『ラーゼフォン 多元変奏曲』あらすじとネタバレ感想!あの感動が形を変えて分かりやすく
異次元から出現したMUが、木星に似た絶対障壁の半球に東京を包み、外部と隔離して3年。内部に残った神名綾人の前に紫東遙という女性が現れ、絶対障壁の外に彼を連れ出そうとする。実は綾人こそ、MUとこの世界を変革する力を持つ時間調律師だった。綾人が巨大神像「ラーゼフォン」と一体化した時、世界は崩壊する…。
dアニメストア for prime video より
何かとエヴァやライディーンなどが引き合いに出され、低評価の連発をくらう本作ですが、僕は大好きです。
そしてこのテレビ総集版+結末を変えた『多元変奏曲』はラーゼフォンという作品が素敵だということを、多くの人に知らせるためにうってつけの作品です。
難解なストーリーをシンプルにして、主軸だった綾人と遥の恋愛によりフォーカスを当てることで、物語の目的が常に何なのかがぶれないようになっています。
テレビ版を見たことがないという人でも、本作から入ると作品が理解できて、テレビ版もきっと見たくなるはずです。
この記事では、本作のあらすじや個人的な感想を書いています。
ネタバレになりますので、未視聴の方はご注意ください。
あらすじ
あの頃の二人
夕暮れに染まる放課後の教室に、神名綾人と美嶋遥はいました。
二人はこの時点で付き合っていて、キスしようとしているところを同級生の朝比奈浩子に目撃されてしまいます。
浩子の手には手紙が握られていて、慌てて取り繕う様子からも、綾人に告白・あるいはそれに類似のことをしようとしていたことは明白。
綾人は浩子のもとに向かおうとしますが、遥は彼の袖を引っ張ってそれを止めます。明確な独占欲が感じられます。
テレビ版ではイシュトリとして登場していたため大人になった遥とは異なる、神秘性が強かったですが、本作の少女だった遥は年相応に幼く、大人になった遥との繋がりがしっかり感じられます。
浩子は立ち去ってしまい、帰り道が気まずい二人ですが、綾人は思い切って遥を自宅に招待。
ここで仕切り直しかと思われましたが、自宅には珍しく母親の麻弥がいて、綾人はふてくされます。
何かと邪魔される二人ですが、別れ際に遥の帰省後、初詣に行く約束をします。
初雪もあって喜ぶ二人ですが、この約束が果たされることはありませんでした。
TOKYO JUPITER
突如、謎の兵器が現れ、応戦する戦闘機を破壊していきます。
帰省中だった遥が目にしたのは、東京が謎の半円のドームに覆われていくところでした。
ドームの表面は土星のような模様をしていて、後に『TOKYO JUPITER』と名付けられます。
遥は綾人の名前を絶叫しました。
三年後
MUの来襲などなかったかのように、綾人は平穏な日々を送っていました。
東京には2,300万人が残されていて、外の人間は全て死んだのだと教えられていました。
遥に関する記憶が薄れる中、彼女の幻想を見ることがあり、どこか違和感がある生活をしています。
綾人が浩子、鳥飼守と電車で移動している時、突如電車が何かの衝撃で横転してしまいます。
浩子や守が怪我を負う中、綾人は助けを呼ぼうと外に出ますが、そこでは戦闘機や戦車による戦闘が行われていました。
事情が呑み込めない綾人ですが、その時、遥の幻想が現れ、彼をどこかに誘います。
ついていった先は封鎖された地下鉄の構内で、そこで謎の黒服たちに襲われそうになりますが、今度は謎の女性が黒服たちを撃退してくれます。
女性は黒服たちの血が青かったこと、世界のことについて教えてあげるといい、その人こそが紫東遥、つまり大人になった遥でした。
TOKYO JUPITERの中と外では時間の流れるスピードが五倍も違っていて、綾人が過ごした三年は遥にとっての十五年でした。
警戒する綾人ですが、麻酔によって眠らされ、そのまま遥によって半ば拉致のような形で連れて行かれます。
ラーゼフォン
遥は用意していた戦闘機で脱出するつもりでしたが、途中でコントロールが効かなくなり、機体は謎の建物に吸い込まれていきます。
そこは世音(ぜふぉん)神殿と呼ばれる場所で、地下にも関わらず空があり、割れた巨大な卵がありました。
卵の中にはラーゼフォンがいて、綾人は操られるようにしてラーゼフォンに乗りこみます。
混乱する綾人。ここで彼の母親が単なる女性ではなく、何らかの組織の偉い位置にいることが分かります。
麻弥は綾人を連れ戻そうとして頬に怪我を負い、そこで彼女の血もまた青いことが判明します。
綾人の混乱はますます深まり、遥をラーゼフォンの手で守りながら上空に移動します。
そこで追ってくるドーレムと対峙。
初めての戦闘ですが、ラーゼフォンの圧倒的な力と綾人の奏者としての資格が目覚め、ドーレムを撃退します。
綾人はそのままTOKYO JUPITERの外に出ていくのでした。
TERRA
外に出た綾人は、東京以外の人類が生きていることを本当に知ります。
そして、MUを倒さなければそれらの人類が滅亡してしまうことも知り、ラーゼフォンでの協力を申し込まれます。
戦うということは、麻弥をはじめとした元々いた場所や人たちへの裏切りであり、とてつもない葛藤が彼を襲います。
まだ決意がつきませんが、そこで綾人と遥に迎えがきます。
遥はMUに敵対する組織・TERRAに所属していて、ここから綾人はTERRAに保護されることになります。
居場所
新たな居場所を得たように見える綾人ですが、実際はTERRAの管理下に置かれただけでした。
最初の血液検査でMUフェイズ(ムーリアン化)の反応が見られ、いずれ綾人が人間からムーリアンになってしまうことが分かりました。
それでも一人の人間として扱いたい遥と、あくまで利用できるうちは利用するというスタンスのTERRA。
もちろんTERRA側も理解している部分はありますが、それだけムーリアンが危険な存在であることが分かります。
遥は疑心暗鬼な綾人を連れて、六道翔吾の家に行きます。
六道は遥の叔父で、そこには遥の妹・恵も住んでいました。
親戚づきあいのなかった綾人ですが、六道の温かさに触れ、TOKYO JUPITERの外における本当の居場所を得ます。
テレビ版では、恵は次第に綾人に惹かれていきますが、劇場版ではあくまで同居人の域を出ず、家族のような描写に留まります。
ちなみにあとになって判明しますが、六道はかつて考古学者をしていて、TERRAやMUの事情に詳しく、重要人物であることが分かります。
また一時期、麻弥を引き取って育てていたこともあり、綾人の祖父にあたることになりますが、これは綾人本人には明かされません。
再度の脱出
ここからかなり省略され、綾人が一度、TOKYO JUPITER内に連れて帰られるイベントが発生します。
麻弥は洗脳に近い形で綾人をコントロールしようとしますが、奏者を求めたラーゼフォンの登場によって失敗に終わります。
また浩子も同時にクローズアップされ、鳥飼の血が青いことで強い違和感を覚えて飛び出します。
その結果、綾人と偶然出会い、彼は浩子を連れてTOKYO JUPITERの外に再度でます。
この時点で浩子の血もまた青いことが判明していて、彼女がムーリアンとして目覚めていることが分かり、後の伏線にもなっています。
守りたいもの
TOKYO JUPITERから出た綾人はTERRAに戻らず、浩子との逃避行を続けます。
長くは続かないことを分かりつつも、考える時間が欲しいだと。
綾人は日雇いのバイトをしながら生活費を稼ぎ、浩子は長くは続かないとは理解しつつも、今の状況に幸せを感じていました。
そこに新たなドーレムが現れ、綾人は浩子を守りたいことを打ち明けてからラーゼフォンに乗りこみます。
浩子もまた彼を見送りますが、すぐあとにドーレムと同調してしまいます。
それによって綾人の攻撃は結果として浩子を傷つけることになり、最終的に彼女を殺害してしまいます。
そのことに気が付いたのは、町の明かりを利用した浩子からのメッセージを見た後で、綾人に大きな傷を作る出来事となりました。
原作やスパロボでも有名な『ブルーフレンド』です。
遥の正体
TERRAに戻された綾人。
ここで彼と遥は強く惹かれ合い、肉体関係を持ちます。
監視下に置かれていることなど関係なく、二人はお互いを必要としていました。
その後、恵の口から遥の苗字は再婚後のもので、旧姓は美嶋であることが明かされます。
綾人はここでようやく長年思い続けてきた遥本人であることを知ります。
最終局面に向けて
ここからラストに向かって各方面へ進展が見られます。
まずTERRAはTOKYO JUPITERを消滅させるための『ダウンフォール作戦』を準備していることが明らかになります。
それから六道の語りによって、麻弥の過去が明らかになります。
彼女は綾人と同じく奏者で、かつて神名という恋人がいて、彼の子どもを身ごもっていました。
六道は様々な事情を知りつつも、二人を祝福します。
しかし、バーベム財団は麻弥のお腹の中にいる子どもの存在を知り、奏者と他の人間が交わることをよしとしませんでした。
六道は二人を逃がしますが、神名は後に死体となって発見されます。
それでも麻弥は発見されず、見つかったのはTOKYO JUPITERが展開された後でした。
六道はその時と同じく、綾人がどんな決断をしても受け入れる準備が出来ていますが、遥はそうではありませんでした。
決行
ついにダウンフォール作戦が決行され、TOKYO JUPITERが消滅します。
同時に綾人のキスによってもう一人の奏者である久遠が目覚めます。
ここからは様々なシーンが入り乱れます。
綾人は再びラーゼフォンを乗ることを決め、それを遥が止めようとしますが、彼の決意に負け、見送ります。
TOKYO JUPITERが消滅した結果、MUが全世界に現れて破壊活動をはじめ、明らかに作戦は失敗でした。
戦いが激化する中、奏者として完全に目覚めた綾人はラーゼフォンと一体化し、真聖ラーゼフォン(アヤトゼフォン)となります。
あらゆるものをその歌声で破壊し、世界の調律が始まりました。
久遠もまたベルゼフォンと一体化して真聖ラーゼフォン(クオンゼフォン)と化し、アヤトゼフォンと生死をかけた戦いを始めます。
決意
世界の命運が二体のゼフォンに握られたように見えましたが、遥は様々な後押しもあって自分にできることをしようと決意。
戦闘機で二体のゼフォンの間に入り、撃破されたように見えました。
しかし精神世界のような場所で綾人と会い、彼が時の狭間に残ることを聞かされます。
綾人は遥に生きていてほしいことを伝え、その代わりに彼女が希望する過去が与えられるといいます。
遥の望む過去。
それは綾人と一緒に大人になる過去でした。
結果、遥は綾人と一緒に大人になり、結婚した過去が与えられます。
調律後の世界
アヤトゼフォンはクオンゼフォンを倒し、自らの望む形で世界を調律します。
それは久遠もまた望んでいた形であり、唯一、バーベム卿だけが望んでいないものでした。
バーベム卿は直後に功刀によって銃殺され、邪魔なものはいなくなりました。
それから六十年が経過。
遥はおばあちゃんになり、神名玲香という孫娘と話しています。
玲香の見た目はイシュトリとして現れる遥そっくりですが、性格はかつての遥そっくりで天真爛漫です。
最後に調律者となった綾人が現れ、彼はかつての姿のままでした。
遥は彼に誘われ、どこかに消えてしまいます。
玲香は『また』と口にしていることから、二人が会っているのはこれがはじめてではないことが分かります。
彼女が遥を探すシーンで、物語は幕をおろしました。
感想
シンプルで分かりやすい
僕はある程度事前知識がある状態でテレビ版を見ましたが、それでもかなり難解でした。
複雑な設定に、数多くの人物の思惑が合わさり、紐解かないことには到底理解できない内容でした。
その点、劇場版はいたってシンプルです。
綾人と遥のラブストーリーとして展開しているため、関係ない人物は登場しない、あるいは最小限の登場におさえられています。
そのため動きを追う人物が減り、目の前の物語を追えば良い形に仕上がっています。
途中を端折ることでどうしてこの展開?と初見の人は思うところもありましたが、それも許容範囲内だっため、全体としてシンプルでよくまとまっていると思います。
醜いエゴが少なめ
原作では各人物のエゴがこれでもかと詳細まで描かれ、かなり精神的にくる部分がありました。
本来は真っ直ぐだったものが歪んだりして、誰が明確な悪だというよりも、誰でも場合によってはそうなってしまうという世界の理不尽さのようなものが描かれていました。
ところが本作ではそういったものがかなり排除されていて、バーベム卿が明確な悪として描かれているくらいです。
アニメ版ではあれだけ喚き散らしていた一色も登場が少なめで、良い意味で目立っていません。
樹まわりもスッキリしていて、べたついていないものグッドです。
正直、劇場版⇒テレビ版とみると、この違いにビックリすると思います。
昼ドラのようなドロドロした展開が好きな人にはテレビ版もオススメしますが、綾人と遥のラブストーリーに満足できたという人は、ここで止めておくもの手です。
この辺りはぜひお好みで。
等身大の遥が良かった
テレビ版も見た身としては、中学時代の遥が等身大で非常に良かったです。
初詣の申し出について二度も大きく頷くシーンなんて、イシュトリとしての彼女では絶対に想像できません。
その少女が紫東遥になったからこそこの物語は成立するわけで、そこが明確に示されていたことが本当に良かった。
恵が綾人を諦めて格好つけるシーン、功刀さんの男気など惜しくも漏れてしまった名シーンがたくさんありますが、それを差し引いても名作がブラッシュアップされて、世間一般的に評価されやすい形になったことは嬉しい限りです。
おわりに
テレビ版を見て挫折した人。
噂で躊躇している人に、本作が分かりやすい名作であることを宣言します。
エヴァやライディーンと比べる必要はなく、SFを組み込んだラブストーリーとして金字塔と呼ぶにふさわしい作品なので、ぜひ見てみてください。