れたのは反抗期真っ只中の御朱印ガール、虫歯のない運命の人を探す歯科衛生士、日陰を抜けだしウェイウェイしたい浪人生と、タイプライターで小説を書くハト。アリクイさんはおいしい食事で彼らをもてなし、ほつれた縁を見守るように、そっとハンコを差し伸べる。不思議なお店で静かに始まる、縁とハンコの物語。
【「BOOK」データベースより】
一巻に続き、二巻も読みましたので記事にさせていただきました。
前作同様、温かい世界観は健在ですが、さらに個性的な登場人物が現れ、それに合わせて鳩見さんの文章も多彩です。
好みはあるかもしれませんが、これだけ書き分けられるのは本当にすごいなと感心してしまいました。
そして、一巻の記事にて考察したことについても、一部は答えが見えましたので、そこも併せて書いていきたいと思います。
変わらない世界観
アリクイさんをはじめ、『有久井印房』の魅力的な面々は健在です。
そして、そこに現れる人物たちの悩みもまた、表紙からは想像できないほど重たいものでした。
でも、冷静になってみればその悩みを解決するカギはいつでも身近なところにあり、アリクイさんはそれに気が付かせてくれます。
見た目だけでいえばゆるキャラなのに、彼が語る言葉は誰よりも優しくまっすぐで、心に浸透していきます。
また、これまでの登場人物とは関係ないキャラもいれば、既出の人物の知り合いが登場することもあり、川沙希の望口という場所にどんどん縁が広がっていくのが、読んでいてほっこりしました。
癖が強い人もいて、みんながみんな知り合いになりたいとは到底思えませんが笑
舞台はあそこ?
川沙希の望口が舞台だと本書で書かれていますが、この時点で、気が付かれた方も多いはず。
この地名は、神奈川県にある川崎市溝の口をモチーフにしています。
著者の鳩見さんが神奈川県出身とあったので、おそらくそれが理由でしょう。
また溝の口がモチーフだと断定した理由として、本書のp.23の野菜(のな)の台詞が挙げられます。
彼女が出発した望口駅から目的地の高幡不動まで一番安い電車賃で行くと四百十二円かかり、所要時間も一時間ちょっとかかると書かれています。
そして、出発駅を溝の口駅に変えて検索すると、ビンゴ。まさにこの通りでした。
名称からして隠す気などないと思いますが、確証を得られるととてもすっきりします。
鳩見さんは、この地に思い入れがあるのでしょう。
考察の続き
前作で色々と考察しました。
そして、以下の点について答えが見えてきました。
本書は鳩なんとかさんが執筆している?
これは長めのあとがきとして鳩なんとかさんの生い立ちが書かれているので、明白でした。
鳩なんとかさんの本名はジョナサン・ハートミンスターで、やはり前作のあとがきの通り、この物語を執筆している著者でした。
しかも驚いたことに、彼はブンシバトという種類の本物の鳩だったのです。
おまけに人間の通う学校に通うというとんでもない設定で、この辺は深く考えないのが吉でしょう。
この世界観からすれば、この程度は全く問題ではありません。
この学校にてかぴおくんことカンピオーネ(本名かは不明)と知り合いますが、彼もまた本物のカピバラだったのです。
かぴおとは彼がカピバラだからそう名乗っているのはなく、『カンピオーネ』と伝えようとしたが日本語が拙いため、かぴおと勘違いされてしまったとのこと。
彼らが仲が悪いのは、学生時代に『バリツ』と呼ばれる競技で何度も対戦したことによる因縁と、ある女性を巡った三角関係にあるからです。
その女性というのが、『有久井印房』の向かいにある『一寸堂』という文房店で働く通称『チョットさん』です。
ちなみに彼女はれっきとした人間です。
チョットさんは既婚ですが、鳩なんとかさん曰く、かぴおくんに思いを寄せているらしい。
しかし、かぴおくんと鳩なんとかさんがケンカしていると、いつも笑顔で眺めているため、おそらく二人が仲良くしているのが嬉しいだけでしょう。
従業員と鳩なんとかさんは本当に動物なのか?
これはまだ全てが分かったわけではありませんが、かぴおくん、鳩なんとかさんは間違いなく動物です。
その証拠に、アザミが髪の色を警戒色である赤色に染めてきた日、おののいているからです。
また、宇佐に関してはおそらく人間です。
野菜をお店に連れてきた際、店の奥に消えると耳としっぽをつけて出て来たので、ある種のコスプレですね。
しかし、肝心のアリクイさんについて。
これが本書においても謎のままになっています。
これには鳩なんとかさんも言及していますが、アリクイの容姿なのに人語を話し、かぴおくんたちとは違ってアザミの赤い髪にも反応しない。
人間でも動物でもない。でも、どちらであるようにも感じられるという、何とでもとれそうな感想で終わり、鳩なんとかさんはそれ以上追及しませんでした。
おそらく、アリクイさんの正体はこの物語の肝になってくるのでしょう。
最後に
前作以上に温かい世界観、そして依然として残るアリクイさんの謎。
気になる。
けれど、知る時、それはこの物語が終わる時なのでしょう。
知りたいけど知りたくない。
そんな複雑な心境になりながらも、次作を楽しみにせずにはいられません。