小説

小説『ハーモニー』優しさで人を殺す 伊藤計劃【著】

 

今回ご紹介する本は伊藤計劃さんの「ハーモニー」です。

「虐殺器官」で2007年にデビューし、その二年後に肺がんで亡くなられた小説家で、僕は彼の死後、彼の作品が映画されるのをきっかけに知った人間の一人です。

 

「虐殺器官」に関してはどこかで時間をとって書こうと思いますが、彼の残した三十枚の原稿をもとに友人の円城塔さんの書いた「屍者の帝国」は割愛したいと思います。

伊藤計劃さんの書き方を意識されたんだとは思いますが、どうしても冗長な文章が受け付けませんでした。

 

しかし映画化もされ、原作の世界観が失われることなく再現されていますので、映像が好きだという方は映画から入るのもありだと思います。

それでは、まずはあらすじを。

 

21世紀後半、「大災禍」と呼ばれる世界的な混乱を経て、人類は大規模な福祉厚生社会を築きあげた。医療分子の発達で病気がほぼ放逐され、見せかけの優しさや倫理が横溢する“ユートピア”。そんな社会に倦んだ3人の少女は餓死することを選択したーそれから13年。死ねなかった少女・霧慧トァンは、世界を襲う大混乱の陰にただひとり死んだはずの少女の影を見るー「虐殺器官」の著者が描く、ユートピアの臨界点。第30回日本SF大賞受賞、「ベストSF2009」第1位、第40回星雲賞日本長編部門受賞作。

【「BOOK」データベースより】

 

作品中で明示されていませんが、「ハーモニー」は「虐殺器官」の続編にあたります。

虐殺器官のネタバレになりかねないので詳しい話はできませんが、虐殺器官の話の流れで大災禍(ザ・メイルストロム)と呼ばれる全世界での戦争と未知のウィルスが蔓延し、従来の政府は崩壊してしまいます。

 

その後、「生府」によって高度な医療経済社会が築かれ、人類は皆、世界のリソースとしてその命が大切に扱われ、人に優しくすることが当たり前、自殺さえ許されない、そんな社会が出来上がりました。

現在、我々が暮らしている年代と100年も離れていないのに、かなり遠い未来のような世界が広がり、まるでドラえもんの世界のように現実感がありませんでした。

 

僕らにとっては当たり前の制度、慣習、物、そのどれもが過去の遺物と化し、もはや人々のほとんどがその存在すら知りません。

だからいつかこんな未来が訪れるのだろう、という実感は一切湧きませんでした。

 

まあ、SFなので当たり前ではあるのですが。

しかし、それで良かったと思います。

 

だってこの世界、ある意味では命を奪われる世界と同じくらい怖い世界だからです。

本書を読んでいる時はキァンの視点を通じて彼女の世界に対する憎悪で感じられますが、映画を見てみると、自分の感覚としてもそれが分かります。

 

「真綿で首を締めるような、優しさに息詰まる世界」

 

この世界を表現するのに本当にぴったりな表現だと思います。

彼らが優しくするのは感情からくるものもあると思いますが、大部分がそういう社会だから。

 

そこに人間の意志なんて含まれていないのです。もし含まれているとしても、果たしてそれは意志と呼べるのでしょうか?

幸福なタイトルとは裏腹に明るい絶望に向かって進んでいく世界と、それに抗うトァン。

 

真の理想郷を手に入れたとき、社会はどうなってしまうのか。

僕らがきっと思い描くであろうユートピアとは全く違う世界が本書には広がっています。

 

ぜひ、一読してみてください。

ネタバレですが、wikipediaのストーリーがとても簡潔にまとめられていたので、そちらを参照いただければと思います。

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